SNSという言葉がまだ私たちの生活に浸透していなかった2008年、SNSマーケティングの潜在的な需要に目を付け、コムニコは立ち上がった。

今でこそSNSが広く普及し、企業が自社のブランディングやマーケティングに活用することは当たり前になっているが、当時はFacebookやTwitterの日本語版がようやくリリースされた時期。日本企業はSNSの活用に二の足を踏んでいるような状況だった。

コムニコの創業者で、代表取締役社長を務める林雅之氏

現在では、約1000のSNSアカウントの開設・運用実績を誇り、その知見を活かしてSNSマーケティングを効率化するツールなども提供しているコムニコ。SNSマーケティングという新しい領域において、どのような考えで事業を拡大してきたのだろうか。コムニコの代表取締役社長 林雅之氏に聞いた。

コムニコのカルチャー「comni;code(コムニコード)」

<Promise (社会に対する約束)>

  • 笑顔を作るマーケティング活動にこだわり、顧客の企業価値向上に貢献する。
  • 顧客やメンバー、その他あらゆるステークホルダーに愛される会社作りを実践する。
  • 常に変化・進化を志向し、事業領域におけるNo.1を目指す。

<Philosophy (チームとしての哲学)>

  • one comnico, all leaders

<Value (コムニコパーソンとしての行動指針)>

  • Be committed
  • Be agile
  • Be creative
  • Be a team player
  • Be happy

Valueはビジネスモデルの一部となるべきもの

設立当時からTwitterやFacebookなどグローバルなSNSプラットフォームに注目していたという林氏。「SNSが新しいコミュニケーションの基盤になっていくという予感と実感がありました。SNSで重要なポイントは、人とのつながりが持てるかどうか。日本国内にとどまらずグローバルでつながりが持てるプラットフォームは、きっと普及していくと思いました」と振り返る。

そして、人が集まるところには自ずとマーケティングや広告の需要が生まれてくるはずという考えから、コムニコを設立した。

現在のコムニコのカルチャー「comni;code(コムニコード)」ができたのは2016年。SNSマーケティングのエージェンシーとして、「運用(オペレーション)」の領域を主軸に展開するという現状のビジネスモデルが確立しつつあり、林氏によると「ここが勝ち筋だ、というところが見えはじめた」時期だったという。

カルチャーが明文化されたことについて林氏は「Valueは本来、ビジネスモデルの一部となるべきもののはず。ビジネスを実行するのは人です。そのペルソナとなるのはどういう人か、その人がパフォーマンスを発揮するためにはどういう環境が必要か、という順序で考えていくべきです。したがって、ある程度ビジネスモデルが固まらないとカルチャーはできないと考えていました」と説明する。

実はこうした考えの裏には、過去にカルチャーを明文化しようとした際に、経営者である自身の希望が書かれているだけのものになってしまったという失敗がある。

「たとえば設立して間もない会社などでは、社員に対してもベンチャースピリットや経営者目線を求めるケースが多いですが、それはあくまで経営者の願望です。たしかに社員みんなが経営者目線を持ってくれれば会社の成長において安心ですし、経営者も人間なので当然賛同してもらいたいという気持ちもあります。

しかし、ビジネスモデルの実行は、必ずしも経営者目線を持つ人がやるべき仕事だけではありません。Valueに経営者の思いや考えを入れてしまうと、社内に根付くカルチャーはできない。結果論ではありますが、これまでの経験を振り返ってみると、そう思いますね」(林氏)

「チームワーク」で勝ちに行く

「Valueやカルチャーはビジネスモデルの一部」という林氏の考えは、運用(オペレーション)に強みを持って企業のSNSマーケティングを支援するコムニコの主要事業も大きく関係している。

「1人のマーケターだけで30社の企業SNSアカウントを運用することはできません。ベンチャー企業なので全社一丸となって取り組まなければならないという考えは大前提としてありますが、ビジネスモデル上、チームワークを大事にする必要があるのです。

