今回は、ハイブリッドクラウドとシームレスなプライベートクラウド環境を実現する上で注目されているプライベートクラウド基盤「Azure Stack」にフォーカスし、去る9月24日~28日、米国オーランドで開催された「Microsoft Ignite」で発表された最新情報を交えながら解説したいと思います。

Microsoft Igniteとは

Microsoft Igniteを初めて知ったという方もいると思いますので、まずはイベントの概要を簡単に説明しておきましょう。同イベントは、Microsoftが主催する年次のグローバルイベントです。開発者とITの専門家を対象とした技術イベントで、Microsoft製品に携わる技術者が多数参加します。2016年の開催以降は、毎年9月最終週に開催されるのがお決まりだったのですが、来年は11月4日~8日にオーランドで開催されることになりました。

期間中、さまざまなソリューションに関する600以上ものブレイクアウトセッションが開催されるのも特徴です。Azureに関しても、毎回非常に多くのアップデートが発表されています。そのうち今回は、ハイブリッドクラウド戦略を語る上で重要となるAzure Stackにフォーカスしてお伝えしたいと思います。

Igniteで明らかになったAzure Stackの最新情報

Azure Stackは、パブリッククラウドであるAzureのテクノロジーをそのままプライベート環境に拡張する(取り入れる)ことができるソリューションです。つまり、利用者はAzureとAzure Stackの区別無く一貫性を持たせたハイブリッドクラウド環境を実現できます。

とてもざっくりと説明してしまったのですが、Azure Stackの詳細に関しては、本研究会メンバーであるMicrosoft 高添修氏がAzure Stack誕生の理由から現在に至るまで、とてもわかりやすく解説している連載「プライベートクラウド検討者のための Azure Stack入門」があるので、是非そちらもご覧ください。

Azure Stackでは、各社が提供するハードウェアとAzureが提供するさまざまなサービスがパッケージ化された状態で提供されます。いずれも、Microsoftの厳密なハードウェア要件を満たしたもので、2018年10月現在、Cisco Systems、Dell EMC、HPE、Huawei、Lenovo(順不同)から提供されています。今年のIgniteでは上記ベンダーに加え、富士通も新たにAzure Stack参入を表明しました。

2016年の発表から2年が経過するAzure Stackは、導入ユーザーからさまざまなフィードバックを受けながら、日々改善を重ねてきました。ここで、今回のIgniteで発表された新情報をご紹介しましょう。

Azure IoT Hub & Event Hubs on Azure Stack

「Azure IoT Hub」は、IoTデバイスを接続し、ビジネスの分析情報と自動化を推進するためにデータを収集するクラウドサービスです。その双方向通信機能は、デバイスからデータを受信している間でも、デバイスにコマンドやポリシーを返送し、デバイス管理のアクションを呼び出すことができます。

さらに、「Azure IoT Edge」を使用してクラウドインテリジェンスをエッジデバイスに提供する重要な機能も実現するものです。

一方、「Azure Event Hubs」は、Azureのビッグデータストリーミングサービスです。これは、ユーザーが1日あたり何十億もの要求を送信する可能性がある高スループットのデータストリーミングシナリオ用に設計されたもので、ビッグデータとAzureの分析サービスに統合されています。

今回、このAzure IoT HubとEvent Hubsが、Azure Stack上で実行できるようになりました。IoTエッジデバイスとAzure Stackが近い距離に存在することで、クラウドネイティブな機能を使ってデータ収集/解析といった処理パフォーマンスの向上が見込めます。

Blockchain deployment for Azure & Azure Stack

Azure Stack Ethereumブロックチェーンソリューションテンプレート」がAzure Stackでも利用可能となりました。これにより、Azure Stackポータルでわずかなステップでプロビジョニングが可能となります。

Azure Stack キャパシティの拡張

Azure Stackは、「スケールユニット」と呼ばれる単位で構成されています。現在はスケールユニットあたり最小4ノード、最大12ノードの構成となっていますが、Azure Stack提供ベンダー各社は、今後数週間以内に16ノード拡張をサポートすることが発表されました。

