「愛犬のため」に特化したペットカメラ - そこに込められた想いとは?

[2018/10/22 08:00]齋藤公二 ブックマーク ブックマーク

PR会社を退職し、まったくの未経験から会社を起こす

布施氏が、Furboの開発を手がける台湾企業Tomofunのプロジェクトを知ったのは、製品をグローバル販売する直前のこと。グローバルのクラウドファンディングが「Indiegogo」で行われることが決まっているなか、日本での販売活動を独自に展開したいと申し出た。 「海外企業にとって日本市場は言語の問題やカスタマーサポートの問題があり、進出が難しい国だと思われています。そのため、日本に進出する場合は、グローバルでの実績を積んだ数年後ということが多い。ただ、Tomofunの担当者やプロダクトを知っていくと『これは日本でも当たる』という予感めいたものを感じました。そこで、資本関係はないのものの兄弟会社のような位置づけでTomofun株式会社を設立させてもらい、グローバルと並行して、国内販売を一手に引き受けることにしたのです」

日本展開は、ソフトバンク コマース&サービスが展開するクラウドファンディングサイト「+Style」で資金を募り、その後、Amazonの販売システム「FBA(フルフィルメント by Amazon」を使って展開した。

布施氏はもともと、PR代理店でマーケティング業務などに携わってきた会社員だった。スタートアップの立ち上げはもちろん、スタートアップの事業運営にも携わったことのない、いわば素人。だが、起業には関心を持っていて、起業家同士のネットワークに参加するとともに、どのようなプロダクトが市場で求められているかなどに常に気を配り研究を重ねていた。

「物を仕入れて売るという仕事に携わったバックボーンがなかったので、最初は苦労の連続でした。ただ、デジタルマーケティングで培ってきた自分なりのプロダクト戦略のようなものはありました。そこを目指して今でもトライアンドエラーの繰り返しをしながら、階段を登っているという状況です」

一人で創業したため、日々の苦労を分かちあったり相談したりできる相手が常に身近にいるわけではない。自己資金ではなく投資家の資金による事業運営であるため、失敗したら一人で責任を負えば済むわけでもない。「そういう意味ではプレッシャーは相当なものでしたね」と立ち上げ当初を振り返る。

日本語でのカスタマーサポートとデジタルマーケティングに注力

会社設立後、戦略的に取り組んだのはカスタマーサポートとマーケティングだ。

海外のベンチャー企業の製品というと「英語を機械的に日本語に翻訳しただけのWebサイトやマニュアルがとりあえず付く」といったイメージが強い。日本語も不自然で、見た目も外国語のフォントを使っているせいかどこかちぐはぐ。トラブルに遭遇してWebサイトを訪れてみると、対応言語が英語に限られていたり、電話サポートを受け付けていなかったりする。こうした不自然さに対して多くの日本人が抱くのが「不信感」だ。

「そこで、自然な日本語を使った親しみを持てるWebサイトを作ることに徹底してこだわりました。Furboは親しみやすいデザインも魅力の1つです。それらを日本語でわかりやすく伝えることをこころがけました。また、カスタマーサポートに日本人の専任スタッフを割り当て、日本語での電話応対ができるようにしました。台湾チームがフィリピンのサポートセンターを所有しているのですが、そこにこちらからスタッフを送り込むこともあります。日本語のできる外国人でなく、日本人スタッフが対応することで、顧客のさまざまなトラブルやニーズに対応できるようにしています」

マーケティングではPR代理店で培ったノウハウも生きた。ただ、PR業務と製品のデジタルマーケティングではアプローチが異なる面も多く、最初は苦労したという。

「PRはどちらかというとアイデア勝負で、それをかたちにして成功したか失敗したかをその都度評価していくアプローチ。一方、デジタルマーケティングは、継続的なテストとトライアンドエラーの成果を繰り返しながら、着実に次につなげて成果を出していくアプローチ。地道ですが、仮説の設計と実行力が重要でうまくいったときの成果も大きい」

