医療機器開発におけるシステムとプロセスは複雑化の一途をたどっている。そのようななか、「モデルベース開発」に基づいた効率的な開発アプローチを提案するのが、数値解析ソフト「MATLAB」とシミュレーションソフト「Simulink」を展開するMathWorksだ。米MathWorksで医療機器分野のインダストリーマネージャを務めるArvind Ananthan氏に、近年のメディカル領域における課題傾向と、そこへのMathWorksのアプローチについて話を聞いた。

複雑化が進む医療機器開発の現場

心電図の信号解析や画像解析、新薬開発、診断のための意思決定システムなど、メディカル・ヘルスケアの現場では多くのテクノロジーが活用されてきた。センサ技術が飛躍的に発展した近年では、ビッグデータを医療機器開発や研究開発、現場での医療行為に生かそうという取り組みが進んでいる。そんな中、あらためて課題になり始めたのが、開発プロセスやワークフローの複雑化だ。

特に、医療機器開発においては、開発要件が多様化し、実装技術の高度化などもあり、安全な製品を迅速に開発することが難しくなってきたという。加えて製品リリースまでのテストや、規制当局から承認を得るために必要不可欠なドキュメント作成などにも時間がかかるようになった。

米MathWorks インダストリーマーケティング部 Arvind Ananthan氏

そうした中、効率的な製品開発に向けて採用が進んできているのが「モデルベース開発(Model-Based Design)」だ。モデルベース開発とは、自動車や航空宇宙分野における制御系のシステム開発などで利用されている、抽象度の高いモデルを構築し挙動をシミュレーションしながら開発していくというアプローチだ。米MathWorksのArvind Ananthan氏は、モデルベース開発について、次のように説明する。

「従来の開発アプローチでは、紙ベースの要求仕様書をもとに手作業で設計、実装、単体テスト、結合テストなどを行うウォーターフォール型のワークフローとなります。これに対しモデルベース開発では、モデルを中心にした一貫性のある開発を行い、テストや検証を設計段階からモデル上で実施します。これにより、ムダがなく、安全でスピーディーな製品開発が可能になります」(Ananthan氏)

従来型開発(写真左)とモデルベース開発(写真右)の比較

モデルベース開発のメリットとは

Ananthan氏によると、モデルベース開発のメリットは、大きく以下の4つがある。

表1. モデルベース開発のメリット
1. 実行可能な仕様書としてモデルを扱える
2. 要求仕様書とのトレーサビリティ
3. 継続的かつ早期の検証が可能
4. ドキュメント、レポートの自動作成


1. 実行可能な仕様書としてモデルを扱える

モデルをベースにするということは、仕様書そのものがモデルとなり、それが実行可能(Executable)になるということだ。たとえば、MathWorksが提供するMATLAB/Simulinkでは、アルゴリズムのシミュレーション環境が提供され、プロトタイピングテスト用コードや量産製品に適用可能な実装用コードを自動生成することができる。Cなどのブログラムコードを手作業で作成する必要は基本的にない。

2. 要求仕様書とのトレーサビリティ

また、医療機器用ソフトウェアの開発と保守に関する安全規格である IEC 62304では、ソフトウェアの要件がどのように定義され、それらがソフトウェアとしていかに実装されているか、実装がどう検証されているのかを各工程において記録することが求められている。モデルベース開発では、要求仕様書に記述されている要求仕様、仕様を元に作成されたモデル、モデルから生成されたソースコード、さらにはソースコードから得られたオブジェクトコードにいたるリンクを含むトレーサビリティレポートにより、より容易に管理することが可能となる。このようにトレーサビリティを確保することで、開発の後期で要求仕様や設計、コーディングにミスが見つかり、手戻りが発生するような事態を防ぐことができる。

3. 継続的かつ早期の検証が可能

継続的かつ早期の検証というのは、単体テストや結合テストなどを開発や実装が終わってから行うのではなく、仕様策定、設計、実装、統合の各段階から継続して検証を実施していくことで、早期に不具合を見つけることだ。開発だけでなく、製品リリース後のメンテナンスや次期製品の開発にもつなげることができる。

4. ドキュメント、レポートの自動作成

先に述べたトレーサビリティレポートや、テスト・検証のドキュメントやレポートの自動作成は、本来の業務から外れた作業にとられる時間とコストを削減できるだけでなく、医療分野でさまざまに存在する規制に準拠した形式で出力できるといったメリットがある。

開発効率が数倍~数十倍になるケースも

Ananthan氏は、モデルベース開発の具体的な効果について、「医療機器の分野でも、海外を中心にモデルベースデザインを取り入れて大きな成果を上げる企業がではじめています。それまでの開発から効率を数十倍高めたケースも少なくありません」と説明する。

モデルベースデザインの採用は、開発効率を大幅に向上する可能性を秘めているという

たとえば、診断機器や医用イメージング機器を開発する米フィリップスヘルスケア(Philips Healthcare)では、FPGAの開発製造現場にモデルベース開発を採用し、それまで1週間かかっていたテストや検証が30分で終わるようになった。また、ジョンソン&ジョンソングループのエチコン(Ethicon Endo-Surgery)では、外科手術用ステープラーの試作品開発を18ヵ月から3ヵ月に短縮した。そのほか、ドイツの医療機器メーカーのワインマン(Weinmann)が人工呼吸器の開発に適用したケースや、スイスのソノバ(フォナック)が補聴器開発に適用して効果を上げているなど、多くの実績があるという。

従来の医療分野だけでなく、最新テクノロジーを使った新しい製品も登場している。たとえば、医療系テクノロジーベンチャーのアイソニア(iSonea)は、小児喘息向けのウェアラブルデバイス「AirSonea」とスマートフォンアプリを開発した。子供のゼーゼー音から兆候を読み取り、症状の深刻度や経年の変化を医師や家族にただちに知らせることができるというものだ。MATLAB/Simulinkによるモデルベース開発が全面的に採用され、喘息を検知、診断するアルゴリズム開発、それらのアルゴリズムをポータブルデバイスおよびクラウド上のサーバーに実装するためのコーディングの自動化、コードのメンテナンスとパフォーマンス改善といった面で、大きな成果を上げたという。

医療・ヘルスケア領域での取り組みが加速

さらに、Ananthan氏は、医療機器開発の現場だけでなく、ビッグデータを解析することで、診断や治療に役立てる取り組みも大きく進歩していると指摘する。たとえば、信号や画像の大規模データセットから機械学習によってパターンを抽出し、心電図のデータから症状を読み取ったり、血液組織の画像から自動的に寄生虫を識別したりするといったことができる。こうした信号処理、画像処理、データ解析、モデル作成などは、MATLAB/Simulinkが提供するさまざまなToolbox(機能を拡張する追加モジュール)を利用することで簡単に実施できる。

「メディカルやヘルスケアの領域は、安全の担保の点もあり、新しい取り組みについては他業界と比較して慎重な面があります。ただ、モデルベース開発は、規制当局のFDA(米食品医薬品局)自身が取り組みを推進しています。MathWorksも、FDAの下部組織であるCDRH(医療機器・放射線保健センター)と協力して調査研究にあたっています。取り組みはまだ始まったばかりです。これからさまざま領域が融合する中で、新しい取り組みがどんどん出てくるはずです」(Ananthan氏)

同氏が語るように、MathWorksでは、製品提供だけではなく、モデルベース開発の成熟度モデルの提供や、コンサルティング、システム開発支援も行っている。国内メディカル領域での取り組みもこれから大きく加速しそうだ。

(マイナビニュース広告企画 : 提供 MathWorks Japan)

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