アドビシステムズは4月27日、カスタマー・エクスペリエンスに関するカンファレンス「Adobe Marketing Cloud Customer Experience Forum 2016」を都内で開催した。当日はAdobe製品担当者やパートナー企業によるセッションが行われ、デジタル時代のカスタマー・エクスペリエンスに関する取り組み事例が多数紹介された。本稿では基調講演の模様をレポートする。
優れた顧客体験を提供するために、何が必要か?
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アドビシステムズ 代表取締役社長 佐分利ユージン氏 |
「デジタルディスラプション」――それはデジタルによってもたらされた”破壊的創造”を意味するキーワードだ。
アドビシステムズ 代表取締役社長 佐分利ユージン氏は基調講演の冒頭、この言葉で現代社会をとりまく状況を説明した。FAXからEメールへ、書類による顧客管理からデータ管理へ、デスクトップPCからスマートフォン・タブレットへ。インフラの高速化とモバイルデバイスの発達、そしてデジタル世代の台頭により、ビジネス環境がかつてないほどのスピードで変わり続けていることは誰もが感じていることだろう。
こうした状況の中で「新しい顧客体験が必要になっている」と佐分利氏は説明する。例として挙げられたのは民泊サービス「Airbnb」だ。リオ五輪と正式に提携するなど海外ではすでに定着しており、ホテルとはまったく違う”新しい宿泊体験”を提供することで支持を得ている。日本ではまだ諸問題を抱えるAirbnbだが、2020年の東京五輪に向けて民泊サービスを解禁する自治体も出始めている。
では、優れた顧客体験を提供するためには何が重要なのか。佐分利氏によれば、顧客を行動に駆り立てるのは「魅力的なコンテンツ」であり、そのためには「美しいビジュアル」が必要になるという。また、顧客は一貫性のあるコミュニケーションを求めており、例えば従来の店舗や電話によるサポートだけでなく、スマートフォンやタブレット、デジタルサイネージなどを束ねてシームレスに体験を提供することが重要なのだ。
一方、どの分野においてもコンテンツの制作から配信までのスピードは高速化している。その中で優れた顧客体験を生み出すにはデータを活用することが不可欠だという。もちろん直感も大切だが、それを正確なデータ分析と組み合わせることで顧客体験を改善できるのだ。
Adobeが現在、ビジネスの柱とする「デジタルメディア」、「ドキュメントクラウド」、「デジタルマーケティングクラウド」の各事業は、こうした多様化・高速化するビジネス環境をサポートするものだという。
「データを活用した魅力的な顧客体験を実現し、世界を変革することがAdobeのミッションです」(佐分利氏)
ビジネスの歴史における第三の「破壊的創造」が起きている
「優れた顧客体験」とは何なのかについてくわしく見ていこう。アドビシステムズ デジタルマーケティング事業部門 ストラテジー ビジネスデベロップメント&マーケティング担当 バイス プレジデントのジョン・メラー氏は、「現代はさまざまなチャネル、タッチポイントが生まれている時代であり、プロダクトを売るだけでなく体験こそが重要である」と改めて強調。マーケターとして知っておくべきは「製品を売るのではなく、体験を売っているということ」だと述べる。
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アドビシステムズ デジタルマーケティング事業部門 ストラテジー ビジネスデベロップメント&マーケティング担当 バイス プレジデントのジョン・メラー氏 |
ここで重要なのは「シームレス」であることだ。たとえばTVでバスケットボールの試合を見ている場合、それだけではもはや顧客を満足させることは難しい。顧客が求めているのは、TVを消した後でもスマートフォンやタブレットで簡単に試合の続きを見られることだからだ。つまり、顧客が求めている体験とは「継続性と一貫性がある体験」なのである。言葉で言うのは簡単だが、そのためには製品の開発からスタッフの報酬体系に至るまで、ビジネスのあらゆる要素を変えていかなければならない。これだけの地殻変動はきわめて稀な出来事であり、過去50年のビジネスの歴史において「第三のディスラプション」にあたるとメラー氏は言う。
では、第一、第二のディスラプション(破壊的創造)とは何だったのか。ビジネスの歴史を紐解いてみよう。
最初のディスラプションは1960年代、「バックオフィス」に起こった。それまでばらばらだった各部門をデジタル的につなげることが可能になり、バックエンドのシステムで効率的に製品を管理することができるようになった。これらはERPソリューションと呼ばれ、今では当たり前のものになっている。
そして第二のディスラプションは、約20年前に起きた「フロントオフィス」の変革だ。CRMシステムの登場で顧客管理が飛躍的に発展したものの、これも普及するにつれて当たり前のやり方となり、競合優位性は消滅した。
第一、第二のディスラプションに共通するのは「企業側が中心となる変革」だったことだ。しかし第三のディスラプションの中心となるのは企業ではなく顧客、すなわち「消費者」であり、波に乗り遅れてしまうと顧客から容赦なく批判されるリスクもあるという。
こうした「エクスペリエンスビジネス」を成功させるために、重要なのは顧客からどう見られているかを知ることだとメラー氏は語る。顧客がエクスペリエンスビジネスに望むもの、すなわち、次の4つだ。
私を知り、尊重してほしい。自分がほしいと思うものを先んじて提供してほしい。プライバシーを尊重しながらもすべてやってほしい
1つだけのわかりやすいメッセージを伝えてほしい。企業についてのメッセージではなく、自分にとって関連性のあるメッセージを提供してほしい
テクノロジーを意識させないでほしい。アプリやスマートフォン、ウェアラブルデバイスなどを格好がいいという理由で入れるのではなく、正しく使ってほしい
いつでも喜ばせてほしい。将来当たり前になることを、今提供して驚かせてほしい(例えばスマホのように)
これらを満たすことは簡単ではないし、技術だけでは難しいだろうとメラー氏は言う。重要なのは会社組織自体が変化を受け入れること。しかし、何十年も変わらなかったものを変えるのはなかなかに困難だ。データだけを上司に見せても説得は難しい。そこにストーリーがないからだ。
ではどうすればいいのか。
メラー氏はエッフェル塔を例に挙げて次のように説明する。
「エッフェル塔は1万8,000の個別の部品と250万個ものリベットからできている。その数字は重要なデータではあるが、それだけでは意味はない。それよりもエッフェル塔を訪問することで個人的な体験がそこに生まれる。何歳だったのか、天気はどうだったのか、そうすることで意味のある体験になっていく」
データも大事だが、そこにストーリーを届けないとエクスペリエンスにはならない。ストーリーを通すことで人の感情を揺らすことができ、そのときこそ変革を起こすことができるのだ。
※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。
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