セールスフォース・ドットコムは9月26〜27日、都内で「Salesforce World Tour Tokyo 2017」を開催。基調講演には、米Salesforce.comのVice Chairman,President and COOのキース・ブロック氏が登壇。セールスフォース・ドットコムの代表取締役会長兼社長小出伸一氏とともに、ゲストを迎えながら、同社の最新テクノロジーや成功事例を紹介した。

米Salesforce.com Vice Chairman,President and COOのキース・ブロック氏

Salesforce World Tourは世界各地で開催されるユーザー企業向けイベント。東京では2日間、2会場で開催され、国立公園でのサマーキャンプをイメージさせる演出のもと、参加者を「Ohana」(ハワイ語で家族)としてもてなす趣向で実施された。基調講演の前には、Trailblazerと呼ばれるユーザー企業における変革リーダーの紹介やコミュニティとしての取り組みが紹介された。

ブロック氏はまず、ビジネスの概況について「4年前にCOOとして取り組んだときの売上は41億ドル、戦略として業界視点に立つこと、エコシステムの醸成、世界中にリーチすることの3つを掲げて取り組んできました。2017年の売上は84億ドル。成長スピートが最も速いエンタープライズソフトウェア企業のトップ5にランクインしています。ここに集まった皆さんのおかげです」と説明。

同社がCRMとして展開する分野には、営業支援、サービス、マーケティングなどがある。CRMは、ERPやOS、データベースといったエンタープライズ分野で最も伸長している分野であり、なかでも同社は、CRMアプリケーションの市場シェアでSAPやOracleといったベンダーを抑えトップを走る。ブロック氏は、IDCの2016年の調査では、営業支援でのシェアは34.2%、サービスアプリケーションでのシェアは33.7%、マーケティングアプリケーションでのシェアは9.9%で、いずれもNo.1だと実績をアピールした。

成長スピードが最も早いエンタープライズソフトウェア企業のトップ5にランクイン

「マーケティングオートメーションやAIといったすべてのものがCRMに向かっています。お客さまを中心に据えたビジネスが推進されているのです。なぜこうした成長を続けられるのか。成長を支えているのは、信頼(Trust)、成長(Growth)、イノベーション(Innovation)、平等(Equality)という4つのコアバリューです。世界3万人の社員がこの価値を追求しています」(ブロック氏)

なかでも平等は、あらゆる機会を社員にあたえ正当に評価することに加え、社会に対して就業の機会を与え、トレーニングによって人々がよりよく生きることを支援するものだという。教育支援や職業訓練プログラム、環境への貢献まで含まれる。社会貢献活動では「1:1:1モデル」という就業時間の1%、株式の1%、製品の1%を社会貢献にあてるプログラムを実施している。社員向けのオンライントレーニングプログラムTrailheadも、そうしたバリューの表れの1つだ。

「私には5人の子供がいます。子どもたちには平等に学び、平等に働く機会を与えていきたい。幸せな社会を実現するために貢献していきます。環境についてもそうです。セールスフォース・ドットコムのクラウドはゼロエミッションでカーボンニュートラルなクラウドです。当社のクラウドを使っていただければ使っていただくほど環境への貢献ができるのです。まあそれは冗談ですが(笑)」とブロック氏がジョークを飛ばす場面も。いずれにしろ社会や環境貢献へ貢献するという意思の表れといえるだろう。

セールスフォース・ドットコムの代表取締役会長兼社長小出伸一氏

国内のビジネス動向については、小出氏が説明した。日本法人は2000年に設立して17年目、従業員は今年1100名を超えたという。Salesforce認定資格者は9300名超、パートナーは370社。昨年からは、東京と大阪の2つのデータセンターからサービスを展開できるようになった。

「日本に根付いた事業展開を行ってきました。クラウドの日本におけるパイオニアとしてエコシステムの拡大に取り組んでいて、ベンチャーキャピタルとして継続的な投資を行い、これまでに32社に投資を行ってきました。IDCの予測では、2015年2020年には我々が国内で生み出す雇用は24万人に達する見込みです。皆さんのご支援を得ながら社会とともに成長していきます。できるかぎり日本の社会の仕組みづくりに貢献していきたいと考えています」(小出氏)

そうした日本の仕組みづくりの1つとなるのが、内閣官房とパートナーシップを結んで取り組んだ、マイナンバー活用のためのポータルサイト「マイナポータル」の構築支援だという。

マイナンバー活用のためのポータルサイト「マイナポータル」

ゲストとして登壇した内閣官房 内閣審議官 向井治紀氏は「マイナポータルは官と民の情報の交差点です。国民一人ひとりがポータルから自分の情報を得られます。プッシュ式で官から情報を通知したり、民間企業がさまざまなサービスに活用することもできます」と挨拶。新たにはじまった「ぴったりサービス」について、「子育てに関する手続などさまざまな申請や届出をオンラインで行うものです。スマートフォンなどから、カテゴリーやキーワードから検索して申請することができます。今後さまざまなサービスをワンストップで提供できるようにしていきます」と説明した。

