KDDIは2月22日、次世代のモバイル通信システム「5G」の技術実証でセコムと提携すると発表した。同社はセコム以外にも自動車や鉄道、教育、建設などの他分野で提携を進め、2020年を目標に5G技術の実用化を目指す。

また同日、サムスン電子の技術協力によって、28GHz帯における5Gのハンドオーバー実験に成功したと発表。より広い周波数帯域幅を確保できる高周波数帯を活用することで、安定した大容量通信サービスの提供を行う意向だ。

5Gは「飛躍的進化」

記者説明会でKDDI 技術開発本部 シニアディレクターの松永 彰氏は、「第1世代~第4世代のステップ的進化に比べ、5Gは”飛躍的な進化”になる」と、ブレイクスルーに対する期待感を口にした。

5Gでは、第4世代の「4G LTE」における高速・大容量通信「1Gbps」と遅延時間の「10ms」、接続デバイス数「(1平方kmあたり最大)10万個」という数字を大きく塗り替え、最大通信速度が「20Gbps」、遅延時間が「1ms」、接続デバイス数も「(同)100万個」と、いずれも10倍以上の数字を達成できる見込みとなる。

KDDI 技術開発本部 シニアディレクター 松永 彰氏

4Gの数字を大きく超える5G

これらの数字を達成するための技術としては、「高周波数帯の利用」と「エッジ・コンピューティング」「ネットワーク制御」が挙げられる。

大容量通信を行う場合、周波数の利用効率の向上がこれまでの第1世代~第4世代でも行われてきたが、それに加えてセルラー通信には不向きとされてきた2桁以上の周波数帯域の活用も行われる。それが冒頭で触れた「28GHz帯」だ。KDDIは、KDD時代の50年以上前から衛星通信で30GHz帯のノウハウを蓄積しており、ほぼ同帯域となる28GHz帯における運用に自信を見せる。「今利用している2.1GHz帯では、28GHz帯における800MHz帯域幅のような幅広いレンジの確保が難しい。携帯で高い帯域は難しいチャレンジだが、衛星通信で培ってきたものを活かして取り組んでいきたい」(松永氏)。

2.1GHz帯と28GHz帯の関係は「スプリンクラーで水を撒くのに対し、(後者は)ホースで1点を狙うようなもの」(松永氏)というように、非常にシビアな”狙い撃ち”の技術が求められる。これは高精度なビームフォーミング技術のことだが、冒頭に触れたようにサムスン電子と実証実験を行い、成功した。なお、評価・実証は市街地と首都高で行っており、サムスン電子の説明員によれば平時が3.7Gbps程度に対してそれぞれの通信速度は2.6~2.7Gbps、1.8~1.9Gbpsとやや下がるものの、高いビットレートを記録していたという。

実証実験に用いられた各種機材

IoT時代に必須な「エッジ・コンピューティング」

一方で、「エッジ・コンピューティング」はIoTの文脈で近年存在感を増すキーワードとなっているが、携帯基地局における制御においても活用が検討されている。中央集権的に処理していたものを、基地局などの末端に近いサーバーで処理するエッジ・コンピューティングだが、これにより低遅延を実現する。

AWS Greengrassではデバイスサイドでデータ送信コストの抑制やコネクティビティが担保されていない環境で安定した送信環境を実現するためにエッジで処理を行うが、5Gネットワークにおけるエッジ・コンピューティングは、このコネクティビティの担保と、応答速度の向上によって次世代アプリケーションの実現を目指す。

最後の「ネットワーク制御」では、現在はすべての通信サービスを”一つの土管”に通して運用しているが、5Gでは利用されているサービス・アプリケーションごとに論理回線を切り分け運用する「ネットワーク・スライス」を導入する予定だ。SDNなどの技術を活用すると見られるが、この技術によって狭帯域しか利用していないデバイスには狭帯域を、映像伝送などのブロードバンドを必要とする回線には、より広帯域を割り当てることでネットワークの利用効率を高める。

エンタープライズ需要がメインの「IoT」

ここで重要となるのが、冒頭のセコムらとの提携による実証実験だ。もちろん、IoT時代においてはコンシューマ1人が所有するデバイス数も増大するものの、例えば自宅用途であればWi-Fi環境にぶら下げるといったケースも多く、ウェアラブルデバイスについてもスマートフォンと紐付ける可能性が高い。

一方でIoTの主役はエンタープライズ層で、すでに大規模導入が進む工場だけでなく、これまでアナログ管理にとどまっていた一般小売や自動車、鉄道、建設など、”見える化”を望む企業、”ビッグデータ解析”を望む企業の導入が飛躍的に増大する見込みだ。

こうした企業ニーズを汲み取るためには、既存の4G LTE網で広いエリアをカバーする”面”を押さえつつ、5Gで集中的な多接続管理、または広帯域による映像伝送などを用意する必要がある。そのため、こうしたユースケースを直接企業からヒアリングするためにも、KDDIはセコムを始めとするさまざまな業界との提携を目指していると見るのが適当だろう。

同社は、VRやドローンスタートアップへの出資、そしてAWS専業SIのアイレットを子会社化するなど、IoT時代におけるエンタープライズニーズの汲み取りに全力を挙げており、IBM Watsonに注力するソフトバンクより、地に足をつけつつも「5G基盤」と高い次元でのマイグレーションを目指している印象を受ける。

VRやドローンは、5Gの技術革新要素の一つである「低遅延」の恩恵を受けるアプリケーションの筆頭であり、VRは遠隔地の重機操作、ドローンは被災地における迅速な状況把握など、業種・業態に合わせたソリューション展開が望める。(関連記事 : 【新春インタビュー】石川温が携帯3キャリアに聞く「IoTは飛躍するか」 - 「グローバル」と「セキュリティ」が鍵を握るKDDIの戦略)

特にセコムは、こうした新通信技術に積極的な企業であり、2003年のココセコムにCDMA2000 1xを採用するなど、早くからKDDIモバイル網の活用を進めてきた。5Gについても、実証実験を5月より新宿で行う。