データ損失や業務システムの停止は、業務自体の停止につながりかねない。これは言うまでもなく事業者にとって大きなリスクであり、そのリスクを解消するためにもバックアップ運用はきわめて重要だ。

しかしながら、バックアップ運用にはその作業を担う人材の時間と手間、そしてコストが必要となる。多くの企業や組織において、これが不安材料になっているのではないか。

それでは、バックアップ運用という必須の業務にまつわる課題をどのように解決していけば良いのか。本稿では、バックアップ運用の見直しにより、BCP(事業継続計画)/DR(災害復旧)対策、及び運用・コスト面の課題解決に成功した2つの事例からヒントを探っていきたい。

情報システムのバックアップ運用にまつわる難題

デジタル化の流れが深まるなか、企業はもちろんのこと、官公庁においてもユーザー(住民)に対する価値の提供、サービスの利便性向上に努めており、これを目指した情報システムの整備が進んでいる。災害をはじめとする不測の事態でシステムがダウンすると、復旧まで価値やサービスの提供が行えなくなり、まさに致命的だ。

このようなときこそ継続的なバックアップ運用が効果を発揮することは、いまさら指摘するまでもない。ところがこのバックアップ運用も一筋縄ではいかないことを、多くの企業や官公庁は実感していることだろう。

次の2つの自治体も、そうした課題に直面していた。

北海道江別市では、情報システムで扱うデータが増大し、定期的なフルバックアップに膨大な時間を要していた。日曜深夜に行うフルバックアップが終わらず、翌日の開庁時間にずれ込むこともあり、バックアップ時間の増加は職員の負担となっていた。

また、もともとITに精通した人材が少ないという根本的な課題もあり、それ以外の業務も担当している職員にとって、バックアップに関する定型業務の存在は切実なボトルネックとなっていた。

そんな折、2018年9月の北海道胆振東部地震で停電が発生。行政サービスが止まってしまった経験から、災害対策を含めた潜在リスクへの備えにおいても、バックアップ運用の整備は重要なテーマと捉えられた。

一方、埼玉県入間市では、組織体制の問題に加えて重要なシステムを安定運用したいという理由から、これまで既存事業者が継続採用されていた。業者を選定する部署にノウハウが集中し、他部署に共有されていないため、システム更新の際にノウハウを活用できず、高いコストが定常化していた。

さらには、情報セキュリティの観点からシステムごとにサーバを設置し、それぞれについてバックアップを行う「1サーバ1バックアップソリューション体制」であったため、過剰投資の傾向もみられていた。

バックアップを確実に取り、かつ安定運用を続けていこうと考えると、トレードオフとして作業の手間や時間、そしてコストがどうしても増えてしまう。一方、世の中は人手不足で、加えてIT予算にも限りがある。

しかも昨今では働き方改革という旗印のもと、従業員の業務効率化も達成しなければならない。しかし、バックアップ運用を後回しにして、万が一の際、データ復旧に長時間かかるようであれば、業務はさらに嵩み働き方改革など、夢のまた夢である。

紹介した2つの自治体に限らず、多くの企業でも同じような課題を抱えていることだろう。では、この難問をどう解決していったのか、以降はその解決策を紹介したい。