遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます! 本年もハイブリッドクラウド研究会、そして本連載をどうぞよろしくお願いいたします。

今回は、2019年11月~12月にかけて開催した勉強会のレポートを凝縮してお届けした上で昨年1年間の研究会活動とクラウド関連トピックを振り返り、2020年の潮流を読むヒントにしていきたいと思います。

第8回勉強会

昨年11月4日~8日、米国オーランドで開催された技術者向け年次カンファレンス「Microsoft Ignite」。その最新フィードバックを共有する勉強会を11月14日に開催しました。

ハイブリッドクラウド時代に新たな可能性を秘めた「Azure Arc」

メインセッションには、日本ビジネスシステムズ 胡田昌彦氏が登壇。「(おそらく)日本最速! Microsoft Ignite 2019からのHybrid / Edge関連最新トピック紹介」と題し、Igniteの基調講演やAzure関連セッションで語られたMicrosoftのハイブリッド戦略とAzure最新情報を凝縮した解説が繰り広げられました。

日本ビジネスシステムズ 胡田昌彦氏

セッションのまとめ

  • イベント開催に合わせて「Book of News - Ignite 2019」というサマリーレポートが公開されている。サマリーにも関わらず87ページに及び、そのうちハイブリッドクラウド関連では90以上もの新機能がアナウンスされている
  • Azure Stackファミリーのリブランディングの発表を皮切りに、ハイブリッドクラウド、マルチクラウド管理を実現する「Azure Arc」が発表された。Azure Arcによって「クラウド/オンプレ含めて管理できること」が自然なスタイルとなることを目指している。これがMicrosoftの解であり、「Any Hardware、Any Kubernetes(所有するいかなるハードウェア、Kubernetesディストリビューションをも問わない)」のコンセプトが打ち出された
  • Azure Arcによってクラウドからさまざまな環境を一元管理することを目指す一方で、「Windows Admin Center(WAC)」といったWindows Serverの機能拡張も継続。WACを利用すること事で、Azure Backupとの連携などをシームレスに展開可能とし、クラウドからもオンプレミスからも一貫した管理を目指している

Azure Arcの登場によって、ハイブリッドクラウド、マルチクラウドのスタイルがより多様性を持つかたちに進化していくことを感じました。一方で、AWSやGCPといったほかのクラウドベンダーも同様にプライベート/パブリッククラウドを跨いだソリューションを提供する戦略を強化していくことは想像に難くないと思います。

Microsoft CTOであるマーク・ルシノビッチ(Mark Rusinovicci)氏が「Hybrid 2.0」を提唱していますが、我々研究会が昨年策定したハイブリッドクラウドガイドラインも新たな潮流を汲みながらアップデートしていきたいと思います。

QA、そしてライトニングトーク

勉強会恒例、匿名投稿サイト「Mentimeter」を利用したQAセッションでは、多くの質問が寄せられました。

今回は、Igniteで現地入りしたコミュニティメンバーが回答するスタイルで実施しましたが、とりわけ注目されたのはやはりAzure Arcに関する以下のような質問です。

  • Azure Arcの優位性
  • Azure Arcの課金システムはどうなっているのか

現地でもアナウンスされて間もないもので、ベールに包まれていることが多いため、明確な回答ができない点もあったのですが、判明している情報を基にコミュニティメンバーと参加者がディスカッションすることができました。

QAに続き、筆者のほか、NTTコミュニケーションズ 竹内成和氏、ヒューレットパッカード 原聖氏、日本ビジネスシステムズ 木村嘉秀氏、レノボエンタープライズソリューションズ 米津直樹氏、三井情報 松本雄介氏、レノボエンタープライズソリューションズ 柴田明彦氏、ヒューレットパッカード 惣道哲也氏の8名によるライトニングトークを実施。

現地参加したかどうかに関わらず、Microsoft Igniteから得られた知識/体験が惜しみなく披露される時間となりました。筆者も今回はトップバッターとして、Igniteに少しでも興味を持っていただけるようにお話したつもりです。LT資料は、Conpassの資料サイトで公開しています。ぜひ、ご覧ください。

第9回勉強会&第2回ハンズオン

12月9日は、初の試みとしてハンズオンと勉強会を同日開催。ハンズオンではまず、日本マイクロソフト 高添修氏が登壇し、「Azure Stack Hub」の概要について解説した後、手法はそのままに、Azure Stack HubによるAzure/Azute Stack双方のシームレスな管理を実演するデモが行われました。

高添氏はAzure Stack Hubの提供形態や機能一覧を紹介した後、簡単なデモによって使い勝手を披露した

後半の勉強会では、「Azure Stack Hubを導入して分かった10のこと」と題して三井情報の松本雄介氏が登壇。約2年間の経験で培ったAzure Stack Hubの知見が余すことなく語られました。

