10月22日に開催されたマイナビニューススペシャルセミナー「New Normal時代のHRの在り方~より高いエンゲージメントを~」では、HRTechを実践する専門家やベンダーが集結し、ウィズコロナ時代のHR(Human Resources)の在り方についてさまざまな切り口から講演が行われた。本稿では、PwCコンサルティング 組織人事・チェンジマネジメント シニアマネージャー 土橋隼人氏が登壇した事例講演「従業員の体験価値(Employee Experience)が実現するエンゲージメント向上」の模様をレポートする。

激化する「デジタル世代」の獲得競争

「Employee Experience(EX)」とは、従業員が企業に出会ったときから退職までの間に発生する「企業との全ての接点において得られる体験価値」を指す言葉で、HRの世界では話題のキーワードの一つとなっている。

その背景として挙げられるのが、人材獲得競争の激化だ。PwCが毎年実施している「世界CEO意識調査」によると、企業の成長に対するビジネス面の脅威のトップとして「鍵となる人材の調達」を挙げる日本のCEOは2016年の時点ですでに94%にも達しているという。

人材獲得競争

激化する人材獲得競争/出典:PwC「世界CEO意識調査(2016)」

「日本の労働人口が減少していくなかで人材獲得競争は激化しており、いかに人材に選ばれる企業になるかが重要なテーマとなっています。そして、獲得すべき人材とはいわゆるデジタル世代。2020年の世界の労働者に占めるデジタル世代の割合は50%にもなると予想されており、もはやマジョリティと言っていいでしょう」(土橋氏)

土橋氏

PwCコンサルティング 組織人事・チェンジマネジメント シニアマネージャー 土橋隼人氏

ここでポイントとなるのが、デジタル世代というのは、身の回りにデジタル機器が溢れたなかで育ってきた世代だということだ。ネットで欲しい情報に簡単にアクセスしたり、スマートフォンで時間を問わず買い物をしたりと、レコメンド情報やSNSなどを巧みに活用して高い体験価値を得ることに慣れている。

そんなデジタル世代の働き方に関する特徴的な傾向としては、「ワークライフバランスを重視すること」「定期的なフィードバックを好むこと」「同じ職場に長く居続けるとは考えていないこと」「社会貢献意欲が高いこと」「テクノロジー活用してより効率的に働きたいという志向が強いこと」などが挙げられる。

「こうした特徴を有する彼らを獲得し、長く働いてもらうためには、人材マネジメント自体を変えないといけないでしょう。そのためには、顧客へのサービスと同じように、従業員にもまた体験価値を提供することが求められます。だからこそ、EXに注目が集まっているのです」(土橋氏)

EX向上に必要な「4つの要素」と見るべき「6つの領域」

実際、調査結果からも、EX向上に取り組む組織は高い業績を出しやすい傾向が見られるという。具体的には、イノベーション創出や顧客満足度が2倍に、収益性が1.2倍にといったように、イノベーション創出のためにもEX向上は重要になることがわかる。

では、EXを向上するためには何が必要なのだろうか。その要素として土橋氏は、以下の4つを挙げた。

  • 透明性:仕組みやプロセスがわかりやすいかたちでオープンになっていること
  • 合理性:自らの生産性向上に資する環境やサービスが提供されていること
  • 固有性:自身に合ったかたちに最適化/パーソナライズされていること
  • 即時性:時間/場所を問わず、「すぐに」が実現できること

「EX向上に当たっては、デジタルツールの活用次第で大きな効果が得られることから、テクノロジー活用は必須要件となっている」と語った土橋氏は、エンプロイージャーニーを構成する6つの領域を挙げ、各領域におけるHRテクノロジーの活用状況を紹介した。

  • 採用/オンボーディング:AR/VRを活用した会社説明会、チャットボットを活用した企業と候補者のコミュニケーション、個人別のオンボーディングプランの設計
  • キャリア/スキル開発:本人の志向性や保有スキルに合った研修プログラムのレコメンド、人材とジョブのマッチングシステム
  • 報酬/リコグニション:支払い方法/タイミングを選択可能な報奨制度、ピアボーナスツール
  • ワークライフバランス:健康維持支援ツール、ファイナンシャルウェルビーイングサポート
  • 職場環境:テレワーク支援ツール
  • ネットワーキング:社内ネットワーク構築支援ツール、アルムナイ(退職者)ネットワーキングサービス