「AIを使って何かやろう」という機運が、ここ数年で急速に高まっている。しかし、そうやって何となくスタートしたプロジェクトの多くが暗礁に乗り上げているのが実情だ。

なぜ失敗するのか。成功させるためには何が必要なのか。

AI活用の成否を分けるポイントについて、数多くの企業のAI導入支援を行うNTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 デジタルコンサルティング統括部 課長の大野 有生氏、同 コンサルタント 川口 有彦氏に聞いた。

NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部 デジタルコンサルティング統括部 課長の大野 有生氏(左)と、同 コンサルタント 川口 有彦氏(右)

AIは「目」の役割、使いどころを考えよ

――お二人の業務について教えてください。

大野氏 : 私たちが所属するのはコンサルティング事業部です。4~5年前は情報システム部に関するグランドデザインのコンサルティングが多かったのですが、ここ2~3年、特に2017年ごろからAIを導入した業務変革のご相談が増えてきました。

――コンサルティングの内容について教えてください。

大野氏 : AIのグランドデザインを描くお手伝いが中心ですね。特にAIが使える場所をちゃんと特定することが大きいです。

AIって何でもできそうという幻想を持たれがちですが、そうではありません。イメージとして挙げるなら、人間における「目」の役割を担うものと考えるとわりやすいかもしれません。

人間は目から情報を入れて、頭で意思決定し、手を動かします。「目」はセンサーとパーセプション(知覚)の二つの働きを持っており、特に重要なのはパーセプションです。

ここを人間に代わってAIが行う業務はないかという視点で考えないといけません。

川口氏 : これまで、自分達のものも含めていろいろなプロジェクトを支援させていただき、成功したことも失敗したこともあります。そうした経験を基に提案させていただいています。

PoTとPoCを分けて考えよ

――AI活用の成功と失敗を分ける要因は何でしょう。

大野氏 : 成功させるためには、まずPoT(Proof of Technology)ではなくPoC(Proof of Concept)をちゃんとやっていくということです。大事なのはコンセプトであって、テクノロジーを使うことではありません。

川口氏 : 例えばKPIや営業利益率を上げたいなら、何が問題になっているのかを特定し、それを解決するためにAI技術が使えるかどうかを判断するのです。内容によっては、AIだけでなく、それ以外の解決策も含めたモデルを検討するべきです。

――AIを使うことが目的ではなく、あくまでも課題を解決することが目的だと。

大野氏 : AIで解決できそうだという話になっても、運用していくと必ず問題が発生します。

例えばチャットボットを導入しても、AIには答えられない質問が絶対に出てきます。それをどうするのか。解決するための方策も考えておかないといけません。

川口氏 : コールセンターなら、50%しか答えられない使い物になりませんが、95%の正答率を出せるなら許容できるとか、そういった合格基準をまず定義します。

そして、本当に95%出せるのかを測定項目を決めて始めてみる。3ヶ月もあれば実運用できるか判断できるはずです。

大野氏 : 良くないのは、データをとりあえず全部突っ込んでやってみようみたいなケースですね。

困ったときにどうするのか、AIの再学習をどうするのか、などを考えておかないと実運用に至りません。極めて当たり前のことなのですが、AIとなるとこれが抜けてしまう。それはきっと、AIには何でもできるという幻想があるからでしょう。

経営と業務と技術、三位一体が不可欠

――たしかにデータとAIがあれば何かすごいことができるという幻想はありそうです。

川口氏 : データを集めてモデルを選び、学習させて業務に導入する。この4つがAI導入のプロセスです。そのすべてを1社でやるのか、ところどころ外注するのかの選択を迫られることになりますが、日本企業のほとんどは後者です。

大野氏 : AIモデルを作ったり学習させたりといった作業は外部企業にお願いしたとしても、どういうデータが社内にあるのか、どんな課題をAIで解決したいのかといった判断は現場マターになります。

そこをうまくつながないと、とんちんかんなAIができあがってしまいます。弊社が行っているのは、まさにその一連の流れを横串でつなぐということです。

川口氏 : 起点となるのは業務ですから、その構造や問題を理解しないといけません。ですから、我々は業務コンサルからやらせていただいています。

大野氏 : AI導入に際しては、我々のようにAIを提供する側がお客様の業務を理解するか、もしくはお客様がAIを理解して発注するのか、そのどちらかになりますが、後者はかなり難しいと思いますので、前者のアプローチになりますね。

――なるほど。業務とAIの両方に精通した人材がいればいいですが、そういうわけにもいきませんよね。

大野氏 : もう一つ、重要なのが「経営」の視点から見ることができるかです。

これは”AIあるある”なのですが、上場企業の多くが年頭目標で「AIを活用した事業改革だ!」と言うわけです。上がそう言うからやらなきゃいけないということで、担当者の方が我々にご相談に来られます。

それでお話をしてどうなるかというと、「勉強になりました!」と帰っていくだけなんです(笑)。

――(笑)。

大野氏 : なぜそうなるのか。それはAIによって具体的な経営効果が出るのか見えていないからです。経営と業務と技術、どれか一つ二つだけではダメです。三位一体となって進められる組織体制が必要です。

川口氏 : 例えば社長直轄のAI推進組織などが良い例ですね。責任者レベルでは経営の視点が持てないことが多いです。