米国の巨大テクノロジー企業、GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)の市場における存在感が増している。この4社のサービスは私たちの生活のなかでなくてはならないものになったが、「企業のIT部門が注力するべき動向は”デジタルドラゴン”という企業群である」と主張するのが、ガートナー ディスティングイッシュト バイス プレジデント, アナリスト デーブ・アロン氏である。

本稿では、11月12日~14日に開催された「Gartner IT Symposium/Xpo 2019」の初日に行われたアロン氏の講演「『デジタル・ドラゴン』の生態と行動様式を知る」の模様をレポートする。

注目すべきは”デジタルドラゴン”- 4つの特徴

デジタルはグローバル経済成長を支えるものとして、製品/サービスからビジネスオペレーションまで企業活動の全ての領域に関わる。これを踏まえ、各企業がデジタル変革に挑戦する上で、IT部門がまず認識しなければならないのは「デジタルはITの延長線上にあるものではない点」だとアロン氏は強調する。

ガートナー ディスティングイッシュト バイス プレジデント, アナリスト デーブ・アロン氏

現在の全世界のIT業界の売り上げ規模は約4兆ドルにすぎないが、デジタルは約100兆ドルに及ぶ世界総生産の成長に寄与する。

これについては、自動車業界を例に取るとわかりやすい。Toyota Connected Europeの試算によれば、欧州における自動車の売上は2017年から2030年にかけて約30%の成長を見込むが、この成長のドライバとなるのがサービスである。2017年時点の売上に占めるサービスの割合は6%であるが、2030年にはその割合が30%にまで拡大する。これは自動車のように製品を販売するビジネスでも、消費者がどのブランドを選ぶかはデジタルが実現する体験の質で決まることを意味する。

デジタルがIT部門だけのものではなく、すべての産業エコシステムを再定義するものだとすると、「デジタルドラゴン」とはどんな存在なのか。アロン氏は「デジタルドラゴンは今まで存在しなかった全く新しい企業。巨大なデジタル企業『デジタルジャイアント』でもある」と解説する。

デジタルジャイアントとは、図に示すように6つの特性を持つ企業だが、現時点でデジタルドラゴンと呼べるものはAmazon.comとAlibaba Groupだけなのだという。

デジタルドラゴンとデジタルジャイアントの相違/出典:ガートナー(2019年11月)

このほかに、今後デジタルドラゴンになり得る最有力候補の企業群として、Apple、Google、Tencent、Baidu、Microsoftをアロン氏は挙げた。

デジタルドラゴンの特性は4つある。第一にクラウドプロバイダーであること。Amazon.comとAlibaba Groupは、それぞれAWSとAlibaba Cloudのビジネスを展開している。第二にテクノロジー以外の業種を超えたエコシステムを形成していることだ。両社ともデジタルコマースをコア事業とするテクノロジー企業であることは共通する。そして、前者はエンターテイメント、後者は旅行やヘルスケアなど、多角的に事業を展開していることも同じだ。

第三には、強力な決済システムと物流ネットワークを保有していることが挙げられる。AlibabaのAlipayはTencentのWeChatと並び、中国では日常生活に欠かせない。Amazon.comもAmazon Payを2007年から提供している。両社は物流にも強い。Amazon.comについては割愛するが、Alibabaの場合、中国内は24時間以内、全世界では72時間以内の納品が可能だという。第四の特性は、両社ともルーツはテクノロジー業界ではないことだ。アロン氏は、「デジタルドラゴンはデジタルだけでなくそれ以外も得意」だと指摘した。重要なのは、デジタルドラゴンをテクノロジーベンダーとしてではなく、”デジタルプロバイダー”として見ることだという。