2007年の創業以来、一貫してクラウド名刺管理サービスを提供してきたSansan。2019年6月19日には東証マザーズへの上場を果たした。法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」は契約件数6000件を突破し、国内市場トップとなる約8割のシェアを獲得している。

順調にビジネスを拡大していくなか、Sansanはミッションを「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」から、より広い視点を踏まえた「出会いからイノベーションを生み出す」に変更し、さらにバリューズの見直しも行った。

Sansan 執行役員、CBO(Chief Brand Officer) 田邉泰氏

今回は、Sansanの執行役員であり、CBO(Chief Brand Officer)として同社のブランディングを統括する田邉泰氏に、ミッション・バリューズのアップデートに至った経緯やそれらの言葉に込められた思いなどについて伺った。

<Mission>
出会いからイノベーションを生み出す

<Values> 仕事に向き合い、仕事を楽しむ
強みを活かし、成果を出す
感謝と感激を大切にする
意思と意図をもって判断する
変化を恐れず、挑戦していく

<Premise>
セキュリティと利便性を両立させる

状況に応じてミッションをアップデートし続ける

田邉氏が入社した2014年9月時点ではまだ150名ほどの規模だったSansanだが、数年で急成長し、現在では500名近い従業員を抱える企業になっている。

会社のフェーズが変化していく中で、当初のミッション「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」では、人との出会いやつながりの素晴らしさにまで触れられていないことを課題に思っていたという田邉氏。

「人と人の出会いによってビジネスは始まります。そうやって世の中は動いている。だから、偶然の出会いを必然に変えることができれば、世の中がもっとよくなるんじゃないか、そんな思いは当時から社内にありました。しかし、言葉にまで落とし込めていない状況でした」と振り返る。

Sansanのミッションとバリューズは、「Sansanのカタチ」と呼ばれており、現在「Ver.4.0β」。幾度かのバージョンアップを重ねてきている。

定期的に時期を決めているわけではないが、今向かっている方向がミッションから外れていないか、このバリューズは自分たちにとって意義があるものなのか、今置かれているフェーズにおいて最適なものなのかなど、疑問があればすぐに「カタチ議論」を行い、更新してきたのだという。

今回は、自分たちの進むべき道は正しいのか? ということを見直すため、議論をスタートしたということだ。β版なので、試運用のカタチという位置づけにある。

「Sansanのカタチ」と呼ばれるミッション・バリューズを記載したプラスチック製カードを社員全員に配布。社員はセキュリティカードと一緒に持ち歩き、いつでも確認できるようにしている。表面(写真左)右上にβ版の記載がある

1年かけてでも全社員が議論に参加するメリットとは?

Sansanのカタチの見直しを行う「カタチ議論」には、基本的に従業員全員が関わっている。

議論は段階的に行われ、まずは部署横断的にランダムに組まれたグループに、古くからSansanに在籍しているメンバーが1名参加する形で実施。その後、改めて部署ごとの議論を経て、部長格、そして役員の議論が行われる。フェーズごとに全体会議などの場で結論を発表しつつ意見をまとめていった。

議論の時間は、1セット1時間程度。各グループは最低でも3セット実施することが求められていたというが、「たいてい3セットでは終わらなかった」(田邉氏)という。結果的に、全社での検討は1年近くもかかることになる。

「外部の方にこの話をすると、『なんでそんなにやるんですか?』『暇なんですか?』と言われてしまうこともありました(笑)。でも私は、1年かける意味は十分にあったと考えています。社員がミッションの検討に関与することで”自分ごと化”でき、自分の日々の業務がSansanのミッションにつながっていることを実感できるためです。

仕事をするうえでは、自分が何を大事にするかということは非常に重要です。たとえば、レンガを積むという仕事は、それだけみると心が擦り切れてしまう作業かもしれませんが、レンガを積むことによって教会をつくる、ひいては街づくりに貢献する……といった目的を認識することができれば、がんばることができます。

どこを目指し、どのようにしてその目標に向かっているのかを理解していれば、目の前の地道な作業に対してもモチベーションは変わってきます」(田邉氏)

そして最終的にたどり着いたのが、「出会いからイノベーションを生み出す」という言葉だ。

田邉氏は「私たちにとっての『ミッション』とは、存在意義であり、世の中に対し提供すべき価値であり、目指す世界観です。あくまで責任を伴うものと考えており、自分たちが『こうなりたい』という欲求の部分が大きい『ビジョン』とはそこが違うと思っています。

いわば社会に対する約束ですね。『出会いからイノベーションを生み出す』というミッションには、名刺からはじまる出会い、そのもののあり方を変え、偶然の出会いを必然に変えて世の中をもっとよくしたい、という想いを込めています」と説明する。

一言一句こだわり抜かれたSansanの5つのバリューズ

ミッションの更新に伴い、Sansanはバリューズも新たにした。Sansanにおけるバリューズとは、ミッションの達成に向けてメンバーが持っているべきプロフェッショナリズムや価値観を表したものだ。

これらはすべて、語尾に「こと」をつけるべきか否か、漢字にすべきか平仮名にすべきかといったところから読点の位置まで、一言一句こだわり抜かれている。

「たとえば、『変化を恐れず、挑戦していく』であれば、『挑戦する』ではなく『挑戦していく』という表現にしているところにこだわりがあります。挑戦すること自体をゴールにしてほしくない、常に挑戦する心を持っていてほしいという思いが込められているんです」(田邉氏)

ミッション同様、バリューズも常に見直されバージョンアップしてきている。「感謝と感激を大切にする」は、普段の業務の中で口にする性質のものではないことから、前のバージョンで一旦外した。しかし、社内の一体感が薄れてしまったように感じ、現在はバリューズのひとつとして復帰している。社員全員が一文字一文字に込められた思いを汲み取って業務に生かしていることの表れでもあるだろう。

バリューズの浸透施策として、従業員同士で感謝の言葉とともに給与に反映されるポイントを贈りあうことができる「Unipos」というサービスを昨年から活用。バリューズを体現している社員を日常的に賞賛するカルチャーが根付き始めている。5つのバリューズに対して、それらをもっとも体現している社員を選出し表彰するイベントなどもスタートし、今後もバリューズの浸透を図っていくという。

ピアボーナスアプリ「Unipos」の画面。Sansanでは、1ポイント1円換算で運用している。ポイントを送付する基準もバリューズに沿っている。

今年6月の東証マザーズ上場がSansanのカタチの更新に影響したか田邉氏に聞いたところ、「上場ありきでミッションをはじめとするカタチを変えたわけではない」とのこと。Sananのカタチは、世の中の要望に合わせるものではなく、自分たちがどうありたいかという考えに重きを置いているためだという。

そして田邉氏は「あくまで上場は目的ではなく、通過点と捉えていますが、これまでとは違った戦い方ができるようになると考えています。投資家や協力会社など、ステークホルダーの皆様からの支援も、イノベーションを起こすためのエネルギーに変えていきたいですね」と語ってくれた。