7月31日、「マイナビニュースフォーラム2019 Summer for データ活用~成功事例から学ぶデータ活用~」が都内にて開催された。基調講演に立った6社は、いずれもデータ活用で一歩先を行く企業だ。

その中から本稿では、日本航空(以下、JAL)ブランドコミュニケーション・東京2020オリンピックパラリンピック推進部 Webコミュニケーショングループ長の山名敏雄氏が登壇した「JALの顧客エンゲージメント戦略 - データでわかった選ばれる航空会社の姿」の模様をダイジェストでお届けする。

いかに顧客接点を増やすか?

通常、「飛行機を毎日利用する」という人はあまりいないだろう。つまり、航空会社では「生活者の利用頻度が低い商材」を扱っていることになる。

こうした商材の場合、ブランド戦略は「非利用時においてどのように生活者とコミュニケーションをとり、ブランド体験の場を提供していくかが重要」(山名氏)という。

「生活者が何を基準にして航空会社を選ぶかと言うと、同じ条件であれば”なんとなく好き”という感情で選んでいるケースが多くなっています。これは、調査の結果データからわかったことです」(山名氏)

日本航空 ブランドコミュニケーション・東京2020オリンピックパラリンピック推進部 Webコミュニケーショングループ長 山名敏雄氏

「生活者が飛行機に乗らないときに、JALに関する何かを目にする機会は本当に少ない」――そう考えた山名氏は、いかに生活者との接点を創出していけばよいかを考えた。そこで取り組みを進めるのが、SNSの活用である。

2011年4月、まずはJAL公式FaceBookをオープン。ここでは、生活者とのコミュニケーションを通じて、「官僚的」など同社に対して抱かれやすかった”堅いイメージ”を変えていくことを目指した。具体的には、社員が実名かつ顔出しで登場し、自身の仕事やお客さまに提供するサービスへの想いなどを投稿するといった具合だ。

「例えば、現役の機長がこれから担当する便について、お客さまに語りかけるように投稿をすると、お客さまもよりJALとの関係性を身近に感じるようになるということが、データからわかります」(山名氏)

また、Facebookユーザーとのコミュニケーションを活性化させるための工夫として、ユーザーに呼びかけるような投稿でコメントを促したり、Facebookの投票機能を使って読者参加型の投稿企画を実施したりしている。「そうしたタイプの記事は、普段リーチしている人々以外にもメッセージが届くような印象を受けています」と山名氏は語る。

そして、やはり「リアルに会う」ことのインパクトは大きい。そのため、SNS上での交流に加えて、JAL公式Facebookページのファン感謝イベントも毎年実施している。

「一度リアルにつながった人は、その後も投稿を頻繁に見てくれるだけでなく、よりつながりが強固になることがデータにも現れています」(山名氏)

一方、JAL公式Instagramでは、20代と30代の女性をメインターゲットとし、直接話しかけるというよりも、「旅行に行きたいな」という気分を促すような投稿を心掛けているという。そのほか、TwitterやLINEについても公式アカウントを運用中だ。

これらのSNS上で生活者が投稿するJALに関するつぶやきや頻出ワードは、いわゆるソーシャルリスニングツールを利用すれば機械的に収集することができる。だが、山名氏らはあえて日々、全件の内容を自らの目でも追っているという。作業には毎日3時間ほどかかるが、それでも「絶対に必要なこと」だというのが山名氏の見解だ。

毎日目視で確認した投稿の中から社内で共有すべき内容をピックアップしており、それが実際にサービス改善につながったケースも多いという。

例えば、機内やラウンジ内でのサービスに対する生活者の(SNS上の)生の声のヒアリングを続けることで、さらなる商品展開やサービス改善につなげており、具体例として、JALのラウンジで提供するカレーがSNSで人気だったため、よりインスタ映えする黒の食器に変更されたケースが紹介された。

「生の声に耳を傾けることで、生活者がどういったことを考えているのかがわかるようになりました。これまでもさまざまな調査を行っていましたが、それらはリサーチ会社が生活者に答えてもらっていたものなので、本意ではない内容もあったかもしれません。しかし、SNSでのつぶやきは自分の意思で行っているため、SNSユーザーという前提はありますが、かなり本音が含まれていると見ています」(山名氏)