AI活用のヒントはアスリートの脳内にあり?! - 為末氏、AIと人間の関係を語る

[2018/02/19 07:00]小池 晃臣 ブックマーク ブックマーク

ソリューション

AIがビジネスをどう進化させるのかをテーマとしたイベント「THE AI 2018」が六本木アカデミヒルズで1月31日に開催された。

この基調講演に登壇したのは、スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者であり、男子400メートルハードルの日本記録保持者でもあるDEPORTARE PARTNERSの代表、為末大氏だ。

同氏は、「AI時代における人間の価値」と題して、トップアスリートならではの視点から、スポーツさらにはビジネスへのAIの更なる実装のために必要な”人間理解”について語った。

「日本人が9秒台」は、もはや”当たり前”に?!

元陸上競技選手でDEPORTARE PARTNERS代表の為末大氏

「人間はどこまで速くなるのか?」というのは、昔から議論されてきたテーマだ。1984年・ロサンゼルスオリンピックの100m走で金メダルを獲得したカール・ルイス氏の記録は9.99秒だったが、昨年9月に桐生祥秀選手が日本人として初めて10秒の壁を破った際のタイムは9.98秒である。

つまり、現在において”日本人最速”のスプリンターは、かつて”史上最速の男”と呼ばれた偉大なスプリンターの記録を0.01秒上回っているのである。

しかしながら、日本人の生まれながらのフィジカルなポテンシャルというのは、この3~40年ほどの間、大きく変わってはいないという。では、なぜ100m走の記録がここまで伸びたのか?──その理由について為末氏は次のように説明した。

「まず、栄養の改善や技能の習得方法の改善があるが、一番大きな要因は『当たり前の変化』にある。例えば、桐生選手の9秒台の記録もそうだし、日本人がメジャーリーグで活躍したりするというのも、以前であれば想像もできなかったことだった。それが今や『当たり前』となり、その当たり前の上にものごとを積み重ねていけるようになったのである。これこそが、人間の最も大きな能力なのではないか」

運動神経のいい人と、テクノロジー活用の上手な人の共通点とは

アスリートが日々のトレーニングを重ねながら成長していくためには、5つの要素をどのように扱っていくかが肝となるという。

その5要素とは、「1.自動化」「2.集中」「3.イメージ」「4.内省」「5.欲求」だという。

「自動化」において、アンラーニングが1番難しいという

まず「自動化」だが、人には可能性を狭めることで技能が向上するという側面がある。例えば、スキーの初心者は筋肉痛になりやすいが、これは必要のない筋肉を含めて使ってしまっているからだ。それが上達してくると、重要な筋肉だけにフォーカスできるようになる。

為末氏は言う。「熟達というのは、”しながら忘れる”ことである。例えば、サッカーのドリブルの際に、ドリブル自体に必死になっていたのでは、迫る敵など見えないだろう。いま自分がやっていることを忘れることで、その都度必要な判断ができるようになるのだ。つまり反復練習というのは、考えなくても自動的にできるようになるためにあり、そして熟達とは、そのうえで抽象度の高いところから指示を出しても対応できるようになるということだ」

ただし、初期に自動化したことは、その後もそれを中心にしてしまう癖がつきやすいという。そこである程度熟達したアスリートにとって必要となるのが「アンラーニング」、つまり忘れることである。

「これが一番難しい。一度自動化したものを忘れるというのはなかなかできることではない。例えば、他の言語を話す時には日本語を一旦忘れるといいと言うが、実践するとなると難しい。新しいテクノロジーが出現した時に、なかなか社会が適応し難いのも同じではないか」(為末氏)

為末氏は熟達したアスリートの試合時の脳内を「取締役会的」と表現して説明

続く「集中」について説明する際、為末氏は熟達したアスリートの試合時の脳内を「取締役会的」と表現した。通常の思考過程では、1つの発想から次の発想へと連鎖が続くものだが、アスリートが集中している時というのは、この発想の連鎖が止まった状態にあるという。目の前のことのみに意識がフォーカスしていて、しかも身体が激しく動かしている状態だ。しかし、球技などの場合、周りの状況などたくさんのことを考えながら次の動作を決めなければならない。

「つまり、アスリートの頭の中というのは”取締役会的”なのだ。ざっくりとした方向性を『上』が考えて、それが『現場』に降りてきて具体的な動作へとつながるのである」と為末氏は言う。

これは普通の人々も、日常動作で無意識に行っていることである。例えば「前に進む」とか「止まる」とか程度ではあるが、ざっくりと意識して身体を自然と動かしているはずだ。しかしそれが、例えば大勢の人に見られて緊張していたりすると、「上」と「現場」の役割分担が崩壊してしまい、現場が「前に歩くってどう身体を動かすのだったっけ?」とパニックに陥ってしまうことになる。

為末氏はAIの活用になぞらえてこう強調した。「つまり、日常的に考えなくていいものを考えた瞬間にうまくいかなくなるということ。これはAIの活用にも当てはまるのではないか。AIのような人間の脳の外部のものをうまく使い、任せられる部分はそこに任せながら、自分の本来の『脳力』を生かすのである。運動神経のいい人というのは、ある程度抽象的に考えて、適当にやってしまえる。”テクノロジーの上手い人”というのも、運動神経を使うように自然とテクノロジーを使えてしまう人なのではないか」

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