誰もがスマートフォンで即座に情報を検索し、SNSでシェアする時代がやってきた。デジタルチャネルを活用した顧客とのコミュニケーションはもはや必須であり、企業はより質の高いカスタマーエクスペリエンスを提供する必要に迫られている。では、それらをどのように実現していけばよいのだろうか。

アドビ システムズは2月23日、年次カンファレンス「Adobe Marketing Cloud Customer Experience Forum 2017」を開催した。基調講演にはアドビ システムズ 代表取締役社長 佐分利ユージン氏、アドビ システムズ社 デジタルマーケティングBU Marketing Cloud エバンジェリズム統括責任者 マーク・イーマン氏、MGMリゾーツ・インターナショナル メディア担当 バイスプレジデント メーガン・エストラダ氏が登壇。デジタルマーケティングとカスタマーエクスペリエンスに対するAdobeの考え方と提供するツール、さらに具体的な事例が語られた。

デジタル時代の「課題とチャンス」

佐分利氏は冒頭、今年1月に米国で行われたCES(Consumer Electronics Show)に言及し、「AI(人工知能)や自動運転という言葉がキーになっていた」と振り返る。特に印象的だったのは、AIを搭載した自動車だったという。

「トヨタが出展していたコンセプトカーはAIを通してドライバーとの関係を作り、ドライバーと会話して性格や趣味を理解します。カスタマーエクスペリエンスは、どんどん変わっていくと思いました」(佐分利氏)

アドビ システムズ 代表取締役社長 佐分利ユージン氏

こうした体験を踏まえ、氏はデジタル時代の「課題とチャンス」として、次の3つをポイントに挙げる。

それは、「消費者は常にオンライン」であること、「データが爆発的に増加」していること、そして「デジタルディスラプション」が必要であることだ。

企業と顧客の接点は多様化しており、今後はデジタルネイティブが消費の主役になる。顧客は企業により質の高い「体験」を求めるようになり、体験にお金をかけることをいとわなくなるというのだ。

こうしたなか、デジタルディスラプション(破壊的創造)が起きつつあるという。

「例えば、世界一大きなタクシー会社であるUBERはタクシーを1台も所有していません。デジタルによる破壊的創造、これをチャンスととらえるか、その犠牲になってしまうのか、今が重要なタイミングなのです」(佐分利氏)

Adobeが提供する統合型デジタルマーケティングプラットフォーム「Adobe Marketing Cloud」のアプローチはシンプルだ。データを活用してコンテンツを提供することで、顧客との接点をよりパーソナライズしたかたちで届ける。

これを実践して成功したのが、移動体通信サービスを提供する独T-Mobileの事例である。同社はグローバルローミングを無料にし、契約の年間縛りも撤廃した。余った通信データは繰越可能にして、Webサイトの大幅なリニューアルを行ったのだ。

取り組みの裏には、「若者はスマホを電話として使わない」というデータがあった。T-Mobileはサポートをテキストベースで行えるようにし、しかもユーザーが好きな時間に連絡できるようにした。

また、UBERと提携し、インターネットで注文した商品を配達するサービスも始めた。徹底的に消費者のエクスペリエンス(体験)に寄り添った結果、加入者は倍増。特にインターネット経由での申込みは11倍にもなったという。

「これぞ、まさにエクスペリエンスビジネスだ」と佐分利氏は強調する。

昨年秋、Adobeは「Adobe Sensei」というテクノロジーを発表した。AI・マシンラーニングを統合したフレームワークと同社のクラウドサービスに組み込まれているインテリジェントサービス群を包括したもので、現状では「Adobe Creative Cloud」「Adobe Marketing Cloud」「Adobe Document Cloud」に搭載される。ユニークなのは「エクスペリエンスにフォーカスして開発したところ」だという。

いかにしてAdobe Senseiは生まれたのか。

ここで登壇したのが、イーマン氏だ。