2017年9月、ヤマトグループは、2019年の創業100周年に向けた中期経営計画「KAIKAKU 2019 for NEXT100」を策定した。この計画は「2025年のありたい姿」に向けて、「働き方改革」を経営の中心に据えた改革を断行し、次の100年に向けた持続的成長の基盤を作ることを目的としたものである。

11月12日に行われた年次カンファレンス「Gartner Symposium/ITxpo 2018」のゲストとして登壇したヤマト運輸 代表取締役 専務執行役員 栗栖利蔵氏は、「対面接点×デジタルイノベーションで創る ヤマト運輸の成長戦略」と題した講演で、改革の具体的な内容とそれを支える基本理念について語った。

ヤマトの宅急便ネットワークの歩み

ヤマト運輸の宅急便ネットワークは、「クロネコヤマトの宅急便」生みの親である同社元会長の故小倉昌男氏が考えた5つのコンセプト「需要者の立場になってものを考える」「永続的・発展的システムとして捉える」「他より優れ、かつ均一的なサービスを保つ」「不特定多数の荷主または貨物を対象とする」「徹底した合理化を図る」を基本に1976年に誕生し、成長と発展を続けてきた。現在は国内シェア1位、セールスドライバーが約6万人、宅急便センターが約7千店という規模にまで成長している。

ヤマト運輸 代表取締役 専務執行役員 栗栖利蔵氏

サービス開始当初は、「送り手のニーズをいかに高めるか」という観点から新しいサービスを展開してきたが、1980年代から多くの競合が市場に参入し、どの会社も同様のサービスを提供するようになった。どこで差別化を行うかと考えたとき、「受け手である顧客に喜んでもらい、『ヤマトはいいよ』とほかの人に推薦してもらえるようなサービスを提供しようと考えた」と栗栖氏は宅急便の歴史を振り返る。

転換点になったのは1996年から始まった「365日営業開始」である。送り手から受け手のニーズに応えることに転じ、同社の宅急便ネットワークは年間18億個を輸送できるインフラに成長した。ECの荷物が急増した昨今の顧客比率は、C2Cが約10%、B2BとB2Cが残りの半分ずつを占めると栗栖氏は紹介した。

中期経営計画のテーマは「働き方改革」

生活者に欠かせない巨大インフラが出来上がった背景には、同社が「荷量の増加による規模の経済の追求」「全国一律のサービス提供」「宅急便を中心に据えた各種事業の展開」による成長を重視してきたことがある。

だが、ECの急速な普及に加え、労働力の減少や人口減少に伴う地域格差の拡大など、事業環境は大きく変化しつつあり、見過ごすことができなくなってきた。

栗栖氏は、「フルタイマーの正社員が荷物を届けることがヤマトのサービスの強みであり、こだわってきたポイント」と語る。だが、宅急便が原点とするC2CよりもB2BやB2Cの荷物が増えてきたため、それに即したビジネスモデルやネットワークでないことがドライバーへの負担になってしまったのだ。「ECの普及スピードの読み違えなどを反省材料にし、中期経営計画を策定した」と栗栖氏は説明する。

2017年9月に発表した「KAIKAKU 2019 for NEXT100」のテーマはズバリ「働き方改革」だ。「ガバナンスの強化」「デジタルイノベーションへの対応」を基盤としながら、働き方改革を最優先する「デリバリー事業の構造改革」「非連続成長を実現するための収益・事業構造改革」「持続的に成長していくためのグループ経営構造改革」の3つを断行することとしている。

働き方改革を軸とする3つの改革/出典:ヤマト運輸

栗栖氏によれば、同社の働き方改革とは単に労働時間を減らすことではなく、職場の環境作りを基本とするものなのだという。古い拠点であれば、水まわりや壁、受付を直すといったハード面の環境整備に加えて、労働時間や職場環境などのソフト面の働きやすさの向上をテクノロジーを駆使して実現することを視野に入れる。

この改革はヤマト運輸のDNAとして根付いている「全員経営」を実践するためのものでもある。全員経営とは、「経営の目的や目標を明確にした上で、仕事のやり方を細かく規定せずに社員に任せ、自分の仕事を会社の代表として責任を持って遂行してもらう」という自主性と自律性を尊重する経営スタイルである。18億個の荷物を運ぶインフラが生活者に不可欠な存在であることを社員全員が自覚し、顧客に新しいサービスの成長を遂げられるような提案を考えられる環境に変えることが、同社の働き方改革の”本丸”であると栗栖氏は語った。