1月30日、RPAソリューションを提供するUiPath社は「UiPathForward Japan 2019」を開催し、来場者と共に多くの導入事例を共有した。本稿では、茨城県知事 大井川和彦氏の講演「茨城県庁とグローバルIT企業のRPA活用における業務改革への挑戦」の内容から、茨城県がRPA導入の実証実験から得られた成果について紹介する。

聞き手を務めたキャップジェミニ金融サービス部門アジア代表兼キャップジェミニ 代表取締役社長 殿村真一氏(左)と茨城県知事 大井川和彦氏(右)

“横並び”の政策立案は限界 - 自治体に必要なスピード感

大井川氏が茨城県知事選挙で初当選してから1年が経過した。改革を進める茨城県の目下の課題は、労働力人口の減少を食い止めることにある。民間調査会社による「魅力度ランキング調査」において6年連続最下位となった汚名を返上するべく、地域の吸引力を高める「種まき」を進めようとしている。

大井川氏が掲げる政策ビジョンは「新しい茨城づくり」。その推進の中核には知事肝いりで進める業務改革が据えられている。改革を進める背景にあるのは、「茨城を差別化しないといけない」という強い思いだ。その考えは組織体制にも反映されている。

例えば、茨城県は大井川氏が知事になってから、自治体として初めてとなる「営業戦略部」を立ち上げた。この部署の名前には、職員が企業家マインドを持ち、茨城県を「営業」してほしいという思いが込められている。

今までの自治体はどちらかと言うと横並びで、慎重に、間違いのないように政策立案を行う姿勢を貫くことができた。しかし、そうしたやり方には限界がきているというのが大井川氏の見解だ。「間違ってもいいので、スピードを重視する企業経営の感覚を取り入れないといけない」と大井川氏は日頃から職員に訴えているという。

茨城県がRPA導入の実証実験に自治体としていち早く着手したのは、大きな危機意識があったからだ。地方では労働力人口の減少が深刻な問題であり、ルーチンワークに人を割り当てる余裕がない。今後、確実な人手不足が予想されるなか、今から準備しておけばいざというときに大きな影響を受けずに済む。その取り組みの一環として、可能な限り業務を自動化したい。それに、差別化のためにはほかとは違ったことをするべきでもある。だが、どうすればよいかがわからない。――そう悩んでいたところにRPAの存在を知り、やってみようとRPAプラットフォーム「UiPath」の導入に踏み切った。

とは言え、茨城県の職員たちが最初から手放しでRPAを歓迎したわけではない。自分の仕事がなくなるのではないかという心配から、テクノロジー導入に消極的になるという、どの組織にも共通する悩みを抱えた。茨城県では、職員が活用方法についての積極的な議論を深めることができるような説明会の場を設け、不安を払拭するよう努めたという。