松本氏は実体験を基に、Azure Stack Hubを導入して良かった点のほか、導入を検討する際のポイント、運用する際のポイントを説いた

セッションのまとめ

  • Azure Stack Hubの利用を検討する際には、組織がパブリッククラウドという文化に対してどのような印象を持っているかが重要となる。検討の第一歩として、Azure Stack Hubを利用する組織がパブリッククラウドという文化をポジティブにとらえるか、ネガティブにとらえるかを分析してほしい
  • 基盤からインターネットへのアクセスやテナントとのVPN接続、テナントのバックアップなどの領域は、Azure Stack Hubだけでなく周辺機器との連携が必要になる場合がある。Azure Stack Hubを検討する際には、これらの周辺領域も考慮を忘れないでほしい
  • Azure Stack Hubは導入後も進化し続ける。組織の中にAzure Stack Hubの理解者を育成すると、導入したAzure Stack Hubを効果的に利用し続けられる

Azure Stack Hubに関しては、ユーザーがMicrosoft開発部門に生の声を積極的にフィードバックし、開発部門もまたそれを受け止めて対話を重ねている姿勢が本当に素晴らしいと思います。

Azure Stack Hubはハードウェアベンダー各社がMicrosoft社の認証を受けた上で提供されるシステムであり、カタログスペック的には明確な差異はありません。ただし、ハードを扱うのはさまざまなバックグラウンド/カルチャーを持った人間であり、サポート面など、扱う人間に対していかに寄り添った対応ができるかが重要です。

改めて、Azure Stack Hubは新たな価値創造とカルチャーに変革をもたらすものである、というMicrosoftの熱い想いを感じました。

ライトニングトーク

第9回の勉強会でも、希望者によるライトニングトークセッションを実施。ヒューレット・パッカード 小西克博氏、NTTコミュニケーションズ 藤田康寛氏、RANCHER 西原順二氏が登壇し、大いに盛り上がりを見せました。こちらの資料もConnpassのサイトに公開しているので、ぜひご覧ください。

今後の勉強会でも積極的にライトニングトークセッションの機会を設けていきます。読者の皆様も、ぜひ登壇して一緒に研究会を盛り上げていただければ幸いです。

研究会の活動とクラウド関連トピックを振り返り

最後に、2019年の研究会活動の軌跡を追いながらクラウド関連の主なトピックを時系列で振り返りたいと思います。

研究会イベント ハイブリッドクラウド関連の主なトピック(発表日は米国時間)
1月 24日:第2回勉強会 10日:AWSが「CloudEndure」を買収。オンプレミス、他社クラウドからの移行戦略を強化
3月 7日:第3回勉強会
4月 10日:Google 「Anthos」 を発表。ハイブリッドクラウド管理を目指す
29日:Microsoftが「Azure VMware Solutions」を発表
5月 15日:第4回勉強会
6月 5日:Microsoft Azure と Oracle Cloudの相互接続を発表
7月 4日:第5回勉強会 30日:Google CloudでもvSphere仮想マシンの実行環境を提供へ。VMwareとGoogle Cloudが提携
30日:Google「Migrate for Anthos」をベータ公開。物理サーバやVMware/AWS/Azure上のワークロードをGoogle Kubernetes Engineコンテナ移行を支援
8月 1日:第1回ハンズオン 30日:Google、Active Directoryのマネージドサービスのパブリックベータ版を提供開始
9月 6日:第6回勉強会 16日:Oracle「Oracle Cloud VMware Solution」を発表
10月 3日:第7回勉強会 19日:Amazon RDS on VMwareを提供開始。vSphere上でAWSのマネージドDBの展開/管理が可能に
11月 14日:第8回勉強会 4日:Microsoft「Azure Arc」を発表。オンプレミス、他社クラウド、エッジコンピューティングを含めたマルチクラウド統合管理を目指す。
19日:Googleが「CloudSimple」を買収。VMwareソリューションを強化
12月 9日:第2回ハンズオン/第9回勉強会 3日:「AWS Outposts」一般提供開始

昨年のトレンドを振り返ることで、今年のクラウド潮流を占う指針となれば幸いです。

そして、2020年最初の勉強会は1月29日に開催! 今年もさまざまな企画を開催していきます。

通算10回目となる1月の勉強会は、「Kubernetes Everywhere戦略 / Edge Serverで何を動かすか?」と題し、Kubernetesからエッジコンピューティングまで、幅広い内容でお届けします!

今回、初の試みとしてライブ中継によるリモート参加を可能にしました。現地に足を運ぶことが難しい方も、ぜひリモートでご参加ください。

今後も、勉強会やハンズオンという形式にとらわれず、新たな試みに挑戦しながら継続して進化し続けるハイブリッドクラウド研究会を目指していきます。オリンピックイヤーにもなる2020年の活動にご注目ください!

著者紹介

株式会社ネットワールド
Microsoft ソリューション プリセールスエンジニア
津久井 智浩(つくい ともひろ)

ソリューションディストリビューターであるネットワールドの一員として、お客様に付加価値を提供するというミッションの下、Microsoft製品を中心にオンプレミスからクラウドまで幅広く提案~導入を担当。
趣味はバイク。昼散歩が日課。最近は自分よりもカミさんの働き方改革を何とかしたいと苦悩し、マインクラフトを通して子供と一緒にプログラミングを学びたいと願う40代。3児(2女、1男)の父。