去る4月19日から21日、東京・ビッグサイトにて開催された「ヘルスケアIT 2017」では、有識者による各種専門セミナーが多数実施され、ヘルスケア・医療分野におけるICTを活用したさまざまな取り組みや事例などが紹介された。

ここでは、「ヘルスケア・医療のICT最前線2017」と題して行われた東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究講座/脳神経外科学講座の准教授、髙尾洋之氏による講演の模様をお届けしよう。

医療分野のICT活用 - 国の見解は?

随所でICTの利活用が進む昨今、医療分野においてもさまざまな技術が活用され始めている。そうした流れのなかで、電子カルテや画像のように目に見える場所だけでなく、医療機器や機器間の通信のなかにも個人を識別できる情報が多く存在するようになってきた。そこで重要となるのが、利便性と安全性を両立させた医療情報のセキュリティ対応を含めて、ICT活用を考えることだ。講演では、こうした背景を踏まえ、最新のICT利活用とセキュリティ対応についての考察が行われた。

東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究講座/脳神経外科学講座の准教授、髙尾洋之氏

現在の医師法では、基本的には遠隔医療は認められていない。1997年の厚生労働省からの通知により、対面診療を補完するかたちでのみ認められるようになった。そして昨年、厚生労働省から遠隔医療を認めるかのように思われる通知がなされ、医療関係者の間で話題となったものの、同省は今年3月、遠隔医療規制の解除について「まだ早い」といった見解をホームページ上で示した。

ところがその翌月には、安倍首相が2018年の診療報酬の改定で遠隔医療についての評価を行うと明言。日本医師会も遠隔医療を否定しておらず、また「医療現場にAI(人工知能)やIoTといったテクノロジーをもっと取り入れるべき」といった姿勢を見せるなど、医療の世界は今、ICT活用を軸とした新しい局面に入りつつあることがうかがえる。

「医療・介護連携においても、現在のところBYODは認めないとされていますが、そうしたことも本当に現実的なのかどうかまで踏みこんで再考する必要があるでしょう」(高尾氏)

医療分野で踏み込んだICT利活用を考える際に、極めて大きなテーマとなるのが、個人情報保護だ。5月30日に全面施行となる改正個人情報保護法への準拠も必要となる。

高尾氏は「よく勘違いされますが、医療情報は病院のものでも医師のものでもなく、患者のものです」と指摘する。この基本を押さえておけば、個人情報保護についての考え方もスッキリしてくるというわけだ。そして氏曰く、「個人情報保護の仕組みを含めて、医療・ヘルスケア分野のICT活用には、これから企業が参加する余地がたくさんある」という。

「まずは研究者と連携したり、公的な補助金を活用したりしながら、自社ならではの製品・サービスを開発していけばよいのではないでしょうか」(高尾氏)