2016年4月13日にスタートして以来、本連載では21回にわたり、Azure StackのコンセプトやTechnical Previewという開発途中の情報を提供してきました。ベータ相当のまま1年以上引っ張るというのは異例かもしれませんが、これもAzure Stackに対する皆さまのご期待あってこそだと言えるでしょう。

そして、2017年7月11日、マイクロソフトがワシントンD.C.で開催した「Microsoft Inspire」(世界中のMicrosoftのパートナーが集う、年に1回の大型イベント)にて、Azure Stackの正式提供開始が発表されました。

GAしたAzure Stackポータル

Microsoft Azureのサイトには、この情報が「Microsoft Azure Stack is ready to order now」というタイトルで掲載されています。

Azure Stackの情報に初めて触れる方は、「ready to order(オーダー開始)」という言葉を見て「おや?」と思われたかもしれません。しかし、この「ready to order」にこそ重要な意味があります。今回は、これまでの繰り返しになる部分もありますが、最新情報を交えながらあらためて「Azure Stackとは何か?」について解説しておこうと思います。

Azure Stackはハードウェアと共に提供されるハイブリッドクラウド基盤

Azure Stackとは、パブリッククラウドである「Azure」を自社のデータセンターなどで動かすことができる「ハイブリッドクラウド基盤」です。好きな場所で、Azure同様のIaaSやPaaSをセルフサービスで提供できます。また、コマンドやスクリプト、APIなどを駆使した自動化も容易で、場所に依存することなくパブリッククラウドの良さを利用できるのも特長です。

置き場所を選ばないため、プライベートクラウド基盤として利用されることも多いと思います。しかし、Azure StackはAzureと共に進化したものであり、Azureと共に使うことでメリットを最大化できると考えられていることから、ハイブリッドクラウド基盤としての露出が進められています。

また、Azure Stackはソフトウェア単体で販売する予定はなく、Azure Stackが組み込まれたハードウェア(Integrated System、日本語では統合システム)として認定ハードウェアベンダーから提供されることが決まっています。先ほど紹介したAzure Stackの発表を兼ねたブログ記事のタイトルが「ready to order」という表現になっているのはそのためです。

まずは以下の3社から提供されるので、Azure Stackの導入を検討している企業の方は、マイクロソフト、もしくは直接ベンダーに問い合わせてください。

また、上記3社に続き、本年中にはCisco、来年のQ1にはHuaweiからもAzure Stackマシンが提供される予定となっており、提供ベンダーはさらに増えていく可能性があります。

さて、統合システムとして提供することが決まった大きな理由に、パブリッククラウドの存在があります。ここ数年で実績を積み上げてきたパブリッククラウドを今さら否定する企業は少ないと思いますし、何かしらの理由でパブリッククラウド化ができない場合でも、社内に導入するシステムの検証や構築作業に多くの時間と労力を使う時代ではなくなってきていることもご理解いただけると思います。

Azure Stackは、スピード感を持って導入し、すぐに活用してもらうことを目標としています。さらに、Azureと共に進化する「陳腐化しないクラウド基盤」であり続けるために、統合システムとして定型化することで安定した運用やアップデートを提供したいと考えているのです。

Azure Stackの情報を入手し、検証をするには?

さて、正式に提供が決まった今、興味がある企業やエンジニアの方はAzure Stackへの理解を深めたいと思っていることでしょう。今後、日本語の情報も整備していくことをお約束しつつ、まずは英語での最新情報をお知らせしておきます。

概要について

Azure Stackに関する基本的な情報は、こちらのサイトやホワイトペーパーに整理されています。

日本企業の事例

Azure Stack登場に際し、いくつか紹介されている事例の1つに「三井情報株式会社」の名前があります。そう、限られたグローバルの事例の1つに日本企業の名前が載っているのは、とても喜ばしいことです。

「Extend public cloud benefits to on-premises datacenter」とあるとおり、同社は「パブリッククラウドのメリットをオンプレミスでも享受する」という考え方で取り組んでいます。Azure Stackが単なる仮想化の置き換えではないこと、単なるプライベートクラウドではなくハイブリッドを意識した基盤であることを理解した上での決断だと思います。

技術ドキュメント

Technical Previewの段階から提供されてきた技術情報のサイトがアップデートされているので、実際に環境を作ってみようと思うエンジニアの方はそちらをご覧いただくとよいでしょう。

Azure Stack Development Kit (ASDK)

実環境で利用するAzure Stackは統合システムとしてのみ提供されますが、Azure Stackとはどういうものか、自社システムがAzure Stack上でも動くのかなど、手元で検証するためのツールとしてASDKが無償で提供されています。

こちらは、これまでのTechnical Previewと同様、シングルノードでAzure Stackを動かすためのソフトウェアなので、ダウンロードして利用することができます。上記「技術ドキュメント」にはASDKの展開方法から利用方法まで手順が載っているので、サイトの情報に従って環境を構築・検証してみてください。

ASDKダウンロード画面

Azure Stackの課金体系

マイクロソフトはAzure Stackの課金に関しても新しいチャレンジを始めています。課金体系として用意されているのは、Azure同様の「従量課金」と物理コア数で決まる「年間サブスクリプション」の2種類です。以下のサイトには従量課金の価格と、用途別のドキュメントへのリンクが掲載されています。

例えば、「Azure Stack Virtual Machines」の従量課金の場合、以下のような価格設定となっています。

  • Base virtual machine (VM) = \0.82/vCPU/hour (\608 vCPU/month)
  • Windows Server VM = \4.70/vCPU/hour (\3,491 vCPU/month)

ただし、ここに掲載されている金額は、ハードウェアや設備費などを除くAzure Stack利用料金の部分だけであることにご注意ください。また、用途別のドキュメントのなかには、EA(Enterprise Agreement)やCSP(Cloud Solution Provider)、SPLA(Services Provider License Agreement)、AHUB(Azure Hybrid Use Benefit)、BYOLなどについても触れられているので、Azure Stackビジネスに関係する方は一度目を通しておくと良いでしょう。

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今回は、Azure Stackの正式提供開始をお知らせするとともに、関連情報について紹介しました。次回からは、数回に分けてASDKの導入方法や利用方法について解説します。次回もお楽しみに。

著者紹介

日本マイクロソフト株式会社
高添 修

Windows 10やVDIの世界にいるかと思えばSDNやDevOpsのエンジニアと普通に会話をし、Azure IaaS登場時にはクラウドの先頭にいたかと思えばオンプレミスデータセンターのハードウェアの進化を語るセミナーを開くなど、幅広く活動するマイクロソフト社歴15年のベテラン。最近は主にAzure Stackをテーマにしたハイブリッドクラウドの普及活動に力を入れている。