内閣官房 内閣審議官 向井治紀氏らが所属する内閣官房とカスタマーパートナーシップを結んで「マイナポータル」の構築支援を行った

また、セールスフォースへの期待として「役所や官は国民から遠いというイメージがありました。ITを使ってできるだけ身近な行政を実現していきたい。多言語化や使い勝手のよいサービスを開発するうえでプラットフォームを活用していきたい」とコメントした。

続いてブロック氏は、テクノロジーの進化とプラットフォームの変遷について解説。同氏によると、クラウド、ソーシャル、モバイルといったサービスやデバイスの普及で、世界はより近く深くつながるようになり、さらに現在は、IoTやAIによって、よりスマートにつながる世界が実現しようとしているという。

「いま生まれているのは新しいカタチで顧客とつながる世界です。顧客の時代(The Age of the Customer)が到来したのです。企業は、顧客情報を一元管理してさまざまな新しいサービスを展開できるようになりました」(ブロック氏)

そこでカギとなるのは「インテリジェンス」「スピード」「生産性」「モバイル化」「つながり」というエンタープライズソフトウェアにおける5つの変革だ。この5つについて、セールスフォースは、AIエンジン「Einstein」、新インタフェース「Lighting」、新しいショッピング体験のための「Commerce Cloud」、コラボレーションの「Quip」、アプリ連携プラットフォーム「Salesforce1」、イベント処理エンジン「Thunder」、IoT向けプラットフォーム「IoT Cloud」といった新しい製品群をリリースしている。これらを組み合わせて、新しいカタチで顧客とつながっていくことができるという。

そうした取り組みを進めている1社として登壇したのがミズノだ。ミズノはMarketing Cloudと Service Cloudのユーザーであり、今回新たにCommerce Cloudを採用。eコマースを一元化して世界各国の市場にブランドを展開できるようし、Einsteinを用いて顧客一人ひとりに合った商品のレコメンドなども実施していく。

会場ではミズノのシューズ販売の様子をデモで披露。Einsteinを用いることでスマートフォン上で一人ひとりにあわせた異なるシューズがレコメンドされることや、Marketing CloudやService Cloudと連動して商品購入時のマーケティングや商品購入後のサポートを行い、カスタマーエクスペリエンスを高めていくことができることを示した。

代表取締役社長の水野明人氏は「色やデザインなどは地域によって好みが大きく変わります。それを情報として取り入れて商品開発に取り組んでいますが、とても難しい。そこで活用できるのがデジタルです。セールスフォースさんのさまざまな機能を使って双方向の情報交換をすることによって、いろんな情報をとることができるようになりました。それを商品開発に生かしています。こんな便利なものはないと大いに助かっています」と説明。

また、今後のビジョンについて「スポーツ用品を110数年やってきましたが、イノベーションはほんの少しずつしか進みません。その積み重ねで地道にやってきました。しかし、デジタルの世界は進歩がとてもはやい。スピードに追いつくのはわれわれ専門でないので難しい。そのあたりは、セールスフォースさんの力を借りていく」とした。

Einsteinを用いた分析結果

続いて、ブロック氏はアマダホールディングスの事例を紹介。アマダは顧客を支える新たなビジネスモデルとして「V-factory(ブイ・ファクトリー)」を推進している。その顧客サポートとコンサルティングを提供するためのIoTプラットフォームにSalesforceを採用した。

具体的には、顧客現場の情報をリアルタイムに可視化し、顧客をサポートする「アマダIoTサポートセンター」をService Cloudで、顧客が自在にマシンの稼働・生産状況を把握したり、消耗品の受発注を可能にする顧客専用サイト「My V-factory」をCommunity Cloudで実現。さらに、マーケティングオートメーションツールのPardotの活用や、新機能Einstein Visionを使ったAIによる画像認識技術をCRMに活用する取り組みも実施している。

代表取締役社長の磯部任氏は「機械加工で20%超のトップシェアがあります。海外の売上比率は55%、世界11万社のお客さまのもとで30万台の機械が稼働しています。第四次産業革命ということで、ものづくりの世界が大激変を迎えています。ロボット化、AI化はどんどん進んでいます。当社は、直接販売、直接サービスなので、世界中のお客さまに機械を届けるには、ITを活用してサービスを効率化して、安定稼働させることが必要です。そこでセールスフォースのソリューションが非常に有効になってきます」と説明。

さらに今後のビジョンについて「1990年代からITを活用して生産性向上につとめてきました。これからは2つの視点で取り組みを進めます。1つはお客さまの工場にある複数の機械をいかにつないで効率的な生産をするか。もう1つは、アマダとお客さまをつなぐこと。情報をキャッチアップしてAIで分析して価値ある情報として戻すこと。ここにセールスフォースのソリューションが非常に重要になってきます」と説明した。

顧客専用サイト「My V-factory」画面イメージ

最後にブロック氏は、「顧客の時代を迎えるなか、新しいカタチでお客様とつながることを支援していく」と訴え、講演を締めくくった。