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【連載】

ニューノーマル時代のオウンドメディア戦略

【第6回】自社の価値を示すには? ジャフコの敏腕キャピタリストが挑むメディアづくり

[2021/07/28 10:00]山田井ユウキ ブックマーク ブックマーク

企業が自らの提供する「価値」を正確に知らしめるのは、たやすいことではない。それは業界を牽引する大手企業であっても同様だ。

1973年の創業以来、ベンチャーキャピタル(VC)として累計4,000社超のベンチャー企業を支援してきたジャフコ グループ(以下、ジャフコ)も自社ブランディングに課題を感じていたという。そこで同社は、2020年にブランディング強化プロジェクトをスタート。目的は、ジャフコが提供する価値を改めて起業家に示し、競合他社との差別化を図ることだ。

同プロジェクトの一環として2020年10月、オウンドメディア「& JAFCO POST(アンド ジャフコ ポスト)」が開設された。

ジャフコがオウンドメディアを通じて伝えたいことは何か。目標に向けてどんなロードマップを描いているのか。& JAFCO POSTの運用を担当するジャフコ ビジネスディベロップメント部 プリンシパルの坂祐太郎氏にお話を伺った。

坂祐太郎氏

ジャフコ ビジネスディベロップメント部 プリンシパルの坂祐太郎氏

「資金を提供して終わり」ではないことを伝えたい

新卒でジャフコに入社し、マネーフォワードやChatwork、WACULなどさまざまなベンチャー企業への投資に携わってきた坂氏。2017年には、ForbesJapan主催「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」において第2位にランクインするなど、ベンチャーキャピタリストとして実績を積んできた。現在は、投資先のマーケティング・セールス支援を統括するほか、さまざまな業務を兼務する。

「ジャフコはベンチャー企業に投資するだけではありません。投資後にもHR支援やマーケティング・セールス支援、バックオフィス支援など、専門支援チームによるサポートを行ってます。投資後のサポートという点においては、手厚く支援させていただいているという自負があります」(坂氏)

ジャフコの特徴について尋ねると、坂氏はそう答えて胸を張った。一般に、ベンチャー企業の経営陣は上場準備や資金管理、人材採用など事業以外のさまざまな雑務に追われ、肝心のサービスやプロダクトに向き合う時間が削られがちになる。これを解消すべく、ジャフコでは「マーケティング・セールス」「HR」「バックオフィス」の3つの切り口で投資先企業の実働を支援しているのだ。

だが、そうしたジャフコの特徴が起業家にはあまり伝わっていなかった、と坂氏は振り返る。「VCは資金を出すだけ」、そんなイメージを持っている起業家はまだまだ少なくない。

「VCはあくまで黒子という考えから、これまでは当社の特徴をあえて強く伝えるということをしてこなかったんですが、ここ5年ほどで状況が変わりました。競合他社も数多く出てきて、競争が激化しています。『ジャフコがどういう思いでスタートアップ企業に向き合っているか』『ジャフコの価値とは何なのか』をきちんと発信していかないと、今後は勝ち残っていけないと考えたのです」(坂氏)

坂祐太郎氏

そこで同社は2020年、自社の価値を改めて発信するブランディング強化プロジェクトをスタートさせた。積極的なセミナー開催などに加えて、新たに開設したオウンドメディアが& JAFCO POSTである。

「& JAFCO」とは、ジャフコが掲げる事業コンセプトを表したフレーズだ。「VCは起業家あっての存在であり、主役はあくまでも起業家。常に”◯◯&JAFCO”という存在であるべき」――そうした思いが込められているという。

目指すは「3つの不安」を解消するメディア

2020年10月に公開された& JAFCO POSTのコンテンツは、大きく2種類に分かれる。著名な起業家を招いてのインタビュー/対談記事と、HR戦略など起業家に有益な情報を発信するナレッジ記事だ。更新頻度は平均して月に4本。それほど更新頻度が高いわけではないものの、各記事のクオリティは非常に高く、読み応えのある内容となっている。

坂氏が& JAFCO POSTで成し遂げたい目標はシンプルだ。

「起業家は3つの不安を抱えています。1つは『お金』。もう1つは人材不足などの『リソース』。そして、ナレッジ不足などの『知見』です。& JAFCO POSTは、これら3つの不安を解消できるようなメディアでありたいと考えました」(坂氏)

