近年、「モバイル」「クラウド」「ビッグデータ」などITがめざましく進化し、それに伴い、決済インフラ・決済サービスにも変化が生じています。クレジット業界の発展に貢献する決済サービスのIT化とは具体的にどのようなものか、どんな課題があるのか――。日本クレジット協会の前副会長でもある、三井住友カード株式会社の島田秀男社長にお話をうかがいました。

消費税増税の影響を受けて個人消費の動向はどう変化したか

三井住友カード株式会社 代表取締役社長 兼 最高執行役員 島田秀男氏

大久保涼香氏(以下、大久保氏):これまでの日本経済はデフレが続き、個人消費も伸び悩む状況でしたが、アベノミクスによる景気回復の兆しや雇用・所得環境の改善の動きが見られるようになってまいりました。クレジット業界も同じく苦しい時期を過ごしてまいりましたが、そのような中でも、クレジットカードは堅調に推移してきており、平成24年の信用供与額は前年比で7.4%増となりました。

しかしながら、一方で、この4月より消費税が8%に上がり、徐々に回復してきていた個人消費の動向が注目されていますが、クレジット業界への影響はいかがでしょうか?

島田秀男氏(以下、島田氏):アベノミクス効果により、個人消費は昨年年央頃から基本的には順調な拡大傾向をたどってきました。年度後半には消費税増税前の駆け込み需要も徐々に加わり、これがピークに達した今年3月のクレジットカードのショッピング取扱高は、日本クレジット協会が毎月公表しているクレジットカード動態調査によると、前年同月比24.9%増と記録的な伸び率を示しました。

一方、3月にこれだけの盛り上がりがありましたので、4月以降の反動減を随分心配いたしましたが、経済産業省の特定サービス産業動態統計の速報によりますと、4月のクレジットカードショッピング取扱高は前年同月比10%増と、平成24年の前年比増加率7.4%を上回る増勢をみせており、4月に限っていえば、消費税増税に伴う駆け込み需要の反動はほとんどないといえます。

多くの経営者の方々が「消費は底堅く、駆け込み需要の反動減は長期化しない」との見方を示されており、もとより予断は禁物ではありますが、消費税増税の影響は、クレジット業界にとって限定的なものに留まるものと思われます。

キャッシュレス化の進展によって今後に期待できることと、その課題

キャスター 大久保涼香氏

大久保氏:業界を取り巻く経済環境・社会環境をどうご覧になりますか?

島田氏:今後の我が国のクレジット市場を展望すると、キャッシュレス化の流れを背景にクレジットカードショッピング市場が拡大していく一方で、IT活用により決済インフラや決済サービスが大きく変化していくものと思われます。

まず、我が国のクレジットカードショッピング市場をみてみると、リーマンショックが発生した翌年の平成21年のショッピング取扱高が前年比4.4%増、平成24年が前年比7.4%増と、リーマンショックの影響を受けながらも、キャッシュレス化の進展を背景に高い伸長率を維持してきました。

これに伴い、ショッピング取扱高の民間消費支出に占める割合も平成24年が18.5%と、年々着実に増加してきておりますが、その割合は欧米諸国や韓国などと比べるとまだまだ低く、EC市場の拡大などに伴う一層のキャッシュレス化を背景に、国内のクレジットカードショッピング市場は今後さらに成長する余地は十分あるものと思われます。

一方で、我が国の経済を振り返りますと、アベノミクスの初期段階では、過度の円高の是正とこれを織り込んだ企業業績の回復期待が、大幅な株高とそれに伴う「資産効果」をもたらし、高額商品を中心に個人消費が回復してきました。

こうした安倍政権の動きに呼応して、最近では、産業界においても、ベースアップの再開や賞与の増額を行う企業が相次ぎ、実体経済面でも、給与所得が増加する素地が整いつつあり、マクロ経済の好循環が個人消費を支えるステージに入ってきているように思われます。

このような観点から、個人消費は消費税率引き上げの影響を吸収し、回復軌道に乗って いくことが見込まれますが、こうした個人消費の回復傾向にキャッシュレス化の流れが相まって、クレジットカードショッピング市場は、今後着実に成長していくものと思われます。   なお、ショッピングについては、取引の小口化に伴い、処理コストが上昇しており、システムや人件費などのコストマネジメントの重要性が、今後ますます高まってくるものと思われます。

次に、ITの活用による決済インフラなどの変化についてですが、モバイル、ソーシャルネットワークサービス、ビッグデータ、およびクラウドなど、最近のIT技術の進歩には目を見張るものがあります。クレジット業界においても、ITを活用した新たな決済インフラや決済サービスが相次いで開発され、これらを擁した内外の異業種企業による参入が活発化しています。

例えば、加盟店の決済端末についてですが、スマートフォンなどを活用した安価な決済端末が普及することにより、これまで現金決済が中心であった個人事業主や中小事業者などの、いわゆる「スモールビジネス市場」において、今後、クレジットカード決済が大きく拡大していくものと思われます。

また、クレジットカード機能がスマートフォンの中に格納されるようになり、小口決済を中心に、カードレス化が一層進展していくものと思われます。

こうしたカードレス化に加え、ネットとリアルが融合することにより、例えば、ネットであらかじめ決済を済ませ、店頭での商品の受け取りは顔パス認証で行うなど、これまでとはまったく異なる決済インフラが普及してくる可能性があるものと思います。

今後さまざまな決済インフラや決済サービスが登場してくるものと思われますが、一定の資源制約の下で、どのような決済インフラに投資をすべきか、どのような決済サービスを導入していくべきか、お客さまのニーズを見極める力が試されるものと思います。

一方で、ITの急速な進展は、情報セキュリティ面でさまざまな脅威を生み出しております。米国や韓国では数千万件という規模の会員情報の漏えいが起こっており、日本においても決して対岸の火事とはいえません。クレジット業界で扱う情報は極めて秘匿性が高いものであり、消費者の信頼を確保していくためにも、情報セキュリティには万全を期す必要があります。