一時の勢いはなくなったにせよ、ポケモンGOが与えたインパクトは絶大だ。昔から存在した位置情報ゲームの代表格、AR(Augmented Reality:拡張現実)の代表格、いや、先進例として捉えられていると言ってもいい(関連記事:開発責任者が語った「ポケモンGO 誕生秘話」 - 始まりはエイプリルフール)。

もちろん、爆発的なヒットに至った背景には、ポケモンという有力IPの活用はもとより、Ingressという大ヒットゲーム(ポケGOほどではないが)の存在がある。しかし、フィーチャーフォンの時代から位置情報ゲームを提供していた日本国内のゲーム開発者からすれば、忸怩たる思いもあることだろう。

ただ、恨み節を呟くだけでは何も始まらない。ポケモンGOによって、消費者が「位置情報」を利用したスマホコンテンツに目を向けている今、この機を逃すことなく文化として定着させることがアプリ開発者の使命とも言える。

2014年から高精度の位置情報を活用していたJR東日本

NTTドコモと東日本旅客鉄道(JR東日本)は2014年3月より、ドコモのビーコン用ソリューション「Air Stamp」を山手線の車両内で活用して「JR東日本アプリ」における車内状況の情報配信などに役立てている。また、2015年3月には、ドコモのO2Oサービス「ショッぷらっと(サービス終了済み)」におけるO2O送客サービスの実証も行っていた

AirStampがスタートした2014年3月当初、ここのところ注目を集めているビーコン技術のBluetooth LowEnergy(BLE、低消費電力で位置情報など必要最低限のデータを送る無線規格)が普及前であったことから、人間には聞こえない非可聴音域(18kHz~20kHz)の音波を使った「音波ビーコン」を組み合わせてサービスをスタート。BLE非対応デバイスでもスマートフォンのマイクで非可聴音域を拾うことで、特定エリアにおける位置情報の可視化と、それに伴うクーポン送信などを行えるようにした。

BLEのビーコン端末が増えた現在、音波ビーコンは必要ないようにも思えるが、JR東日本の松藤氏によればAir Stampの採用理由は「音波ビーコン」だったそうだ。

「『電波』というものは、ガラスを突き抜けてさまざまな場所に浸透します。それでは、車両ごとに異なる位置情報を付与することができない。音波ビーコンはその問題を解決できる。音波はガラスを突き抜けにくく、車両ごとで混信することがない」(東日本旅客鉄道 IT・Suica事業本部 業務推進部 ICTビジネス推進グループ 松藤 淳一氏)

東日本旅客鉄道 IT・Suica事業本部 業務推進部 ICTビジネス推進グループ 松藤 淳一氏

音波ビーコンで車両位置を特定

列車走行位置情報もAPI形式で提供される

アプリコンテストではプロモーション支援も

JR東日本とドコモはこの秋、山手線に設置されたビーコンを活用した「アイデア・アプリコンテスト」を開催。列車走行位置の位置情報をAPIとしてJR東日本が提供し、Air Stamp SDKを組み合わせて利用したアプリを作るのが趣旨で、1月27日に応募締め切り、2月20日に鉄道博物館で発表会が行われる。なお、上位入賞者には山手線チェックインのAPI利用半年分が送られるほか、商用環境のテストマーケティング、最優秀賞を受賞したチームにはプロモーション支援の特典もある。

このアプリコンテストの先駆例となるのが、サントリーが2015年に行った「山手線LUCKY TRAINキャンペーン」で、山手線に乗ってアプリを起動してチェックインボタンを押すだけで新製品(当時)が当たるというものだ。

この例では、特定車両の位置情報は使わず、「乗車状況」のみを把握して広告訴求を行った。その反応は上々で、事例紹介にも名を連ねるように「1万本用意したサンプリングはあっという間になくなった」(NTTドコモ スマートライフ推進部 ビジネス基盤戦略室 マーケティング戦略 送客・CRM担当主査 西村 幸子氏)そうだ。

日本全国を見渡した時、「山手線でしか利用できないアプリ」の価値はあまりないように思える。しかし、週間利用者がのべ1800万人、1日630本が発着する東京の基盤路線は、「ジェイアール東日本企画さんの電車のラッピング広告『ADトレイン』の出稿が絶えず続いているように、単なる1路線ではなく、地方や海外への波及効果を考慮すれば、唯一無二の存在価値があります」と西村氏は話す。

ただ、JR側(正確には広告を担当するJR東日本企画)にも悩みはある。スマートフォンの普及によって、乗車中の”スキマ時間”行動がスマホに一極集中してしまっているためだ。以前であれば新聞や本を読む人がまばらにいた程度であった車内環境が、かなりの割合でスマホに集中している現状、車内広告の広告価値が岐路に立たされてしまっている。

これを、スマホと連携可能なソリューションによってリバランスするのがアプリコンテストの目的の1つとなる。

「JR東日本さんは、都内における通勤通学が『しんどい』と思われている環境を、少しでも『楽しく、便利に』という気持ちに変えていきたいと考えられています。従来型の交通広告よりもデジタルへの出稿が避けられない環境下で、いかに自分たちの強みを活かすか、という時に、デジタルとの融合は避けられない話。ただ、単なる広告だけでは楽しめないのも事実です。

そこで、この秋にビーコンを活用したゲームをコーエーさんに出していただきました。あくまでこれは広告ではなく、ユーザーが楽しめるコンテンツとしてわかりやすいものになっていますが、単なるB2C以上の、B2B2Cに繋げられる仕組みだと思っています」(NTTドコモ 同担当 高 明基氏)