化粧品・健康食品メーカー大手のファンケルは、LINEの公式アカウントに人工知能(AI)を活用したチャットボットサービス「AI Messenger」を導入し、カスタマーサポートを強化した。

多くの企業でチャットボット活用が検討段階にある中、先行して導入したファンケルではどのような効果が得られたのか。また、導入・運用面で”想定外”は生じなかったのか。

本誌は、AI Messengerの提供元であるサイバーエージェント AIメッセンジャーカンパニーの事業責任者 米山結人氏と、ファンケル カスタマーサービス部 お問合せグループの廣石亮一氏、同 マネージャー 間納大介氏にお話を伺った。

左から、サイバーエージェント AIメッセンジャーカンパニー 事業責任者 米山結人 氏、ファンケル カスタマーサービス部 お問合せグループ 廣石亮一 氏、同 マネージャー 間納大介氏

「健康・得楽便」で問合せ倍増

間納氏と廣石氏が所属するファンケルのカスタマーサービス部お問合せグループでは、商品注文後の支払方法の変更や商品の発送状況の確認、定期購入サービスの変更・解約などといった問い合わせの対応を行っている。

スマートフォンをベースとしたデジタルシフトが進んだことで、電話による商品注文件数は減り続けている。一方で、問い合わせの件数については減る気配がなく、むしろ「健康・得楽便」という定期購入サービスの提供を開始した結果、倍増したという。

従来同部署では、電話とメールで問い合わせ対応を行っていたが、担当スタッフの年齢層が上がったうえ、柔軟な働き方を希望する人が増えるなど、コールセンターの環境も大きく変わっている。人員確保が難しくなり、人手に頼らない問合せ対応を検討しはじめた。

同社はまず、ECサイトのFAQページをリニューアル。FAQページ上に検索一致型のチャットボットを設置することで、ユーザー自身で疑問を解決できるような仕組みを整備した。

しかしながら、このFAQページは一定数の閲覧はあったものの、電話・メールのお問合せは思ったほど減らなかったという。

そんな課題を感じていたときにサイバーエージェントから提案されたのが、AI Messengerだった。

気軽に問合せでき、文字に残せるLINE公式アカウントを選択

より広い問合せを受け付けられる窓口を作るには、チャットボットをどこに設置するべきなのか。

検討の結果、ファンケルで運用していたLINE公式アカウントに組み込む形を選んだ。国内で最も浸透しているコミュニケーションツールに窓口を作ることでユーザーも利用しやすくなるのでは、というねらいだ。

ファンケルのLINE公式アカウントで「ワンケル君」を呼び出すとチャットボットが起動する。

廣石氏は、利用者側のチャットボット導入効果を次のように見込んでいたという。

「お客様から見ると、LINE公式アカウントにチャットボットを用意することで、気軽に問い合わせできるうえ、文字として残せるというメリットがあります。お問合せしていただいて疑問を解消できれば購買につながりますし、履歴が残れば安心して次のステップに進めます。 こうした新たなチャネルを持つことで、知らぬ間に離れていっていたお客様をつなぎとめられるはずです」(廣石氏)

現在、チャットボットで解決できなかった際に有人チャットへ切り替えるユーザーの割合は30%程度。残りの70%は離脱していることを考えると、「実際に利用者は気軽に利用できることに魅力を感じている」(廣石氏)ようだ。

運用側のメリットはやはり省力化だ。基本的にチャットボットが自動で返答するうえ、有人対話に進んでも、チャットであれば1人のオペレータで3人程度まで同時に対応できる。1対1のコミュニケーションとなる電話に比べると大幅な効率化だ。

「双方にメリットが大きいので、なるべく早くチャットボットを導入し、ノウハウを蓄積していきたいという思いはありました」(廣石氏)

現在、ファンケルのLINE公式アカウントにおけるチャットボットでの対応件数は月間3-5万程度。月によって変動があるというが、電話での件数とほぼ同程度の問い合わせがチャットで寄せられている。将来的には、チャットボットでの問い合わせが当たり前になり、電話の問い合わせを減らせればという考えだ。