「お母さんが喜ぶことを」- わかりやすい言葉で7つのバリューを示すBox

【連載】

ミッションステートメント ~企業が込めた想い~

【第4回】「お母さんが喜ぶことを」- わかりやすい言葉で7つのバリューを示すBox

[2019/06/21 08:00]末岡洋子 ブックマーク ブックマーク

ソリューション

「私の仕事は、企業の文化を『名詞』ではなく『動詞』にすること」

――Box社のグローバル人事トップに就任して1年が経過したティファニー・スティーブンソン(Tiffany Stevenson)氏は豪快な笑顔で話す。同氏曰く、企業文化は動詞、つまり行動に移せるようにすることが重要だという。Box社員にバリューを伝えるために世界の主要拠点を回っているというスティーブンソン氏に、同社の企業カルチャーへの取り組みについて聞いた。

Box社でシニアバイスプレジデント兼タレント&ビロンギングのグローバルトップを務めるティファニー・スティーブンソン氏。前職はLVMH傘下で化粧品や香水を扱うSephoraでタレントマネジメント部門のバイスプレジデントを務め、ダイバーシティなどにも取り組んできた

拡大期にどうやってカルチャーを維持するか

Box社が提供するクラウドストレージ「Box」は、当時大学生だった4人が一般企業におけるデータ管理の煩雑さや不便さに着目したことから思いついたサービスだ。同社の創業は2005年と、この分野で有名なDropbox社より2年早い。また、Dropboxがコンシューマー向けであるのに対し、Boxでは創業当初から戦略的に大企業を狙った。戦略は奏功し、現在、Fortune 500の約7割が利用するなどDropboxとの差別化にも成功している。2015年にはIPOを果たし、公開企業となった。

製品面では単なるストレージの提供からコラボレーションプラットフォームへのシフトを図っており、本拠地の米国シリコンバレーでは4年前に新しいオフィスに移転、従業員は世界で2000人に達している。

創業者の1人、アーロン・レヴィ(Aaron Levie)氏がCEOとして会社を率いているが、従業員が増えると創業者のパッションやミッションが伝わりにくくなる。現在拡大期にあるBoxは、まさに変換期にあるとも言えるだろう。スティーブンソン氏の最優先事項も、変革期における成長を文化の面で支えること。「自分のミッションは、企業の文化を『名詞』ではなく『動詞』にすること」だとスティーブンソン氏。つまり、完成した名詞ではなく行動を表す動詞、それも”進行形”にすることだと語る。

創業者がつくった「7つのバリュー」

Boxのミッションは、「企業や組織が素早く結果を出すためにワークスタイルを革新し、次世代のコラボレーションを実現すること」だ。その土台には、レヴィ氏ら4人の創業者が創業時に抱いた「コラボレーションを簡単にできるようにすることで、企業のデジタルトランスフォーメーションを加速する」というアイデアがあり、創業3年後に「Boxバリュー」として、次の7つの文言に落とし込んだ。

<Boxバリュー>

1. 感動:顧客の心を動かす(Blow our customers’ minds)
2. リスクを恐れず行動に移し、失敗を修正しながら前に進むこと(Take risks, Fail fast. GSD)
3. 10倍の(__)を意識する(10x it)
4. 会社を経営する社長のように、主体性を持つ(Be an owner. It’s your company)
5. あなたらしい、ありのままの自分を仕事に活かす(Bring your (__)self to work every day)
6. 誠意と善意を常に意識する(Be candid and assume good intent)
7. お母さんが喜ぶ行動を心掛ける(Make mom proud)

例えば6は、人は前向きな意思を持っているという前提の上で「意見の衝突や違いは当たり前である」とする考え方だ。「この言葉があることで、お互いに正直になり、フィードバックを与えても大丈夫だと思える」とスティーブンソン氏は説明する。そして正直なフィードバックは、Boxが会社として正しい意思決定を行うことにつながっていく。

企業カルチャーを普及するための「3つの施策」

こうしたバリューを追求するカルチャーを普及するために行っていることとして、次のようなものがある。

1つ目は、ストーリーを語ること。例えば1の「感動:顧客の心を動かす(Blow our customers’ minds)」では、自分たちの顧客に”ヒーロー”になってもらい、顧客がBoxを使ってデジタルトランスフォーメーションに成功した体験を語ってもらう。

伝える手段としては、全世界の社員にリーチできるメールだけでなく、本社で開かれる週1回1時間のランチミーティングも活用する。時には顧客企業を招いてレヴィ氏がホスト役を務め、その企業のビジョンや、どうやってBoxを使ってデジタルプラットフォームを構築しているか、Boxがどのように支援できているのかといった体験を語ってもらうこともあるという。

Box本社の社員食堂にはイベントスペースが用意されており、これまでPixar、NIKE、Airbnbなどの顧客が登場した。その模様を収録した動画は、全社員がWebからアクセスできるようになっている。

2つ目は、本社での新入社員オリエンテーションだ。「本社で実施することは会社の文化を伝える上で重要」とスティーブンソン氏。オリエンでは、CEOであるレヴィ氏と話すチャンスもあるという。

