テクノロジー業界の過剰な売り込みメッセージがあふれている現在、ビジネスとITを確実に連携させることはますます難しくなっている。CEOやCIOなど企業のリーダーシップ陣がこれらに惑わされ、貴重なテクノロジー・リソースを無駄にしてしまうリスクが増大していると言える。

ガートナー リサーチ バイス プレジデント 兼 ガートナー フェロー、マーク・ラスキーノ氏

このような背景を受けて、10月5日より7日にかけて東京・高輪で開催された『Gartner Symposium/ITxpo 2016』では、ガートナー リサーチ バイス プレジデント 兼 ガートナー フェロー、マーク・ラスキーノ氏が「CEOとCIOがテクノロジ投資を戦略と合わせるためのシンプルで強力な方法」と題して講演。CEOとCIOがビジネス上の最優先課題を見直し、最新のデジタル・テクノロジーによってこれらの課題を”狙い撃ち”できるように会話を運ぶための、シンプルな手法などが紹介された。

企業IT最大の問題は
ビジネス戦略とIT戦略の間の乖離にあり

登壇するやいなや、ラスキーノ氏は次のように問題提議した。

「各企業から送られてくるIT戦略文書を読んでいて気づいたことがある。それは、最初の見開きページに書かれている会社概要やビジネス戦略と、次の3ページ目に書かれているIT戦略を読むと、前者と後者の間につながりがないケースがほとんどであるということだ」

例えば、ビジネス戦略では”新薬を創薬していく”、”新薬の特許を増やしていく”と書かれていながら、IT戦略には”基幹システムのITコストを下げることに努力する”と書かれているようなケースである。

「その企業にとって最も重要なのが新薬の創薬だとするのならば、基幹システムのコストダウンがどうやってそれに貢献できるのかまったくわからない。ここに、現在の企業ITの根源的な問題があり、それはなんとしても解決しなければならない」と、ラスキーノ氏は厳しい口調で語った。

ガートナーの2016年CEOサーベイによると、CEOが示した上位5つのビジネス優先事項のうちの75%はテクノロジーに関連した課題ではない。では、なぜビジネス戦略とIT戦略がしっかり整合していないのだろうか。ここでラスキーノ氏は、考えられる理由を列挙していった。

まずよくあるのが、新しいCEOが就任したばかりというケースだ。

やりたいことをCEOが打ち出すには、就任後1年程度は必要になるかもしれないし、前任のCEOの施策を引き継ぎ今まさに実現しているところなのかもしれない。

また、2、3年前からの変革がほぼ終わりかけていて次の変革がないのが理由である可能性もある。さらに、M&Aが行われていたり、CEOがテクノロジーは二の次に考えていたりするのかもしれない。

そしてこれらの理由と併せて非常によくあるのが、CEOとCIOの人間関係に問題がある場合だ。

「CIOとCEOの間のギャップが拡大しているのではないかと危惧している。私はここにIT戦略とビジネス戦略とが密接に結びつかないことの潜在的な問題があると見ている。CEOがCIOを任命したときには、相手に十分なリスペクトを抱き、信用して任せてほしい」とラスキーノ氏は訴えた。