コロナ禍によって時代が大きく変化するなか、企業は今後、どのようにしてビジネスや組織を再構築していくべきだろうか。

「イノベーションを生み出すためには、デジタル技術のフル活用はもちろん、業務プロセス自体を見直す必要がある」――慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授 岸博幸氏は、そう語る。

4月22日に開催されたTECH+フォーラム「バックオフィス業務改革Day 2021 Apr.」で岸氏は、企業がイノベーション創出に向けて”正しい”働き方改革に取り組んでいくためのポイントについて説明した。

岸博幸氏

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授 岸博幸氏

アフターコロナでは新たな社会構造の変化が起きる

新型コロナウイルス感染症の第4波が本格化し、東京都などを対象に再び緊急事態宣言が発令された。一方で、ワクチン接種がスタートしたことにより、コロナ禍の収束を期待する声もある。こうした状況を踏まえ、岸氏は「コロナ禍により経済活動が縮小し、特に中小企業はいかに今日明日を乗り切るかということを考えてきたと思うが、そうした短期的なマインドに加えて、『コロナ禍が収まった後にどうビジネスを仕掛けるか』といった長期的なマインドを持つ段階に入ってきている」と、ビジネスの風景が変わりつつあることを指摘する。

コロナ禍以前の日本は、デフレ、人口減少、高齢化、地方経済の衰退といったさまざまな課題を抱えていた上に、経済生産性が低い状態が続いていた。「コロナ禍が収束したからといって、以前から残っている課題が解消されるわけではない。何もしなければ日本の経済は厳しい」と、アフターコロナで日本経済は回復するという楽観的な見方に対して岸氏は懐疑的だ。さらに、「100年に1度の大きな危機とも言われるこのパンデミックのようなレアな外的ショックが起きると、新たな社会の構造変化が起きる」とも予見する。

イノベーションを生み出す絶好のタイミングが到来

では、アフターコロナへ移行する段階で、どのような社会構造の変化が起きるだろうか。岸氏によると、ビジネスの観点では2つから3つの事項に集約されるという。

1つは、「デジタル化のすさまじい加速」。以前から必要性が叫ばれていた在宅勤務/遠隔勤務は、コロナ禍を機に急速に普及。対抗勢力が多くなかなか実現しなかった遠隔医療や遠隔教育も大きく進展した。デジタル庁も発足し、国を挙げて”デジタル化後進国”からの脱却を図ろうとしている。「この流れに乗り遅れないようにしなければならない」と、岸氏は強調する。

さらに、岸氏は「価値観の多様化」が起こるとも予想する。オフィスで仕事をすることが当たり前だった時代は、多くの人々の価値観は「仕事」にあった。しかし、遠隔勤務や在宅勤務が普及したことで、人々は長く過ごす場所の影響を受け、家族のありがたさや、自分の身の回り/地域のコミュニティのつながりの重要性に気づいた。

「自分や家族にとって良い環境で過ごしたいというモチベーションが生まれ、環境や健康を重視し始めました。こうして人々の価値観が多様化していくのです」(岸氏)

岸氏は、こうした変化がある中で経済生産性の向上を図るには、企業や地方の変革が必要だと主張する。そして、そのために求められるのが「ビジネスプロセスの効率化」「イノベーションの創出」「ビジネスモデルの進化」だという。

「シュンペーターが定義しているように、新結合の遂行こそがイノベーション。デジタル化が進めば、新結合に必要な情報を容易に集められるようになるし、資金調達にはクラウドファンディング、プロトタイプ制作には3Dプリンタと、さまざまな手段を活用できるようにもなります。そして、人の価値観が多様化すれば、新たなニーズやウォンツが生まれます。イノベーションをつくり出すには、今が絶好のタイミングと言えるでしょう」(岸氏)