KDDIのグローバル事業は、前回も触れたようにデータセンター事業の「TELEHOUSE」が一つの柱だ。売上高で世界シェア5位と上位に食い込んでいるが、そもそも「世界初のキャリアフリーデータセンター」を開業したのがKDDIであり、今後もさらなる拡大を目指している。TELEHOUSEのドイツ、イギリス拠点を取材した。

データセンター事業は「キャリアフリー」がきっかけ

TELEHOUSE事業がスタートした1980年代当時、通信事業者は局舎で余った施設の一部を貸し出す「コロケーション事業」を行っていた。利用者はそこに通信設備などを設置して通信事業者と接続していたが、あくまで「付帯事業」として、通信サービスの利用者にのみ提供できるサービスだった。

一方でKDD(当時)は、海外にローカルな通信ネットワークを持っていなかった。そのため同社は、今で言うデータセンター専用の建物を建てて、通信事業者の顧客でなくても利用できる「キャリアフリー」の環境を提供した。1989年に米ニューヨークで最初に開業したが、「これが世界初だった」とKDDIヨーロッパとTELEHOUSEヨーロッパの社長である曽雌 博之氏は語る。これがデータセンタービジネスの原型というわけだ。

KDDIのデータセンター事業の歴史

曽雌博之社長

翌年の1990年には英ロンドン、91年には東京、大阪、96年には仏パリと拠点を拡充した。現在は、北米がニューヨークとロサンゼルス、欧州はロンドンやパリ、モスクワ、イスタンブール、アジアは香港とソウル、北京、シンガポール、上海、ハノイ、アフリカは南アフリカのケープタウンやヨハネスブルグと拠点を拡大し続けており、世界24都市48拠点で、延べ44万8000平方mのデータセンターを有している。(関連記事 : KDDIが大阪のデータセンターに施した2つの「安全策」)

各国のデータセンターの所在地

欧州で最初に設立されたロンドンのTELEHOUSEは、もともと東インド会社があった市街中心部の東側「ドックランド」に建設された。はじめは「ノース」と呼ばれる1棟のみだったが、その後の拡張で「ウエスト」「イースト」の2棟が建設され、2016年には4棟目の「ノース2」が新たに開業した。

1990年にロンドンが開所した頃、インターネットの普及が始まって欧州でもさまざまなISPが登場した。前述の通り、一般的にコロケーション事業では通信設備を契約キャリアの局舎に設置しなければならなかったが、そうした制約がないTELEHOUSEにISPの顧客が集中した。また、英国のIX「LINX」が入居したことでISP同士の接続性が向上し、さらにISPの顧客が拡大するという好循環が起きた。

英ロンドンのTELEHOUSE。ビルは新棟の「ノース2」

結果として、現在は530社以上の通信事業者、ISP、ASPを顧客に抱え、イギリスのインターネットトラフィックの7割がTELEHOUSEに集約。イギリスにとって、重要な拠点として成長したという。なお、ニューヨークも米国のIX事業者の一つ「NYIIX」が入居しており、TELEHOUSEのキャリアフリーによる戦略が奏功している。