坂祐太郎氏

先述したように、ジャフコでは資金を提供するだけでなく、投資後のサポートも手がけている。そこでは、各分野のスペシャリストによってジャフコが蓄積してきた知見や営業支援ネットワーク、独自のタレントプールなどを駆使した支援が行われる。つまり、ジャフコは「起業家が持つ3つの不安」を解消できるだけの体制を持っているのである。

ジャフコの課題は、そうした同社の特徴が浸透していないこと。であれば、& JAFCO POSTで「3つの不安」を解消できる情報を提供することは、同時にジャフコのブランディングにもつながるはずだと坂氏は考えた。

& JAFCO POSTの運営は、社内メンバー3名と外部のコンテンツディクレター2名で行われている。社内メンバーはほかの業務と兼務しつつだが、2週に1度の企画会議で企画を練り、必要に応じて取材し、記事を制作する。

インタビューや対談記事には、マネーフォワード CEOの辻庸介氏や、ECサイト「食べチョク」を運営するビビッドガーデンの代表取締役社長 秋元里奈氏など著名な人物が名を連ね、起業にまつわるリアルなエピソードが語られている。一方、連載「起業家の失敗学」では、先輩起業家の失敗事例やノウハウなど、起業を志す人間ならば誰しもが気になる話題に焦点を当てる。

オウンドメディアのコンセプト設計からコンテンツ制作に至るまで、隙のない運営に見える& JAFCO POSTだが、意外なことに「思い通りにいっているわけではない」(坂氏)という。

「& JAFCO POSTの究極的な目標は、起業家の3つの不安を解消するサポートをジャフコが提供していることの周知です。それがどれくらい実現できているのか、定期的にアンケート調査を行っているのですが……開設から5カ月後に実施したアンケートでは、私たちが期待したほどの結果は出ませんでした」(坂氏)

良質な記事づくりを心がけて5カ月間制作/投稿し続け、坂氏は手応えを感じていた。しかし、蓋を開けてみれば、伝えたかったジャフコのイメージは思ったほど浸透していなかったわけだ。

「自分たちが期待していたよりも見られていないし、伝わっていないという現実を突きつけられました。今はこの数字をいかに改善できるかに注力しています」(坂氏)

PVは本当に必要か? 目的達成に向けた分析と施策

難しいのは、& JAFCO POSTは一般的なオウンドメディアとはやや立ち位置が異なることだ。というのも、ジャフコが情報を届けたいのは、ビジネスの最前線でチャレンジを続ける起業家、もしくは起業を志す人である。そして、そうした人々は当然、国内最大級のVCであるジャフコの存在自体はすでに知っているはずなのだ。つまり、多くのオウンドメディアのように、社名の認知度向上に躍起になる必要はないのである。

「もちろん、PVやUUも1つの指標にはしています。しかし、それは最終目標の前段階の指標に過ぎません。PVを上げることで、本当に起業家の3つの不安を取り除き、ジャフコの価値を正しく理解してもらうという目標が達成できるのか。その関連性は正しく分析しないといけません」(坂氏)

坂祐太郎氏

もし、PVの向上によって目標浸透度が高まるという事象が見い出されれば、PVの向上は必須となる。その仮説を確かめるためのPV向上施策として、メルマガの配信や広告の運用なども視野に入れていると坂氏は話す。

すでに動き出している施策もある。その一つがSNSの活用強化だ。現状、Twitterからの流入は全体の10%程度だが、ジャフコが運営するTwitterアカウントのフォロワー数自体を増やすことで、記事の拡散力向上を狙っていく。フォロワー数増加のヒントを得るべく、SNS活用を得意とする競合他社や個人のベンチャーキャピタリストの投稿なども参考にしているという。

また、記事の質はもちろん、「世の中にないコンテンツを意識することも重要」(坂氏)だと考え、並行してコンテンツの分析も進める。

こうした取り組みの成果は、来年3月のアンケート調査で明らかになる。坂氏は「ジャフコのイメージ浸透率を私たちが目標とする水準まで高めたい」と意気込みを見せる。

& JAFCO POSTの歩みは、いよいよ第2フェーズに入ったと言っていいだろう。半年間の運用の結果を分析し、次の展開につなげていく段階だ。数多くの企業に投資と支援を行い、成功に導いてきた坂氏だが、そんな同氏にとってもメディア運営はこれまでにない試みである。

& JAFCO POSTは、敏腕キャピタリストが”起業家精神”で臨む新たな挑戦なのだ。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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