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オーダーメイドスーツ販売を軌道にのせたFABRIC TOKYOのD2C戦略とは

[2021/09/06 09:00]山田井ユウキ ブックマーク ブックマーク

オンラインだけでなく実店舗も運営する理由とは

同社のサービスを受けたユーザは「利便性」にだけ満足するわけではない。オーダーメイドスーツを購入した顧客は、「新しい自分自身」を手に入れ、ライフスタイルも変化する。これが「変身」だ。

「利便性」で顧客を獲得し、「変身」という驚きを与えることで、顧客はFABRIC TOKYOのファンとなる。すると、LTVが上がり、収益にも好影響が期待できる。三嶋氏いわく、「高いロイヤリティーは”満足”ではなく”喜び”からもたらされる」のである。

   

(参考)「利便性」で顧客を獲得し、「変身」という驚きを与える/出典:FABRIC TOKYO(2021年8月)

FABRIC TOKYOは全国に14店舗のリアルストアを展開しているが、このことを意外に思うかもしれない。すべてのビジネスがオンラインで完結でき、オンラインならではの恩恵を強く受けている同社が、それでも実店舗を運営しているのはなぜだろうか。

その理由として三嶋氏は、Apple創業者であるスティーブ・ジョブズ氏の言葉を引用する。

「Appleの伝えたいことを直接顧客に伝えられる場所があることで、Appleの価値は最大化する」

この言葉は、ジョブズ氏がApple Storeの実店舗を展開している理由について述べたものである。FABRIC TOKYOが実店舗を運営する理由も、ジョブズ氏の言葉と同じだと三嶋氏はいう。

「リアル店舗を持つとコストも重くなります。ではお店がいらないのかというと、そうではないのです。お店を出していることで信頼を得られたり、検索トラフィックが上昇したりして、客単価やLTV、リピート率が向上するのです」(三嶋 氏)

大事なのはオンラインとオフライン両方のメリットを享受することだと三嶋氏はいう。オンラインにはスケール規模を青天井で拡大できるメリットがあるが、デジタル広告の高騰でCPA(顧客獲得コスト)がよくないという欠点がある。一方、リアル店舗はスケール規模こそオンラインに劣るが、CPAという点では意外に悪くない。つまり、オンラインとオフラインはそれぞれを補い合える立ち位置であり、うまく組み合わせて活用することで成長速度を上げられるのである。

 

(参考)リアル店舗が必要な本当の理由/出典:FABRIC TOKYO(2021年8月)

さらに三嶋氏は、D2C時代に重要な要素として、「データ」を挙げる。なぜなら、D2Cをおこなっていると、自然にデータがたまってくるからだ。たとえば顧客行動を可視化したアクセスデータ、どの顧客がどの商品を購入したのかという商品データ、またアンケート等で取得できるサービス満足度データ。これらをかけ合わせることで、高速にPDCAをまわし、商品企画やサービス改善に生かせるというわけだ。

また、気になるのが「既存大手の参入によりD2Cスタートアップ企業は窮地に陥るのでは」という疑問だ。

この点について三嶋氏は「既存大手の参入は簡単ではない」と答える。

なぜなら、既存大手が従来のビジネスモデルを大きく変更するためには、多くの壁があるからだ。たとえば、ビジネスモデルを変えるとなると人事評価の方法も変更せざるをえない。だが、多くの従業員や店舗を抱え、すでに人事評価の仕組みが完成している既存大手が根本から制度を変更することは簡単ではない。

加えて、既存大手企業はシステム開発を外注しており、開発がスタートアップよりも遅くなりがちなことも弱点だ。一方でD2Cスタートアップの多くはCTOやエンジニアチームを社内に置いているため、開発を迅速におこなえる。

そして、既存大手は経営陣やブランド責任者がスタートアップに比べて高齢で、ミレニアル世代やZ世代をターゲットとした世界観づくりが難しいという事情もある。

これらすべての壁を乗り越えられる既存大手企業はなかなかない。よって、現状ではまだD2Cスタートアップに有利な状況が続くと見られるのだ。

FABRIC TOKYO が考えるD2Cの見据える先とは

D2Cの未来は、小売のサービス化すなわち「Retail as a Service」であると三嶋氏はいう。

この概念は新しいものではなく、Appleなどがすでに実践しているという。MacやiPhoneといったハードウェアを販売しながら、一方でApple MusicやApp Storeといったサービスを通じて顧客と継続的に接点を持てることがAppleの強みというわけだ。

FABRIC TOKYOはこの概念を取り入れ、「Retail as a Service」へと乗り出そうとしている。それは「購入」がゴールではなく、「スタート」になる世界である。商品を売って終わりではなく、購入後の「利用」に寄り添っていくことで、FABRIC TOKYOのビジネスは次の段階へ進化できると三嶋氏は考えている。

コロナ禍を受けて、ECサイトの開設などオンラインに注力し始めた小売企業は少なくない。だが、その多くが「単に販路を増やした」に留まっていることも事実だ。

オンラインとオフラインを切り離すのではなく、両方のメリットをかけ合わせて戦略を組み立てること。データを活用して顧客像をつかみ、「体験価値」の提供でファンを増やし、LTVを向上させることが、今後の小売企業が生き残るポイントになりそうだ。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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