事前登録だけで2000万人、150カ国への配信が決まっていた任天堂初のスマートフォンゲームアプリ「Super Mario Run」(4月末時点で1億5000万ダウンロード)。同時かつ多面的に、そして何より、今後の任天堂ゲームアプリで共通したサーバーサイドの機能を提供するために、GCP(Google Cloud Platform)を利用して共通基盤のmBaaSを構築、利用した。

任天堂 ビジネス開発本部 スマートデバイス事業部 事業システム開発グループ グループマネージャー 府川 幸太郎氏

任天堂 ビジネス開発本部 スマートデバイス事業部 事業システム開発グループ グループマネージャーの府川 幸太郎氏はリリース日、DeNAのオフィスに任天堂とGoogle、DeNAのメンバーが集まり、寝ないで対応する体制を考えていたと明かす。

しかし「まったくのノートラブル。技術的に、スケジュール的にもタイトだったけど、乗り越えられた。当日は、何もやることがなかったから全員でマリオランで遊んでいた」(府川氏)と笑う。Google Cloud Next ‘17 in Tokyoの講演「Super Mario Run など任天堂のモバイルバックエンドサービスを支えるGoogle Cloud Platform」の模様をお伝えする。(関連記事 : グーグル、ホワイトボードを再定義した「Google Jamboard」を2018年に日本市場へ)

数カ月で実装、任天堂とグーグル、DeNAの協力で実現

mBaaSでは、主にユーザー管理から認証機能、仮想通貨管理、プッシュ通知、プレイログなどを集約して管理している。

もともと、コミュニケーションアプリ「Miitomo」でオンプレミスに近い構成でクラウド上に構築していたものの、「今後、年に数タイトルをリリースし、アプリごとに作り込むと開発負荷がかかる。プロモーションの最適化からグローバルの一斉配信、サービス停止など、メンテナンスを行う余裕がないと考えた時、共通基盤にGoogle App Engine(GAE)の採用に至りました」(任天堂 ビジネス開発本部 スマートデバイス事業部 事業システム開発グループ グループチーフ 竹本 賢一氏)。

任天堂 ビジネス開発本部 スマートデバイス事業部 事業システム開発グループ グループチーフ 竹本 賢一氏

mBaaSで実現した機能

リードタイムはわずか数カ月、年内のiOS版Super Mario Runリリースが決まっていたにも関わらず、開発をスタートしたのは7月末と半年を切っていた。

「任天堂を代表するマリオを扱うわけですから失敗は許されません。mBaaSを構築すると実務担当のDeNAやGoogleに投げたところ、なかなか騒然となったようで(笑)。それまでのmBaaSは、IaaSベースでトラフィックの増減に合わせたサーバー増強・縮退が求められましたし、イベントトラフィックが考えられるタイミングでエンジニアに相談して運用しなければなりません。

一気にスケーリングすることはもちろん、グローバルにおけるレイテンシの削減、そして開発環境やステージングなどを考慮すると、IaaSベースからPaaS化して、サーバーレスなマイクロサービスが妥当ということになりました。このアーキテクチャの変更によって、システム開発から(ゲーム)アプリ開発にリソースをフォーカスできたと思います」(竹本氏)

IaaSベースからPaaSへと移行したことで、「ROIは10倍出てもおかしくない」とグーグルのGoogle Cloud シニア アカウント エグゼクティブである橋口 剛氏は話す。IaaSであってもスケーリングは可能であるものの、インスタンスの立ち上げなどの時間や、マイクロサービス化による「ムダの削減」が大きく寄与しているとみられる。

GCPのメリットとは?

このmBaaS構築において選択したのがGCP。橋口氏は、「(ゲームサーバーはほかの)マルチクラウドだが、GCPのおいしいところはすべて使い切ってる良い事例」と話す。構築にあたっては、米国のGCP SRE(Site Reliability Engineering、サイト信頼性エンジニアリング)担当者も来日するなど、全面的にバックアップしたという。なお、ゲームサーバーはAWSの事例として紹介されている

橋口氏はGCPのメリットについて、グローバルインフラとスケーラビリティ、コスト、ビッグデータ&機械学習を挙げる。

「昨年1年間で、データセンターにおよそ1兆円を投資しており、何よりGoogle検索やGmail、マップなど7個のアプリをそれぞれ10億ユーザーが利用している事実があります。そのインフラをそのまま利用できるのがGCPの特徴であり、『プラネットスケールクラウド』たるゆえんです」(橋口氏)

グーグル Google Cloud シニア アカウント エグゼクティブ 橋口 剛氏

昨年には東京リージョンもスタートした

マイクロサービスは目的ではなく手段、テストでは秒間300万トラフィックにも耐える

実際に構築したmBaaSのシステム概要については、ディー・エヌ・エーのオープンプラットフォーム事業本部 システム開発部 アライアンスシステムグループ グループマネージャーの菅原 賢太氏が解説した。