AIがビジネスをどう進化させるのかをテーマとしたイベント「THE AI 2018」が六本木アカデミヒルズで1月31日に開催され、電通 事業企画局 チーフ・プランナーの児玉拓也氏は、「AIは顧客体験を変える~活用の鍵はマーケティング発想」というテーマで登壇した。

児玉氏は電通にて今年立ち上がった社内横断組織「AI MIRAI」の推進役として、20以上のAI開発案件に関わっているという。

これからのAI活用ではマーケティング発想が重要に

電通 事業企画局 チーフ・プランナーの児玉拓也氏

これまでAIの活用には、専門的な技術を有するエンジニアが欠かせなかったが、GoogleのAutoMLに代表されるように、ここに来て技術のオープン化が進んでおり、そのハードルは一気に低くなっている。こうした動きを受けて児玉氏は、「技術そのものも大事だが、それ以上に技術と組み合わせるアイデアが重要になったと言える。どのようなアイデアで価値を創出していくかがAI活用の肝となる。そのヒントの1つは、従来のプロダクト発想からマーケティング発想への転換だ」と強調した。

AI活用の当初は、”この技術で何ができるのか”といった技術ドリブンの発想が中心であった。しかし、AIに関わる技術やサービスが数多く利用できるようになった今では、そうした技術やサービスをどのように使えば新たな顧客体験を創出できるかといった、マーケティング的な発想が重要になるというのである。

「このように、マーケティング思考でさまざまなソリューションを組合せていくことは、広告会社が日頃からやっていること。なので我々にとって大きなチャンスがあるのではと考えている」(児玉氏)

このような狙いのもと、電通が今年1月に発足したのが、AIの活用を社内外で推進する統括プロジェクトチーム「AI MIRAI(エーアイ・ミライ)」である。チームメンバーは、マスメディア、デジタル、クリエイティブ、ワークスタイル、人事・HRなどに関わる部署からボーダレスに集めた人材からなり、すでに50人以上のメンバーが在席している。

この体制で、20以上のパートナー企業とともに、25以上のプロジェクトを推進中であり、その分野もチームの人材同様、マーケティング、ワークスタイル、クリエーティブ、ビジネスプロデュースなど多岐にわたっている。

マーケティング+AIの5つのユースケース

電通は昨年、これまで開発・蓄積してきた先端のマーケティング手法を、”人”を基点に統合して提供するフレームワーク「People Driven Marketing(ピープル ドリブン マーケティング)」を開発。デジタルトランスフォーメーションなどにより、マス広告全盛時代のマーケティングから、一人ひとりにとって最適な体験をデザインできるようなコミュニケーションへと変化している。

AIにより、多くの接点で精度の高いコミュニケーションが可能になったからだ。People Driven Marketingは、そうした新しいコミュニケーションを実現するものだ。

講演の後半で児玉氏は、People Driven Marketingを活用した5つのユースケースを紹介した。1つ目は、SNSからテレビへのトレンド伝搬パターン分析&予測ツールであり、現在はα版が運用中で、CMクリエイティブ企画作業に投入されている。このツールを用いることで、流行パターンを推測して予測することができるようになったという。

2つ目は、ある大手食品メーカーと共同で行っている需要予測のユースケースである。商品の需要がより高まるタイミングで、効果の高い広告出稿をしたいという課題があったこのメーカーでは、商品需要は野菜の価格と相関があるのではないかと推測。これを受けて両社では、野菜の価格が事前に予測することで、適切なマーケティングのタイミングがわかるのではという仮説のもと、実証実験を行っている。

「今まで人間がなんとなく行っていた広告出稿が、AIの力で最適化できる可能性がある」と児玉氏は言う。

3つ目のユースケースは行動予測である。テレビ広告は、その広告を本当に見せたい対象に見られているかどうかが不透明と言われがちだが、こうした長年の課題を受けて電通が開発したのが、広告指標予測AI(視聴率予測AI)の「SHAREST」である。SHARESTは学習を重ねることでその精度はかなり高まっているという。

その具体例として児玉氏は、日本テレビ系列「金曜ロードSHOW!」で放送された「借りぐらしのアリエッティ」や「思い出のマーニー」について、SHARESTが予測した属性ごとの視聴率と実際の視聴率との相関を図で示した。

「借りぐらしのアリエッティ」の予測と実際の値

「思い出のマーニー」の予測と実際の値

「これまでの勘と経験の予測を完全に上回っており、既に大手クライアント企業の案件でテレビCM運用に投入している。いままでは人間が多大な時間と労力をかけてやっていた広告効果の事前予測が、AIでより精度高くできるようになっているということ。不透明と言われがちな広告業界のビジネスモデルの転換が訪れようとしている」と児玉氏は語った。

この視聴率予測AIをベースに、さまざまな予測&最適化AIを電通オリジナルで開発中だという。