かつての広告業界では、著名なクリエイターなどスタープレイヤーがいて、その人がマスメディアを通して何千万人という多くの消費者に対してメッセージを届けていくという世界観でした。一方で、仕様や文化が異なる媒体(テクノロジーやプラットフォーム)に溢れている近年は、それぞれの媒体の特性を理解し、それに適した戦略を考えて実行するマーケターが必要とされています。

私たちは、そのような人材を『マーケティング・オペレーション・プロフェッショナル(MOP)』と定義し、彼・彼女らが活躍できる環境は、スタープレイヤーを目指してしのぎを削るような競争社会ではなく、たとえばSNSの仕様を習熟し、仕様変更があればチームにすぐにシェアするような、ナレッジの共有を大切にする組織です」(林氏)

オペレーションに特化して専門性を高めていくことで大手広告代理店では扱えないようなマーケターへの需要に応えていくというコムニコの戦略には、必然的に「one comnico, all leaders」というチームとしての哲学が求められるというわけだ。

「業界で実績ある人が入ることで会社が伸びる」という考えは”幻想”

経営陣の意見を林氏がまとめていく形で、コムニコードはつくられた。”コムニコらしい人”を何人か挙げ、なぜそう思うのか考えることで、コムニコードを体現するペルソナを立てていったのだという。

社員の意見を聞いてValueに反映させるという企業も多いが、林氏は「Valueに沿わない人もその場にいる可能性があるので、その人たちの意見を聞いても現状肯定感が強い玉虫色のものになってしまうだけで、パワフルなものにはなりません。また、本当にそうした人材が存在しているのかというところまで考えなければ、絵に描いた餅になってしまいます」と一蹴する。

コムニコードは特に、採用の段階で重視されている。中途採用や新卒社員に向けた会社説明会など、なるべくファーストコンタクトに近いところでコムニコードについて説明し、共感できるかどうかをしっかりと確認しているという。

ダイバーシティの重要性が叫ばれている昨今だが、林氏は「もちろん性別や国籍の多様性は重要ですが、一点突破しなければならないベンチャービジネスにおいては、仕事の価値観は揃っている必要があると考えています」という考えだ。

「大手広告代理店などの出身で、マーケターとしての高いスキルを持ち、実績も多い人が入ることで会社が伸びるのでは、という”幻想”を抱いていた時期もありました。しかし、価値観が合わなければ、ハレーションのもとになってしまい、会社のValueにあっている人がやめざるを得ないような状況が生まれてしまうリスクがあります」(林氏)

コムニコードは、人事評価の基準にもなっている。さらには、Valueに沿って頑張った社員は「Most Remarkable Person(M.R.P)」として毎月表彰している。加えて、コミュニケーションを目的とした、社員3人と林氏との食事会「4人会議」なども実施。社内カルチャーに関わる活動を共有するブログ「at comnico」には、新卒や若手社員が編集者となり、積極的に投稿している。

at comnicoのトップページ

裏を返すと、たとえ結果を残していたとしても、それがValueに沿った行動の先にあるものでなければ評価はされない。林氏は「Valueとは、それくらい必死に守っていかなければいけないもの」と強い気持ちを示す。

人より少し早くはじめて経験を積むことで尖った存在になれる

実は、10年ほど半導体メーカーに在籍し、海外営業などの経験がある林氏。当時まだ新しかったSNSの領域に飛び込むことに不安はなかったのか聞くと、「変化の激しい今の時代においては、人より少し早くはじめて3年くらいの経験があれば詳しい人として扱ってもらえるスピード感で物事が進んでいます。業界の古い概念にとらわれない姿勢が、むしろ有利に働いたのかもしれません」と答えてくれた。

コムニコという会社は、SNSが普及する以前の”人より少し早い”タイミングからSNS関連の事業に取り組んできたからこそ、今の姿がある。コムニコードのPromiseのひとつにある「常に変化・進化を志向し、事業領域におけるNo.1を目指す」という言葉には、そうした林氏やコムニコという企業の姿勢が反映されているのだろう。

コム二コードがデザインされたオリジナルTシャツを着て取材に臨んでくれた