働き方改革の名の下に、残業時間削減やテレワークの導入などに取り組み始めたものの、その運用制度づくりに頭を悩ませている企業は多い。

一方、働き方改革という言葉すらまだ生まれていない2010年、いち早くテレワーク制度を導入していたのが、法人向けビジュアルコミュニケーションサービスを提供するブイキューブだ。1998年に学生ベンチャーとして創業した同社では、テレワークは比較的、始めやすかったという。

だが、利用回数や勤務時間帯などが限定されていたため、時が経つにつれ、年齢と共に変化する従業員のライフスタイルとの間に”ズレ”が生じ始めた。

そこで2017年、同社は新たな人事制度「ORANGEワークスタイル」を制定。全ての従業員が場所や時間に縛られることなく働き方を選択できる環境を整備し、成果を上げている。

旧制度 ORANGEワークスタイル
回数 週に1回 回数制限なし
対象者 一部社員のみ 社員全員が利用可能
場所 在宅のみ 制限なし(在宅ワーク、モバイルワーク、サテライトワークいずれも可)
時間 固定時間制/裁量労働制 スーパーフレックスタイムを追加

従業員の成長と共に歩んできたブイキューブは、「本当に働きやすい環境」を整えるために何を考え、どう取り組んできたのか。同社 代表取締役社長 CEOの間下直晃氏と、管理本部 人事グループ グループマネージャーの今村亮氏にお話を伺った。

ブイキューブ 代表取締役社長 CEOの間下直晃氏(左)と、管理本部 人事グループ グループマネージャーの今村亮氏(右)

“IT音痴”も多いなかのテレワーク導入

――創業時の働き方はどのようなものだったのでしょうか。

間下氏:1998年に創業したとき、メンバーは皆まだ学生でした。そもそもオフィスなどない状態だったので、仕事は主に自宅で行い、たまに集まるという働き方でした。今で言うテレワークみたいなものですね。

ただ、(今と違って)オンラインで連絡を取り合う仕組みはせいぜいチャットくらいで、当時はまだまだ電話が主流でした。その後、法人化してオフィスを構え、いわゆる会社らしいトラディショナルな働き方へ変わっていきました。

――2010年に、当時としてはかなり早くテレワーク制度を策定されましたよね。

間下氏:初代テレワーク制度が生まれたのは、初期メンバーのライフステージが変わってきたからです。創業当時は学生だったメンバーも、10年も経てば若くなくなります(笑)。結婚したり、子どもが生まれたりと、人生の転機が訪れるようになったのです。

長い目で見たとき、そういうライフイベントをケアできないと組織は続かないと思いました。ライフステージやライフプラン、あるいはその日の都合に合わせて”選べる働き方”をつくっていかないといけないと考えたんですね。

当時はまだ、なかなかそういう考えの会社はなかったと思いますし、やろうとしても今ほど良いツールやインフラがなく、難しかった面はあるでしょう。私たちが早くから取り組めたのは、自社サービスでWeb会議など独自のツールを持っていたからということも大きいと思います。

――初代テレワーク制度はどのようなものだったんですか?

今村氏:最初は一部の社員を対象に、在宅限定で週に1回のテレワークを認めるという簡単なルールをつくって、性善説に基づいて運用していました。当時は社員数も100人前後だったので、”見える範囲”だったんですね。

間下氏:それでも週1回にしていたのは、性善説とは言ってもやってみないとわからないこともあるからです。我々はIT企業とは言っても、営業の人も多いですし、IT系じゃない人もいっぱいいるんですよね。

「ブイキューブがテレワークを実践できるのは、社員のITリテラシーが高いから」だと思われがちですが、そんなことはないんですよ。弊社でもITリテラシーが高い社員は3分の1くらいで、意外とそうでない人も多い。むしろオールドエコノミー系と変わらない、IT音痴もたくさんいるのが実情です。

そうしたなかで運用しないといけなかったんですが、制度も設計しきれていなかったので、条件は厳しくつけていましたね。

――導入はスムーズだったんでしょうか。

間下氏:テレワークを始める少し前に、MBO(目標管理制度)を導入していたんです。テレワークやリモートワークの運用では、評価制度が”肝”になりますよね。今までは目の前にいた人を評価すればよかったのが、いない前提でも評価するにはきちんとした指標が必要です。我々はすでにMBOがベースとしてあったので、始めやすかったところはあると思います。

 「特例」を「普通」に - 社内から挙がった”声”

――2017年、新人事制度として「ORANGEワークスタイル制度」を策定されました。なぜ、このタイミングで制度をリニューアルしたんですか?

今村氏:世の中的に働き方改革の機運が高まってきて、私たちも「自分たちの働き方を知っていただき、参考にしていただきたい」「テレワークを日本に文化として根付かせたい」という思いがあり、もう一度制度を見直してみようという頃合いでした。ちょうどその時期に、社員のほうから自発的に働き方改革をやりたいという声が上がり、プロジェクトが立ち上がりました。

間下氏:旧制度でも、誰もが週1回限定というわけではなく、特例でやっているパターンも実はいっぱいあったんですね。事情があって週5日、テレワークしている社員もいました。でも、それで問題なく回せる方法は仕組み化できているんだから、もう特例じゃなくていいじゃないかと考えたんです。

――とは言え、テレワークを本格導入する場合、社員の管理方法に頭を悩ませている企業の声をよく聞きます。

今村氏:オフィスありきで「来ない日を特別」として扱うのではなく、全部の日を同じように考えられる制度にしなければならないので、その辺りは意識して立て付けを考えました。

当社の場合、チャットでもいいので、どこで仕事をしているのかだけは周知することを義務付けています。マネジャーにはもちろんダメなことはダメと言う権限がありますが、それ以外は特に管理するようなことはありません。

間下氏:評価制度が機能しているので、部下が目の前にいるかどうかはどうでもいいんです。ただ、コミュニケーションを活性化するためには、顔を合わせる仕組みがあったほうがいいのは間違いありません。だから、テレワークしながらチャットのビデオはつなぎっぱなしにしているチームもありますね。その辺りは選択の自由があります。

テレワークは必ずしも完璧ではありませんし、当社としては決してテレワークを”推奨”しているわけではないんですね。”選んでもいい”というだけです。

だから、最近オフィスを移転したのですが、新オフィスのコンセプトは”来たくなるオフィス”です。(せっかく快適にしたので)なるべく来てほしいですが、それぞれの事情に応じて選べるようにしたい。選んだ人が否定されてもいけないし、どれを選んでも当たり前であることが必要です。