2019年12月、東証マザーズ市場への上場を果たしたfreee。2012年に創業した同社は、「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションのもと、主力製品であるクラウド会計ソフトのほか、会社設立や人事労務に向けたプロダクトなど、中小企業や個人事業主のバックオフィス業務を支援するサービスを提供してきた。

freeeの企業としての特徴に、”マジ価値”という言葉を軸にしたカルチャーがある。マジ価値とは、ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えること。社員の普段の会話中に自然と出てくるほど浸透しているという。

今回は、創業時からエンジニアとしてfreeeを支えてきたCTO 横路隆氏に、同社のこれまでとこれから、そしてその独特なカルチャーについて聞いた。

freee CTO 横路隆氏

社会から求められていたfreeeのビジョンとミッション

<MISSION>
スモールビジネスを、世界の主役に。

<VISION>
ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム。

横路氏は、CEOの佐々木氏とともにfreeeの創業に携わった。ミッション・ビジョンが今の方向性で固まったのは2013年だったと振り返る。

細かな表現は変化しながらも、大きな方針は変わらないという。会社の規模拡大や成長に合わせてビジョン・ミッションを見直すスタートアップも多いなか、上場に至るまで大きな方針転換に迫られなかった理由について「社会の要請に応える形でサービスを作ることができていたため」と横路氏は考察する。

「スモールビジネスがイノベーションのコアにあるという思いは創業時から変わっていませんし、私たちはそこを支援するために存在している企業です。freeeのビジョン・ミッションが社会的に必要とされていたからこそ、ここまでこられたと考えています」(横路氏)

もちろん、社内への浸透に向けてはさまざまな取り組みも必要となる。全社会議で説明したり、Googleドキュメントを共有して全社員からビジョン・ミッションに対するコメントを募集したり、社員からよく聞かれる質問はFAQにまとめたりなど、ビジョン・ミッションの言葉に含まれた細かいニュアンスまでを伝えきるための施策は継続的に行っているという。

freeeの根本にある”マジ価値”という合言葉

なんと言っても特徴的なのは、”マジ価値”という言葉がfreeeのカルチャーを支える軸になっていることだ。

「freeeには、個人やチームが成長することでプロダクトや事業が成長していくという考え方が強くあります。それをどう実現するかという発想で、こだわってカルチャーづくりをしてきました」と横路氏は語る。

<コミットメント>
freeeは「マジ価値を届けきる集団」である
※マジ価値(本質的(マジ)で価値ある:ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えることをする。)

<freeeのマジ価値2原則>
1. 社会の進化を担う責任感
2. ムーブメント型チーム

<freeeのマジ価値指針>
- 理想ドリブン
- アウトプット→思考
- Hack Everything★
- ジブンゴーストバスター
- あえて、共有する

freeeのマジ価値2原則として2つの言葉があげられているが、これらはマジ価値をより大きく、より早く届けるために、社員全員が持つべきマインドセットとなる。

「ムーブメント型チーム」には、ミッションの達成に向けた”社会運動”をするためにチームがある、という意識を持たせることで、社員の自律的な行動を促す意図がある。これは、立ち上げ時から佐々木氏の方針として社員に根付いていた考え方ではあるが、最近明文化したそうだ。

一方で、「社会の進化を担う責任感」は後から追加されたものだという。横路氏は「創業当時は、まずは自分が価値あると思うものをリリースするという気持ちのほうが強くありましたが、対象となるお客様の数やミスができない大きな企業との取引が増えてきたことで、より強い責任を 求められるようになってきたため追加したものです」と説明する。freeeの急成長の様子が最も反映されている言葉ともいえるだろう。

この2原則に続く形で、さらに5つの言葉が設定されている。これらはfreeeで働く人たちの行動指針を表したものだ。実は、当初はこれらもマジ価値と並列にある言葉だったというが、試行錯誤を経て2019年に現在の階層化された形に落ち着いたという。

会議室のモニターにもマジ価値が。未使用時には常時表示される

来客に提供する飲料のボトルにもマジ価値を記載。全社を挙げて大切にしていることが伺える

価値基準が一致したうえでの多様化は必須

マジ価値という言葉は、その響きの良さも相まって社員への浸透も上手くいっているようだ。全社社員に対して実施したアンケートでは、社員の回答対象者約400名のうち94%程度が共感しているという結果も出ている。

浸透にあたっては、各チームごとに「あなたにとってマジ価値とはなんですか」と問い質す振り返りの機会を設けたり、全社員がチームを超えてマジ価値について考える「freeeマジ価値デー」というイベントを企画したり、Slackにマジ価値絵文字を用意したりなど、大小さまざまな施策を設けている。

もちろん、採用や評価プロセスにも、ミッション・ビジョンへの共感を含めてマジ価値という価値観を持っているかどうかの判断ポイントが組み込まれている。

こうした取り組みによって、2013年ごろから軸をぶらさずに進化し続けることができたと横路氏は手応えを感じている。今後はこうした価値基準の共有を保ちつつ、多様化していく方向を目指すという。

「お客さまの数が増え、ユーザーが多様化していく中では、我々も多様性を持つ必要があります。当社に全盲のエンジニアが入社したことで、点字のインターフェースや読み上げ機能などを搭載したアクセシビリティの高いソフトができつつあります。これは極端な例かもしれませんが、さまざまなユーザーに利用していただいているぶん、ある業種の人にとっては使いづらく感じてしまうことがあるかもしれません。そこに対して知見のある人たちが入ってくることで、弱みを補えるような体制を作っていければと考えています」(横路氏)

スモールビジネス向けのクラウドERPへ

freeeはこれからも、会計や人事労務のみならず関連モジュールを拡充するとともに、APIを中心としたオープンプラットフォームを推進していくことで、より一層のスモールビジネス支援を行っていく考えだ。

横路氏に今後の目標について聞くと「まずは、freeeを全範囲の業務をカバーできるスモールビジネス向けのクラウドERPプラットフォームとして完成させること。スモールビジネスに携わる人たちの経理・事務面の負担が減り、やりたいことができるようになったり、より儲かるようになったりする世界観を実現していきたいです」と語ってくれた。

将来的には、プラットフォーム上の顧客企業の経営をAIを通じて支援する、いわばAIがCFOを代行してくれるようなサービスも展開していきたいという。

“マジ価値”をユーザーに届けきったとき、日本のスモールビジネスはどう変わっているだろうか。freeeの成長から目が離せない。