飛行機に乗る目的は何だろうか。一見すると、搭乗する全員の目的は「目的地まで移動すること」で一致しているように思える。しかし、「なぜ移動するのか」を掘り下げて分析してみると、実は裏に多様なニーズが隠れていることがわかる。

全日本空輸(以下、ANA)はそうした顧客一人一人の目的に合わせた体験を提供するため、東急エージェンシーのビッグデータ分析ツール「Target Finder」を導入している。

9月14日、15日の2日間にわたって行われた「Adobe Symposium 2017」では、東急エージェンシー マーケティングイノベーションセンター データドリブンマーケティング局 プラットフォームソリューション部 データサイエンティスト 飯塚久哲氏とANA マーケティング室マーケットコミュニケーション部の石川圭太氏が登壇。「優れた顧客体験」に対するANAの考え方から、同社が実践するデータドリブンマーケティングについて、そしてTarget Finderの特徴や導入に至った経緯までが語られた。

優れた顧客体験とは何か? ANAが着目する「4つの要素」

現在、マーケティングは大きな変革のときを迎えている。その背景となっているのが、顧客体験の「場」の劇的な変化だ。

変化の中心となるのはスマートフォンの保有率。飯塚氏によると、個人保有率は全世代で56.8%であり、40代で80%、20~30代に至っては90%以上がスマートフォンを保有しているという。

当然、消費における影響も大きい。今や個人消費額の8%がスマートフォン経由の購入であり、購入に間接的影響を与える情報収集も19%がスマートフォンを起点としている。

これが意味するのは、「閲覧・購買・利用・移動」といった消費にかかわるさまざまな履歴データが、今後ますます増加するということだ。

スマートフォンによって増加したデータをいかに活用し、顧客に優れた体験を提供するか――それが今後のマーケティングを考える上でのポイントになる。

東急エージェンシー マーケティングイノベーションセンター データドリブンマーケティング局 プラットフォームソリューション部 データサイエンティスト 飯塚久哲氏

では優れた顧客体験とは何だろうか。

「優れた顧客体験には、4つの要素があります。『魅力的なコンテンツ』『パーソナル』『利便性』『あらゆる場所で』です」(飯塚氏)

顧客が誰で、どこにいて、どんなことに興味を持っているかといった「パーソナル」な情報をキャッチし、顧客の興味を捉えてひきつける「魅力的なコンテンツ」を、「利便性」を確保した上で「あらゆる場所で」届けるわけだ。

これを飯塚氏は「デジタル世界のおもてなし」と呼ぶ。

ANAではこのおもてなしを実現するために、4つの要素に着目しているという。

それは、「どのような顧客に」「どのようなタイミングで」「どのようなチャネルで」「どのようなコンテンツを」届けるのか、ということだ。

これらを明らかにするためのプラットフォームとしてANAが採用しているのが、「Adobe Experience Cloud」である。併せて、「どのような顧客に」という部分に特化したビッグデータ分析ツールとして、Target Finderも採用している。Target Finderは、Adobe Experience Cloudと合わせて活用することで相乗効果をもたらすのだという。

両ツールを活用し、ANAが実践するのが「データドリブンマーケティング」だ。期待する効果として飯塚氏が挙げるのは、大きく「コミュニケーションの最適化」と「顧客理解の深化」の2点。

「ここで課題となるのは、データを顧客理解にどう使うのかということです」(飯塚氏)

顧客理解の手がかりとなるデータには、さまざまなものがある。会員情報、購買履歴、閲覧履歴、移動履歴などがそれだ。しかし、これらをどう活用すればいいのかがわからないケースが多い。

「顧客理解のための第一歩はセグメンテーションです。顧客を『わかる』ことと『分ける』ことは同義なのです」(飯塚氏)