米PTCのプライベートカンファレンス「LiveWorx 2018」(会期/6月17日~20日:米ボストン開催)では、製造業の現場でAR(拡張現実)やIoT(Internet of Things)を活用し、製造プロセスの効率化や保守作業の改善、さらにトレーニング時間の短縮を実現する仕組みが数多く展示された。かねてからPTCでは「IoTやAR技術の普及でフィジカル(モノ)とデジタルの融合が進み、製造業に変革が起きる」と提唱している。

日本の製造業においてAR技術は、そのコンセプトが理解されつつある段階だ。一方、米国では現場での導入が進んでいる。今回のカンファレンス展示会場では、その具体的な事例が紹介されていた。

「LiveWorx 2018」の展示会場では製造や小売など、PTCの製品が現場でどのように利用されているかのデモが多く見られた

ARで手順を確認、IoTドライバでネジを締める

展示会場の中で多くの来場者の関心を集めていたのが、IoTとARを製造現場で導入した「X-Factory」(デモ)である。ここでは実際の工場を模した6カ所のステーション(作業工程)で、PTCのIoTプラットフォームである「ThingWorx」を導入し、Raspberry Piのような小型コンピュータ「シグマタイル」を製造する一連の工程を披露していた。

IoTプラットフォームの「ThingWorx」とARプラットフォームの「Vuforia」を導入した「X-Factory」(デモ環境)

例えば、アセンブリの工程では、ARプラットフォームの「Vuforia(旧ThingWorx Studio)」を活用して、「どのパーツを」「どのような手順で」「どこに」取り付けるかの作業手順をモニターに表示させる。作業者はモニターを確認しながら正確に作業することで、不良品の数を低減できる。こうした作業の徹底は、製品を購入する顧客側にとっても、製品の初期不良/不具合などによるダウンタイムを削減できるメリットがある。

左上の画面に表示されているのは、実際の作業机の様子。ここで「どの箱から」「どの部品をピックアップし」「どこに配置するか」までをARを使って指示する

それぞれの作業機器はネットワークに接続され、作業(稼働)データはThingWorx上に格納される。例えば、重量計では各製品の重量データをThingWorx上で保存できる仕組みになっている。また、各パーツを取り付ける電動ドライバは、最適なネジの締め付け値があらかじめ設定されており、正常に取り付けられたかどうかのデータが全て記録される。

IoT電動ドライバ(写真中央左)は、その動作データが全てThingWorxで収集される

テスト工程でも、検査データは全てThingWorxに格納される。全てのデータを収集することで、出荷後に不具合が発生した際、製造工程データを分析すれば、故障原因の早期特定につながるというわけだ。さらに、出荷の際の付属品確認などは、ARで確認できる。これまでは紙のリストを見ながら確認していたため、抜け漏れがあった。しかし、ARであれば画面表示されている付属品を観ながら箱詰めすればよいので、時間短縮にもなる。

工場のバックヤードから部品を補充するヒロテックのロボット

工場のバックヤード部分でも自動化が進む。パーツを補充するのはロボットの役目だ。会場ではヒロテック(本社:広島)の6軸ロボットが、少なくなったパーツを倉庫からピックアップし、自動補充するデモが披露されていた。ロボットの指部分(写真中央赤枠)には3Dカメラが備わっており、画像認識データを基にパーツをピックアップしたり、パーツの入った箱を並べ変えたりする。その誤差の範囲はゼロコンマミリ程度だという。

ロボットの指部分(写真中央赤枠)には3Dカメラが備わっており、物体を認識してピックアップする