フリーのウイルス対策ソフトを提供するAvast Softwareは、ライバルであった「AVG Technologies」を13億ドルで買収し、事業拡大を図っている。買収の意図と今後の戦略について、Avast CTOでコンシューマ部門の上級副社長 兼 ゼネラルマネージャーを務めるOndrej Vlcek氏に話を聞いた。

Avast CTO Ondrej Vlcek氏

「ユーザー」と「センサー」が買収の目的

チェコが創業の地のAvastは、フリーのウイルス対策ソフトを中心に事業を展開。一方で買収されたAVGも、同じくフリーのウイルス対策ソフトを主力としてオランダで創業した。両社はライバルとして、長く市場で切磋琢磨してきたが、Avastによる買収でついに一体化することとなった。

フリーのウイルス対策ソフトという枠組みで「似た会社に見えていたと思うが、まったく違う会社だ」とVlcek氏は語る。フリーミアムモデルの採用こそ同一だが、AVGは英語圏に強く、Avastはそれ以外の言語圏で強さを発揮しており、「買収によってお互いの弱点をカバーできた」(Vlcek氏)。

これによってユーザー数は4億、売上高も7億ドルまで達する見込みとなる。ユーザー数だけであれば、コンシューマセキュリティ市場では最大となり、売上もシマンテックに次いで2位の位置につけるという。

およそ10年前、2005年のPCにおけるセキュリティソフト利用者は3億6500万ユーザーで、そのうち1億がフリーの製品を利用していた。これが2015年に7億8000万まで増加、フリーのユーザーは4億8500万まで拡大したという。ユーザー数の伸びにともない、収益も順調に拡大しているとVlcek氏は話す。

ユーザー規模の拡大が1つの目的だが、もう1つ「もっと多くのウイルスデータにアクセスしたかった」(Vlcek氏)という目的があった。

今やウイルス対策は「データの戦い」(Vlcek氏)であり、いかに多くの「センサーデータ」が取得できるかによって対策に違いが出てくる。買収によってAvastは、ユーザー数と等しく「4億」という数のセンサーが利用できるようになり、これによって巨大なセンサーネットワークが構築できるようになった。標的型攻撃のような局所的な攻撃を捉えるためにも、この規模感が重要となってくる。

一方で、規模感だけがセキュリティソフトのすべてではない。これまでの定義ファイル方式などでは、マルウェアかどうか判断できない場合に「ファイルの検体分析」を行う際、「人の手で分析していた」(Vlcek氏)。ただ、同社ではこのような分析に携わる分析官が150人しかいないことから、自動化処理に加えてマシンラーニング技術の活用を始めたそうだ。

マシンラーニング技術では、送信されてきたファイルが悪意あるファイルかどうかを学習させ、検出精度の向上を図る。この成果はファイル検査に活かされ、未知のマルウェア検知にも繋げる。機能の実現にあたっては、データセンターを米国に4カ所、欧州に4カ所、アジアに1カ所設置し、トータル2500台の実サーバー、仮想サーバーを8500台を稼働させているという。「人力の解析は、脅威が増加し続けている現状、対処するために組織を大きくしなければならず、実践的ではない」(Vlcek氏)。