VRならではの苦労と工夫

今回のゲーム開発において、VRならではの苦労として増田氏が真っ先に挙げたのが、いわゆる「VR酔い」に関する苦労だった。

「強い映像変化を与え続けると酔いやすいことから、移動速度をかなり抑えた。また、通路の左右カーブや上下の急激な変化も酔いやすいので、変化の制限を加えた」と増田氏は説明した。

また、負荷に関する苦労もあったという。PlayStation VRは60fpsが最低条件となっており、これ以下であると酔いやすい。しかし、普通に作り込んだところ処理落ちしていたことが判明。そこでGPU/CPUが安定するまで、ポリゴンとオブジェクトを削減することで対応するようにしたのである。

もう1つの苦労が、立体感についての苦労だ。

「VRは立体視なので凹凸感で嘘をつくことができない。例えばシャボン玉エフェクトでは、ビルボードだと頭の動きで&ldquo板っぽさ&rdquoがバレてしまったので、コツコツとメッシュで作成するようにした。ただし絵作りに関しては大変なことは特になかった。Unityを1週間触った程度の知識と基本機能でも十分だったからだ」(増田氏)

初めてVRゲームを作ってみてわかったこと

再度、北尾氏が壇上に上がり、今回の開発について統括した。

「VRだからこそできることをやろうと、見た目がVRなだけでゲーム性に変化の無いものは作らないようにし、今までのゲームのお約束をとにかく捨ててVR向けのゲーム作りに注力した。その結果、様々なことが見えてきた。1つは、机上の企画よりも、エディターとHMDでの試作や試遊をとにかくやってみることが大事だということ。机上と実際だと違うことが非常に多いと実感した」(北尾氏)

一方で北尾氏は、VRゲームを売ることの難しさについて、自社での失敗を踏まえてこう語った。

「&ldquoHMDインパクト&rdquoの宿命だが、やはりPV(Promotional Video)だけではなかなかゲームの魅力を伝えることが難しい。とにかくHMDを被って体験したもらう機会を増やすしかない。そこで出展メインの展開としたが、それと同時に、プレイヤーの動きの出るゲームにするなど、第三者にも楽しさが伝わる工夫も必要だと感じている」(北尾氏)

また、1回のプレイ時間が短くなるよう考慮することも大切だという。10分から15分ぐらいを目処とし、より早いタイミングで心をつかむような演出や遊びを入れるといった工夫が求められるのである。

そして「自分達の課題でもある」として北尾氏が強調したのが、プラットフォームのローンチに間に合わせることだ。

「ローンチに間に合う、間に合わないの差は大きい。我々もPlayStation VRのローンチのタイミングを目指していたが、結局間に合わなかった。もし間に合っていれば、メディアの取り上げ方なども違っただろう」(北尾氏)

ジェムドロップでは今回、初めてのVRゲームを作ってみて、様々な知見が得られたとしているが、チームでの連携の重要さもその1つだ。

「VRは新しい表現や新しいゲームデザインがまだまだ可能であり、チーム全体で方針転換を理解したうえで一体となった連携がすごく大事だいうことがわかった。HMDのハードウェアは日々進化しているし、入力装置も進化が速くモーションキャプチャーの代用にもなるレベルになっている」(北尾氏)

そして北尾氏は最後、次のように力説して講演を締めくくった。「VRの未踏範囲は山ほどあり、まだまだVRへの挑戦は続いていくだろう。VRの本番はこれからなのだ」