小学生の将来就きたい職業ランキングで上位に入るYouTubeクリエイター。数年前には、ヒカキン⽒ら人気クリエイターが多数誕生したが、その後、YouTubeの規模が拡大し、動画数も爆発的に増えたことから状況は大きく変わっている。

これから頭角を表すクリエイターは、制作力もさることながら、世間のニーズを鋭く捉える慧眼と、り多くの登録者を獲得するためのチャンネル戦略なども備えている必要がある。

本連載は、そんな現在のYouTubeで成⻑しているチャンネル、クリエイターに焦点を当て、動画制作やチャンネル運営の秘密に迫る。

第⼀回となる今回は、オリジナル漫画動画が人気を博しチャンネル登録者数158万人を超えるフェルミ研究所に、コンテンツ作りの秘訣や今後の展望などについて話を聞いた。

なぜ、動画で「漫画」なのか?


――まずはフェルミ研究所さんの経歴について教えてください。

大学卒業後、会社員として働いていましたが2年ほどで退職し、その後は作曲家を目指して活動していました。

しかし1年くらいして才能がないことに気づき、どうしようかと悩んでいたときに、YouTubeをやってみようと思ったんです。それが5-6年前のことです。きっかけとなったのは、ガジェットを紹介しているmegumi sakaueさんのYouTubeチャンネルでした。視ていて、YouTube クリエイターとしての⽣き⽅が楽し そうだな、と感じたことを覚えています。

とはいえ、自分にはmegumi sakaueさんのようなスタイルで動画配信するのは難しいと思ったので、ランキング形式で世界のさまざまなことを紹介する「電撃ランキング」というチャンネルを立ち上げました。

ランキング動画は当時、海外で流行していたんです。「コンビニが潰れる理由5選」「世界で最も恐ろしい海の動物8選」など、ニッチなランキングになるよう意識していました。

――ランキング動画だとフェルミ研究所さんの方向性とは異なるように思いますが、どのようにして今の漫画スタイルに至ったのですか。

電撃ランキングは、似たようなコンテンツが出てきて、チャンネル開設から1年くらいすると再⽣回数の伸びが鈍化してきました。売れるものはすぐに真似されるということに気づかされましたね。そこで、なるべく真似されにくいコンテンツを作ろうと行き着いたのが、漫画でした。

当時も漫画動画はあるにあったのですが、ナレーションもなく、漫画の画像がただ貼られているだけのものがほとんどでした。内容も薄いものばかり。それでも再生数が結構伸びていたんです。再生数が伸びる理由は「漫画であること」しか考えられませんでした。

そうであれば、自分で脚本を作って、台詞の文章を書いて、そこから漫画を起こしてもらい、さらに電撃ランキングで一緒に仕事をしていたナレーターさんに音声も付けてもらえれば、かなり⼈気のチャンネルになれるのではないかと。

そう考えて立ち上げたのが、フェルミ研究所でした。当初はさまざまな素材を使って自分でビジュアルを作っていましたが、引き受けてくれるイラストレーターさんを探して現在のかたちになっています。

トレンドをおさえた丁寧なコンテンツ作りがカギ


――ネタはどのようにして考えているのですか。

世の中の流れやトレンドを見るようにしています。

たとえば、タピオカ屋に並んでみて、若い女の子たちがどういう会話をしているかなどということもチェックしていますし、ニュースや、”天気の⼦” のように世の中で⼤きく話題に なっているエンタメコンテンツなども⾒ています。

インプットは増やしていますが、視聴者が喜びそうだなと思うテーマはどんどん出してしまっているので、ストックはあまりないですね。

視聴回数が伸びそうでも、一部の人を傷つけるようなものなど、自分自身があまり乗り気にならないテーマや、一般常識的に取り上げるべきでないテーマは、思いついても基本的には放置しています。

――他のクリエイターの動画は参考にされていますか?

世の中の流れを把握するために、YouTube の急上昇タブに入った人気動画のタイトルは確認しますが、中身までは視ません。視てしまうとそれに寄ってしまいそうなので。

YouTubeの急上昇ランキングページ

どうしても視る必要がある場合も、飛ばし飛ばし再生するようにしています。

――フェルミ研究所さんが狙っているターゲットはどういう層なのですか?

