2017年12月7日に開催された「Oracle CloudWorld Tokyo」において、渋谷区によるIoTとビッグデータ活用の取り組みが紹介された。本稿では、経済産業省おもてなしプラットフォーム事務局 デロイト トーマツ コンサルティング デロイト エクスポネンシャル マネージャーの平林知高氏と、渋谷区観光協会City Experienceディレクター岩本義樹氏が登壇した講演「国際観光都市SHIBUYAの『観光』への挑戦 -IoTとビックデータを活用したおもてなしソリューション-」をレポートする。

渋谷区が抱えるインバウンドへの課題

スクランブル交差点をはじめとする多くの観光スポットで国際的にも知名度の高い渋谷区。東京オリンピックを前にインバウンド需要も高まる一方だ。ただ、高い知名度のわりに実需に結びついているかというと必ずしもそうではない。

「スクランブル交差点に行って見るだけ」「SNS映えする写真を撮るだけ」──。渋谷区観光協会の岩本氏は、インバウンドが増えても、そんな行動が目立つことが気になってきたという。

「渋谷区には、原宿の竹下通りや渋谷から原宿に続くキャットストリート、青山の表参道エリア、恵比寿や代官山などさまざまな観光エリアがあります。スクランブル交差点で写真を撮って帰るのではなく、キャットストリートを歩いたり、代官山エリアまで足を伸ばしたりしてほしい。渋谷駅からさらにその先の価値を届けることで、来訪者数を前年比120%に増やすだけでなく、120%の体験満足を提供したいと思っています」(岩本氏)

そこで渋谷区が取り組んだのが、経済産業省との「おもてなしプラットフォーム実証事業」だ。おもてなしプラットフォームとは、観光産業に関わるさまざまな事業者や地域が得られる訪日外国人旅行者のデータを、統合的なプラットフォームに蓄積・共有するための仕組みである。2017年10月1日から開始され、全国10地域における地域実証が行われた。

おもてなしプラットフォーム事務局の平林氏は、インバウンドの課題について「地域の方は、それぞれの観光エリアに外国人の方々がどれくらい来ているのか、どういう方が来て、どのくらいの消費につながっているか、数字ではっきり把握しているわけではありません。また、事業者の方も、外国人の方にサービスを提供する上でさまざまな課題があり、サービス提供を躊躇しているのが実態です」と説明する。

経済産業省おもてなしプラットフォーム事務局 デロイト トーマツ コンサルティング デロイト エクスポネンシャル マネージャーの平林知高氏

おもてなしプラットフォームは大きく、各地域向けのローカルプラットフォームと、それらを統合して作るおもてなしプラットフォームの2つで構成される。一意のIDを発行し、それを各地域のサービスIDに接続して、情報を個人ごとに蓄積していく仕組みだ。ある外国人がある地域で受けたサービスの内容は、おもてなしプラットフォーム上で共有され、別の地域でサービスを受ける際に活用される。

「例えば、前にいた地域で日本酒やラーメンに関するツアーに参加していたなら、次の地域で同様のツアーをレコメンドすることができるようになります。また、宗教上の理由で牛肉や豚肉が食べられないとわかったら、次からはそれらを使わないメニューを提案したりすることも可能です」(平林氏)

ポイントは、地域が自ら情報を収集しなくても、外国人が前にいた地域でどんなサービスを受けていたかを把握できることにある。ビーコンなどを使って行動を把握すれば、外国人向けサービスで課題になりがちなコミュニケーションの手助けにもなる。食事の種類や喫煙の有無など、事前に情報を登録しておけば、それに適したサービスを提供しやすくなるためだ。

「プラットフォームを活用することで双方向のコミュニケーションが可能になります。まずは統計情報として活用基盤を構築し、将来的には利用者の承諾の下、個人情報としての利活用を検討していきます。最終的にはOne to Oneマーケティングの手段の1つにしていきたいと考えています」(平林氏)