オブジェクトストレージを展開するスキャリティ主催のイベント「Scality SDS Day 2017 Tokyo」が10月18日、都内で開催された。本稿では、マネージドクラウドサービスを展開する米Rackspaceのテクニカルディレクター、ダン・シャイン氏による事例講演の模様をダイジェストでお届けしよう。

システムダウンによるコストを「未然に防ぐためのコスト」

「データセンターの保守運用に携わる担当者のプレッシャーは、日々増大し続けています。当社にとって、高可用性は非常に重要なポイントであり、顧客のデータを失うことは絶対にあってはならないことです。その上でさらに、素早いレスポンスを担保しなければなりません。このような課題を前に、私たちは適切なプロセスを導入し、万一データセンターがダウンしたとしても、すぐに切り替えられる冗長性の実現に注力しています」

米Rackspaceのテクニカルディレクター、ダン・シャイン氏

――登壇したシャイン氏は、冒頭、こう力説した。

IT部門はコストセンターだとやゆされることも多いが、シャイン氏曰く「その『コスト』をどう捉えるかが重要になってくる」のだという。システムや人員にかかる経費も当然ながらコストの1つだが、もしシステムがダウンしてしまえば、顧客が離れるだけでなく、ペナルティも発生する。

「そこまでを含めてコストだと捉えるならば、『システムダウンを防ぐためのコスト』というのは、必然だと言えるでしょう」(シャイン氏)

こうした考え方の下、Rackspaceでは、障害に強く、高パフォーマンスで運用性に優れたデータセンターを実現するためのストレージプラットフォーム製品・サービスの導入を検討することとなった。当初検討した製品は23種類あったが、そのうち18種類については「すぐに除外できた」(シャイン氏)という。そして最終的に、「AWS」「RIAK」「Scality」「MapR」「Ceph」の5つの製品・サービスが候補として残った。

これらの製品を対象に、同社はパフォーマンステストと障害テスト、マネジメントテストの3種類のテストを実施して比較検討を進めていった。

まずパフォーマンステストについては、AWSを除いた4製品はどれも概ね良好な結果を示したが、一部でデータのデリートが遅い製品もあったという。次の障害テストでは、かなりのCPU負荷をかけたところ、ソフトウェアアップグレードを実行した際にアプリケーションが止まってしまう製品もあった。

「特定の障害発生シナリオに沿ってテストをした結果、ScalityとRiakが良好な成績を見せました」と、シャイン氏は振り返る。

最後のマネジメントテストでは、拡張性が重要となるが、ノードのリムーブ時に製品間での差が表れた。ここではネットワークの安定性が必須事項だと改めて確認されることとなったという。

「パフォーマンスに関しては4製品が及第点を獲得しましたが、オペレーション性や継続性までを含めて評価すると、私たちが受け入れられる成績を収めたのはScalityだけでした」(シャイン氏)

オペレーションのCAPEXを26%削減

現在Rackspaceでは、オブジェクトストレージ対応SDS(Software-Defined Storage)の「Scality RING(以下、RING)」をイリノイ州シカゴとバージニア州内にある2つの主要データセンターに導入しており、サーバラックごとに数百万の顧客をサポートできる体制を整えている。

シャイン氏はRING導入の成果について「ちょうど今朝、1,300以上あったラックのうち500ものラックを廃棄できたところです。今年はハードウェアの追加コストが発生しておらず、私たちにもたらされたメリットは大きいと言えます。さらに、オペレーションのための人員も半分にできるなど、オペレーションに関するCAPEX(Capital Expenditure:資本的支出)は実に26%も削減することができました」と説明する。

ほかにも、RINGを導入したことでラック当たりのキャパシティが向上した結果、従来コスト負担の大きかったテキサス州のデータセンターが不要となり、そこにあったラックの排除などによって200万ドルのコスト削減を果たしている。

コスト削減に加えて、オンボードに要する期間も短縮することができ、ときにはわずか2週間で完了するケースもあるという。

「RINGを導入したことによる成果は確実に表れています。今後はさらにRingの活用を進めることで、2018年の第1四半期中には3割近い規模の拡張を予定しています。これにより、顧客に対してさらに高い可用性を提供できるでしょう」──シャイン氏はこう展望を語り、講演を締めくくった。