今春、独自の3Dボディスキャナーと接客AIが融合したサービス「3D smart & try」を提供して話題となったインナーウェア大手企業のワコール。デジタル技術を活用したオムニチャネル戦略に力を入れている同社だが、目指す”先”には何があるのだろうか。

8月7日、ワコール 執行役員 総合企画室 副室長 オムニチャネル戦略推進担当 下山 廣氏がIT Search+スペシャルセミナーに登壇。「ワコールが実現するデジタル技術を活用したオムニチャネル戦略~店舗を起点にお客様と深く、広く、長く~」と題し、同社が進めるオムニチャネル戦略の背景と現在の取組状況について解説した。

いかにして時代の変化に対応するか

1946年に創業したワコールは、時代の流れと共に着実な成長を遂げてきた。下山氏は同社の事業規模の遷移を次のように説明する。

「最初の成長期は1960年代。百貨店の販路中心に成長が加速しました。80年代には量販店の販路拡大に伴い成長を遂げ、その後は国内におけるブランド認知が拡大、直近は、M&Aや海外事業により成長し、現在に至ります」

ワコール 執行役員 総合企画室 副室長 オムニチャネル戦略推進担当 下山 廣氏

順調に成長を続けるワコールだが、実は日本国内に限っていえば、直近の20年間は成長が鈍化しているという。百貨店における売上のピークは1997年。以降、百貨店業態の市場は縮小し、量販店においても、特に衣料品の売上が減少してきた。また、一般家庭における通信費と衣料品に対する支出が逆転したのも、ちょうどこの時期である。

「この20年間、日本の消費者の可処分所得は増えていません。しかし、出費における通信費の上昇は顕著で、増えないお財布の中身の都合から、何かを節約する必要があります。そこで抑えられたのが衣料品だったと推測することもできます」

また、世帯年収の調査を振り返ると、1997年以降、一億総中流時代は終焉に向かって行ったと読み取ることもできる。

「一億総中流時代に発展したのが、主に百貨店などの従来型小売業でした。それらと一緒に成長しながらも、従来販路のみを見ていては、世の中の変化に十分対応できなかったと考えられます」

むろん、これからも百貨店や量販店などのチャネルは残り続けるが、それだけでは時代の変化に対応できないと下山氏は指摘する。

そこでワコールが取り組むのがオムニチャネルだ。

「ワコールにとってのオムニチャネルとは『ECを伸ばしましょう』ということだけではありません。お客様にワコールと過ごす時間を増やしていただくということなのです」

実はワコールのWeb販売額は、もともと12%程度とそれほど低くない割合だ。大手アパレルメーカーでも10%未満が多いことを考えると、ワコールはWebとの親和性が比較的高いと言える。

一方で「リアル店舗におけるサービスには改善すべき点があったのではないか」と下山氏は分析。ワコールでは現在、リアル店舗をデジタルで革新し、ECと連携させてワコール独自のサービス網を作る取り組みを行っている。

また、課題となっていたのは事業部ごとの分断だ。例えば、1人の顧客が百貨店で商品を購入し、さらに後日、直営店やWebでも購入したとする。マーケティング的に非常に重要なデータだが、これまでは「百貨店」や「直営店」、「Web」といった各事業部のシステムが縦割りで分断されていたため全体像をとらえられず、データが生かしきれていなかった。

そこでワコールは顧客データ、在庫データ、商品データの一元化に着手。より顧客サービスをパーソナライズ化し、顧客との接点を生涯にわたってつなげていくことを目指しているという。