マーケティングで活用したのがSNSなどのデジタルメディアだ。SNSでは一時、プロフィールに自分のペットの写真を載せ、そのペットになりきって写真や文章を投稿することが人気を呼んだ。特にInstagramは写真のシェアというスタイルがFurboと相性がよく、Furboの魅力を伝えてくれるように、広告出稿を含めてさまざまな仕掛けに力を入れた。現在、「#furbo」というタグで4万件以上の写真がシェアされ、Furboがとらえたユーザーの愛犬のさまざな表情を見ることができる。

国内展開から2年経ち、Instagramユーザーを中心に認知度が高まってきたことで、売れ行きも大きく拡大している。布施氏は、デジタルマーケティングの難しさについて「戦略的に取り組んだとしても、いつ人気が出て成果につながるかを予測することは誰にもできません。だからこそ、いろいろな経験をしながら失敗を積み重ねいくしかないと思っています」と話す。

実際、日本で売れ行きが劇的に変化したのは、販売開始から半年ほど経ったときに行われたテレビ放送だった。それまでにも数多くの施策を実施したが、期待した数字と実際の成果のギャップに愕然とするばかりの日々を送っていたという。

「先が見えないトンネルをひたすら走る感覚です。期待した数字に届かないからといって落ち込むのではなく、むしろその環境を楽しむくらいがいいと思っています。経験のないことをやっているからこそ前のめりになるし、つらい思いもする。でも、そこで開き直って楽しめるようになると、どんどん新しいことにチャレンジしていける強さも手に入れられると思っています」

愛犬家に喜びとイノベーションを与える

布施氏ともう1人のスタッフ2名でスタートした会社も、現在は、マーケター、カスタマーサポート、システムやサービスのオペレーターなど総勢11名にまで成長した。物流や配送機能はAmazonのFBAを活用して効率化し、セールスもAmazonのWebサイトのみからの販売にすることで人員やオペレーション業務を効率化している。

今後の展開としては、まずは機能の拡充を挙げる。Furboの開発業務そのものは台湾のTomofunが担うが、フィードバックは世界中から集まっており、地域ごとにローカライズして実装されているという。

例えば、気候や文化、国民性の違いから、欧米では「寂しがっていないか」という犬の気持ちを心配する声が多いが、日本では「暑さで苦しんでいないか」といった健康状態を気にかける声が多い。そうしたフィードバックを反映させながら、新しい機能を追加していく。

具体的には、AIを使って犬の行動を予測し、愛犬のイタズラやオモチャで遊んでいる瞬間を自動で撮影したり、愛犬に知らない人が近づいてきたり暑さでぐったりしたことを認識してスマートフォンに通知したりといった機能の拡充だ。

また、Bluetoothを使ってAPI連携するアクセサリなどの展開も計画中だ。現在は、Amazon Alexaに対応していて、おやつをあげる時間を予約するといったことができる。 同じようにして 、温度や湿度と連携してエアコンを自動で制御したり、愛犬が好きなボールや噛むおもちゃをFurboと連携させて動かしたりといったことをできるようにする。

「愛犬家の方に喜びとイノベーションを与えることがわれわれのミッションです。今は、一番の悩みである留守番の悩みを解消しながら、普段は見られない愛犬の可愛い姿を見られるようにして、悩みをポジティブな方向に変えること。それで足りないなから、Bluetoothなどを使ったアクセサリも提供したり、ソフトウェアのアップデートを行ったりして、新しい付加価値をつけること。究極的には、愛犬家の方にハッピーで豊かなドッグライフを送ってもらうことに貢献していきたいと思っています」

国内で飼われている犬は892万頭。そのうちFurboのユーザーは20~40代の女性の一部にすぎず、市場のポテンシャルはまだまだ大きい。また、Furboが愛犬家に広く利用されるようになったとき、犬を飼うことの悩みも変わる可能性がある。Furboが今後、犬と人間のコミュニケーションのあり方をどう変えていくのかに注目しておきたい。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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