Azure StackのKubernetes展開パブリックプレビュー

Azure Stackで、オーケストレーションツールであるKubernetesクラスターの展開がサポートされるようになりました。これにより、ARM(Azure Resource Manager)テンプレートを使用して、Azure StackポータルからKubernetesのためのリソースを迅速に展開可能となります。

Managed Diskのサポート

Azure Stack仮想マシン、および仮想マシンScale Setで「Managed Disk」を使用できるようになりました。これまで、Azure Stackはストレージアカウントでの運用、Azure側はManaged Diskといった使い分けが必要でしたが、Managed Diskのサポートにより、Azureストレージリソースの一貫性が向上します。

Azure Monitor

Azure上の「Azure Monitor」と同様、Azure Stack上のAzure Monitorは、ほとんどのサービスのベースレベルのインフラストラクチャメトリクスとログを提供します。

拡張ホストの準備

拡張ホストを使用すると、必要なTCP/IPポートの数を減らすことによってAzure Stackのセキュリティを保護することができます。証明書を利用することで、管理者およびユーザーアクセスに必要なAzure Stackポータルへの通信を443ポートのみに制限することが可能です。

仮想マシンスケールセットのギャラリーアイテムのビルトイン

仮想マシンスケールセットのギャラリーアイテムが、ユーザーおよび管理ポータルでダウンロードすることなく利用できるようになりました。

Azure Site Recoveryの機能拡張

「Azure Site Recovery」の機能拡張により、Azure Stack上の仮想マシンをAzureにレプリケートする機能が提供されました。詳細については、Azureのサイトの記事「Azure Stack VMをAzureにレプリケートする」をご覧ください。

Tech Summitに研究会メンバーが登壇!

今回ご紹介したように、Azure StackはパブリックのAzureで実装された機能を次々に取り込んでいます。本研究会においてもAzureとAzure Stackのハイブリッドクラウド検証環境を準備しているので、準備が整い次第、本連載でもご紹介する予定です。Azureだけでなく、Azure Stackも含めて今後の動向に注目いただければと思います。

Tech Summit登壇セッションに関する告知

最後に、前回も告知しましたが、11月5日~7日に開催される日本マイクロソフト主催のイベント「Microsoft Tech Summit 2018」にて、ハイブリッドクラウド研究会を代表するメンバーがブレイクアウトセッションに登壇します。

日時     :DAY3 11/7(水) 12:10~13:00(または12:20~13:10)※ランチ付き
トラック名  :Cloud Infrastructure
セッションID :CI05
セッション名 :日本企業のためのハイブリッドクラウドガイドライン
登壇者    :IIJ 四倉氏、JBS 胡田氏、Lenovo Enterprise Solutions 米津氏(順不同)
セッション内容:ハイブリッド研究会で作成したハイブリッドクラウドガイドラインの生い立ちと背景、そしてガイドラインの全容と読み解くための注意点などを解説します。併せてドキュメント公開も行う予定です。

今回紹介したAzure Stackに関するトピックをはじめ、Microsoft Igniteで発表された最新情報も織り交ぜたセッションになることと思います。また、ハイブリッドクラウド研究会が今後取り組むべき課題やミッションを共有する予定です。Tech Summitに参加される方は是非、本セッションにも足をお運びください。

著者紹介

株式会社ネットワールド
Microsoft ソリューション プリセールスエンジニア
津久井 智浩(つくい ともひろ)

ソリューションディストリビューターであるネットワールドの一員として、お客様に付加価値を提供するというミッションの下、Microsoft製品を中心にオンプレミスからクラウドまで幅広く提案~導入を担当。
趣味はバイク。昼散歩が日課。最近は自分よりもカミさんの働き方改革を何とかしたいと苦悩し、マインクラフトを通して子供と一緒にプログラミングを学びたいと願う40代。3児(2女、1男)の父。