「アーロン(レヴィ氏)は個人として歓迎していることを示したいし、自分から直接カルチャーやバリューを伝えようとしている」とスティーブンソン氏は語る。入社直後が無理でも、本社近くのサンフランシスコで開く年次イベント「Box Works」の開催時期に合わせるといった工夫をし、入社から1年以内には本社でのオリエンテーションを実施しているという。

3つ目は、”Learn Fest”と呼ぶ各バリュー固有のカリキュラムの実施だ。スティーブンソン氏がラヴィ氏と相談しながら進めている新しい取り組みで、7つあるバリューそれぞれのカリキュラムを作成し、スティーブンソン氏が世界の主要拠点を回って実施する。

現在進めているのが7の「お母さんが喜ぶ行動を心掛ける(Make mom proud)」であり、今回の来日もこのバリューを日本のスタッフに伝えるためのカリキュラム実施が目的だ。

カリキュラムは年に2回行う従業員調査に基づいて組む。バリューのうちプッシュが足りないところはどこか、懸念は何かなどを聞き取り、継続的な対話を通じて不足がないかどうかを調べる。こうした対話的なアプローチそのものが、カルチャーの促進にもつながるのだという。

「(カルチャーの浸透を)完璧にすることではなく、それについて対話できる空間を作ることが重要」とスティーブンソン氏は自身の姿勢を語った。

スティーブンソン氏はBoxを知ったとき、「この会社のカルチャーはトップレベル」とすぐに惚れ込んだという。「カルチャー面でうまくいく材料は揃っている。自分の仕事はそれに枠組みを与えること」と笑顔を見せる

ビロンギング(Belonging:所属)とは?

スティーブンソン氏の正式な肩書きは、「シニアバイスプレジデント兼タレント&ビロンギングのグローバルトップ」だ。ビロンギング(Belonging)の「Belong」は所属を意味する言葉であり、最近名刺でよく見かける表現ではあるが、Boxではどんな役割を果たすのか。

「Boxでの”ビロンギング”は『お母さんが喜ぶ行動を心掛ける(Make mom proud)』の拡張。どうやって所属意識を作るか、共有するかを考えている」とスティーブンソン氏は説明する。具体的には、以下の4つを展開しているとのことだ。

  • 職場のハラスメント予防
  • Make mom proudベースのトレーニング
  • Employee Resource Group(ERG)の実施
  • 無意識な偏見についてのトレーニング

トレーニングで伝えていることは、「人は皆完璧ではなく、盲点がある。気がつかない間に意見の衝突は起こるが、重要なのは共通の土台があること」だ。共通土台があれば、衝突時にも対応できる。トレーニングには、社員に対話の練習をしてもらうことも含まれているという。日本では直接的に意見を言うことを避ける文化があるが、そうした文化的な背景も考慮しながら進めているそうだ。

国や地域の文化に合わせるという点では、女性のキャリアサポートの取り組み「Box Women’s Network」でのアイデアを日本で応用する道筋についても、今回の来日で検討されたという。

スティーブンソン氏は「Boxに勤務する女性をキャリアパス、キャリア開発のサポートなどの点でどのようにプッシュできるのかについて社員と話をした」と語り、「(例えば)BoxジャパンはBoxオーストラリアとは異なる。同時に、共通の価値観もあるということが大切で、ここに多くの時間を割いている」と基本的な考え方を説明した。

また、ERGとは従業員が自分が感じている問題をテーマに自主的に集まるグループで、Boxには上記のBox Women’s Network、LGBTeのPrideなど11グループが立ち上がっている。これは「社員を結びつける”のり”の役割を果たす」とスティーブンソン氏は説明する。

このほか、Boxには「Chief Fun Officers」として各地域に2~3人ずつ、従業員エンゲージに責任を持つリーダーを置いている。従業員エンゲージプログラムを地域単位でサポートする役割を持ち、新入社員が入ったときにコミュニティやカルチャーを感じてもらう際などにも活躍するという。

採用時にも重視する「カルチャーへのこだわり」

Boxは拡大期にあるが、やみくもに社員数を増やすことはしない。入社は簡単ではなく、面接の回数が多いことでも有名だ。実際、「面接担当は採用で妥協しない」とスティーブンソン氏は言い切る。

採用時には、カルチャー面からも評価する。その役職に必要なスキルを持っていることとBoxのカルチャーにフィットする人であることは、人物評価の上で同じウェイトを持つ。そして、評価ポイントの1つとなるのが「グロースマインドセット」である。その理由は、「成長のマインドがある人は体験から学ぶことができるから」(スティーブンソン氏)だ。

Boxの徹底したカルチャーへのこだわりから伺えるのは、共同創業者兼CEOのレヴィ氏がカルチャーの重視を徹底していることだ。スティーブンソン氏によれば、レヴィ氏は「ダイバーシティがない企業に成長はない」と考えており、同氏とはほぼ毎週カルチャー面での取り組みについて話し合っているという。

市場競争の激しいクラウドストレージ業界において、強い存在感を放つBox。その背景には、CEO自身が企業カルチャーを重視していることが大いに関係ありそうだ。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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