「視たい方が視てくれればよい」というスタンスなので、ターゲットはあまり意識していませんが、視聴者は20代男性の方が多いようです。

自分がおもしろいと思えるものを作っているので、そこに共感していただけるのが自ずと僕と同い年くらいの男性になっているのだと思います。

――制作はどのようなプロセスで進めているのですか?

文章を先に作成して、その後具体的なシーンや状況を書いて、イラストレーターさんに漫画を発注します。漫画ができあがったら、ナレーターさんに声を入れてもらい、最後に僕が編集していきます。

――どれくらいの時間が掛かっていますか。

イラストレーターさんの作業の進み具合によりますので、まちまちですね。文章作成は1日から3日程度、ナレーション挿入と最後の動画編集はそれぞれ1日程度ですが、イラスト制作には10日以上掛かるので、1本作るのに最低でも2週間は掛かりますね。

お願いしているイラストレーターさんは現在11人いらっしゃいます。Twitterやpixivにあがっているイラストを見て、タッチが気にいった人にご相談しています。ナレーターさんは、以前からお願いしている方のお一人という体制です。

――動画制作にあたって気をつけている点などはありますか?

動画の長さは気にしています。おもしろい動画を短時間で視たいと思う視聴者のニーズもあるので、個人的には3分から4分程度が良いと考えています。最後の編集の段階で長さを調節することもあります。

コンテンツの長さは3~4分程度を目安にしている

――動画公開のタイミングや宣伝に関してはいかがでしょう?

そこまで強くは意識していませんが、19~20時が一番見られる時間帯である感覚です。フェルミ研究所では、いつも20時に掲載していますね。

宣伝は特に何もしていません。Twitterでお知らせする程度ですね。

――チャンネルの立ち上げ当時、登録者を集める施策は何か行われましたか?

ひたすらコンテンツを作ってアップロードして……という感じで、特に何もしなかったです。

単純におもしろいものを作るということが、登録者数アップのために一番大事なことではないでしょうか。どれを視ても楽しんでもらえるようなコンテンツを作っていくことを心がけていました。

書き終わった後に「カチッ」と音が鳴る


――フェルミ研究所さんのコンテンツの特徴はどこにあるとお考えですか?

一番は「自由」であることだと思います。「こうじゃなきゃいけない」といったような固定観念を外して、自分の頭の中にあるものをそのまま動画にしているような感覚です。

個人的な意見として、「作品は変わっていかないといけない」と思っています。一度ウケたから同じものを作ろうと凝り固まっていくのはよくないので、そうならないように意識しています。

ちなみに、良いシナリオは、書き終わるときに「カチッ」という音が鳴るんです。それが鳴らないときには作り直します。

作り直す際は、「これでいいのかな?」「これって、誰かの心に刺さるのかな?」という、自分の心の中での最終チェックを行っているような感覚です。自分の中の合格点を超えるものができなければ、世に出さないようにしています。

――これまでご自身の中で手応えがあったと感じている作品を教えてください。

人の目を気にしない方法3選」はTwitterで7万いいね!をいただきました。自分の中でも「カチッ」と鳴った作品で、映画化してもよいくらいの脚本だと思っています(笑)。

イラストレーターさんが猫を描くのが上手な方だったので、猫が登場する話にしたかったんです。そこで、猫が登場人物に対してレクチャーをするような脚本を考えていきました。脚本やイラストすべてがハマった形ですね。

全ての理想を持った彼氏5選」も印象に残っています。

これは、コンビニエンスストアのイートインで考えたコンテンツです。何かが足りないなと悩んでいたところ、ATMの音が聞こえてきたのをきっかけに、ATMの身体をした男性が喋る度に操作音が鳴るというアイディアを思いついたんです。

このときは「俺は天才だ」と思いましたね(笑)。

――最後に、フェルミ研究所さんとして今後やっていきたいことがあれば教えてください。

恋愛漫画ですね。恋愛テクニックについて教示するようなものはすでにYouTubeにありますが、本気の恋愛漫画はまだありませんので、一度やってみたいなと思っています。(※編集部注 記事公開現在は開始済)

また、今は漫画動画が出てきたばかりで、紙媒体の漫画よりも地位が低いような状況です。今後は漫画動画から単行本やアニメ化、ノベライズなどへとつながる流れを作れたらいいなと考えています。