デルと日本マイクロソフトは9月25日、都内で産業向けVRセミナー「VR / ARの現状と今後」を開催。事例講演に登壇したトヨタ自動車 エンジニアリング情報管理部 情報管理企画室 主幹 栢野浩一氏は「トヨタの3Dデータ活用事例 - xRを用いて」と題し、xR(VR/AR/MR/HoloLens)を用いたサービス領域での適用事例を紹介した。

クルマ好きがクルマのために考える3Dデータ活用

トヨタ自動車は、3Dデータを活用したものづくりに取り組んでいる。栢野氏が所属するエンジニアリング情報管理部は、もともとは設計管理部として組織された部署だが、昨今の3Dデータの活用ニーズに応えるために、現在は情報システム部門に属しているという。

「エンジニアリング情報管理部のミッションは、3Dデータを基準とした業務遂行をグローバルの全行程で推進し、支援していくことです。『データ正活動』と呼んでいますが、技術情報を正しい内容で、遅れなく利用部署に提供することに取り組んでいます。そうしたデータ活用の武器となるのが、車両1台分の3Dデータです」(栢野氏)

トヨタ自動車 エンジニアリング情報管理部 情報管理企画室 主幹 栢野浩一氏

トヨタでは、ダッソーシステムズの3D CADソフト「CATIA」とラティス・テクノロジーの軽量3Dフォーマット「XVL」で車両の3Dデータを処理している。車両データは、企画からデザイン、設計、評価、生産技術(生技)・工場、品質管理、用品、サービス、販売に至るまで全ての工程で使われる。

「3Dデータを活用して、もっといいクルマづくりを進めようとしています。クルマ好きが集まっているので、ちょっとでも時間ができればクルマのことを考えます。3Dデータをうまく活用できれば、考える時間と力がさらに生み出され、高品質で魅力あるクルマを効率良くタイムリーに開発することができるのです」(栢野氏)

トヨタでは1996年に「V-Comm」というデジタルエンジニアリングツールを導入し、2000年初頭からCATIA v5を導入した。栢野氏は設計・生技で当時から導入にかかわってきたが、導入初期はツールが未成熟で、画面上で部品と部品の隙間を測る機能もなかったという。CADのなかで定規を作り、それで長さを測るといったこともあった。設計や生技の現場では、そうした「カイゼン」の積み重ねだったという。

販売マーケティングでの活用は、2000年代初頭から始まっている。内製したCGソフトで国内コマーシャルフィルムに使うデータを作成。2005年からは、市販CGデータを海外販売拠点へ提供するようになった。3Dで形状を示したデータに色のマテリアルデータと配色情報をひも付けて、正しい「ビジュアル3Dデータ」を作成。海外販売拠点は、正しいビジュアルを使ったマーケティングなどに活用できるようになった。販売拠点がOEMからこのようなかたちでデータをもらえることはほとんどなかったため、画期的な取り組みだったという。

サービスでの活用としては、2000年初めに車両データをイラストの元ネタとして使用したのが始まりだという。その後、2007年にXVLデータを使った活用を本格化させる。栢野氏によると、トヨタのサービスの原点は、「お客様第一」の考え方にある。これは、創業者の豊田喜一郎氏が、1935年に販売したG1型トラックの修理に自ら駆けつけたというエピソードからもうかがえるところだ。その後、”販売の神様”と称されるトヨタ自動車販売の神谷正太郎氏が「正確な技術力」と「親切なお客様対応」が「お客様の信頼」を生むという「3S精神」を作った。

「こうした考えや理念は、今のトヨタの『モノづくりは、人づくり』という人材育成の方針に受け継がれています。(岐阜県の)多治見市にあるサービスセンターにサービス技術情報を集約して、タイムリーで正確、かつわかりやすい情報を提供し、クルマづくりに生かしています」(同氏)