前回、Azure StackがAzureと同様Hyper-Vベースで動いていること、Windows Server 2016のハイパーコンバージドインフラ機能を採用していることなどを説明しました。そして、今回からはPaaSについて解説するとお伝えしていました。
しかし、ここ2カ月ほどの間に、TP2が登場したり、「Microsoft Ignite」(アトランタで開かれた大型イベント)で新情報が提供されたり、PaaS設定手順を紹介する予定だったPowerShellの変更があったりと、Azure Stack周辺でさまざまな動きがあったため、少し予定を変えたいと思います。
PaaSの情報を期待していた方々には申し訳ありませんが、PaaSについての解説も近々行うことをお約束しつつ、今回から数回は、Azure Stackの最新情報をお伝えしていきます。
Azure Stack GAまでの流れとAzure Stack TP2
まずは、以下の図をご覧ください。
これは、Microsoft Igniteで発表されたスライドです。これによって、Azure Stackの正式リリース(GA:General Availability)までのタイムラインが明確になりました。まず見ていただきたいのは、現在提供中のTP2から正式リリース(GA)までの間に、もう1回バージョンアップがありそう(TP3が出てきそう)だということ、そして提供形態として2つのパターンを用意しているところです。
タイムラインの上段、「Azure Stack POC (1-node)」のほうから解説していきましょう。こちらには、GAまでずっと「Public」と書かれているので、一般に公開され、Webからダウンロードして誰でも試せるものだと考えられます。我々は、これを「Public Preview」と呼んだりもします。
このパターンの提供形態では、利用者が自由にAzure Stack環境を作り、試すことができます。その反面、さまざまなハードウェア環境で動作する可能性があり、試すエンジニアのスキルレベルも一定ではないことが予想されます。そこで、Azure Stackをスムーズに検証できるように、ある程度余裕を持ったハードウェア要件が設定されており、Azure Stackのインストールも完全に自動化されています。
また、このパターンは1ノードのみで提供予定になっている点もポイントかもしれません。そして、1ノードのPublic PreviewはAzure Stackがハードウェアベンダー3社(DELL EMC・HP Enterprise・Lenovo)から正式リリース(GA)されるタイミング(Mid-CY17)にもPublicと書かれているので、評価版のような位置づけで一般にも公開される可能性が高そうだということが見て取れます。
さて、それではマルチノードの検証をしたい場合にどうするか? それがもう1つのパターン「Azure Stack Integrated System(multi-node)」です。こちらは、TP2やTP3では「Private (Private Previewとも呼びます)」と書かれているように、現時点では、一般に広く公開されるようなものではありません。フィードバックを得るために米マイクロソフトのチームが実施しているクローズドな検証プログラムや、事例化を前提にAzure Stackの早期導入などを目指す企業などに提供している特別なプログラムが相当します。
Azure Stack自身がソフトウェアスタックのみで提供されず、ハードウェアベンダー3社からほぼ動く状態で提供される方式「Integrated System」を取るため、実際に「使う」と手を挙げたマイクロソフトの顧客などに優先的に提供されています。
ちなみに、TP1やTP2はPOC(Proof of concept)の位置づけにあり、実導入に向けて本格的に詳細な検証をするためのものではなく、あくまでも「約半年後に提供されるAzure Stackのコンセプトを理解しながら徐々に試していきましょう」というスタンスのものです。そのため、今マルチノードの検証ができていないからといって焦る必要はありません。
Azure Stack TP2でのアップデート
Azure Stack TP2の情報は、Microsoft Azureのサイトにオンラインドキュメントとして掲載されています。
そのなかでは、「What’s new in Azure Stack Technical Preview 2」としてTP2の新機能が挙げられています。大きめの変更をいくつか紹介しておきましょう。
例えば、Azure Stackシステムでは簡易的なDNSサービスを提供してくれるので、DNS環境を別途構築しなくても、1つの仮想ネットワーク上に2台のマシンを立てるだけで名前解決ができます。システムの本格導入時にはDNS設計もするでしょうが、Azureをすぐに試してみたいといった際には便利です。さらに、「Virtual Network Gateway」を使うことで、Azure やオンプレミス環境とのVPN接続が可能です。上記サイトには、別々のAzure Stack環境をIPSec VPNでつなぐための解説も記載されています。Azure Stack間ではなく「AzureとAzure StackをVPNでつなぐ」というのも、検証としては面白そうです。
また、ストレージは、テナント(Azure Stackの管理者ではなくAzure Stackの利用者)として、AzureのSDKやツール、CLIやPowerShell、.NETにPythonやJava SDKなどを使って、Azureと同様に管理・利用できそうですし、「Azure Storage」の機能の1つである「Queueサービス」が試せるようになりました。ほかにも細かなアップデートがいくつかあるので、必要に応じて上記サイトもご覧ください。
仮想マシン(Compute)関連のアップデートは少なめのようですが、仮想マシンに複数のネットワークインタフェースを割り当てられるようになったり、トラブルシューティングや仮想マシン内の自動構成管理のための「VM Extension」を再展開できるようになったりしているようです。
DevOpsのシナリオでAzure Stackの話が出る場合、Azure Stackそのものの自動構成ではなく、Azure Stack上で動く仮想マシンの中のOSやミドルウェア、アプリケーションの自動構成が必要なので、このVM Extensionが非常に重要な役割を担う可能性もあります。
これら以外にも、「Key Vaultサービス」が新しく追加されていたり、APIを使って課金のためのリソースの利用状況確認が可能になっていたりと、PortalやAPIを使ったモニタリングやアラートの機能が入ってきました。これにより、仮想化環境とプライベートクラウドとの違いを確認することができるようになりつつあります。
Azure Stack の最新情報を探る
本稿執筆時点(2016年11月20日)では、Azure Stackについて詳しい情報が欲しい方はMicrosoft Igniteの情報を探しに行くのがいちばん良い方法です。英語の情報にはなってしまいますが、9月末に行われた同イベントのセッションでは、これまで公にされていなかった多くの情報が共有されました。
また、それらのセッションのビデオやスライドは一般公開されており、誰でも閲覧・ダウンロードが可能です。例えば、以下のようなセッションがあります。
上記以外にも、Azure Stackのベースとなる「Windows Server 2016 Hyper-converged Infrastructure」や「Software Defined Network」、「Software Defined Storage」、Azure Stackでも実力を発揮する共通管理基盤「Azure Resource Manager」など、ほとんどのセッションが公開されているのでぜひご覧ください。
なお、「全部ダウンロードしてから見たい」という方向けに、全ての公開済みセッションビデオとコンテンツをダウンロードしてくれるスクリプト「Ignite 2016 Slidedeck and Video downloader」も公開されています。
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久々の再開となった本連載ですが、今回は新たに登場したTP2の話に加え、Azure Stackの最新情報をお届けしました。次回も、TP2について解説する予定です。お楽しみに。
高添 修
Windows 10やVDIの世界にいるかと思えばSDNやDevOpsのエンジニアと普通に会話をし、Azure IaaS登場時にはクラウドの先頭にいたかと思えばオンプレミスデータセンターのハードウェアの進化を語るセミナーを開くなど、幅広く活動するマイクロソフト社歴15年のベテラン。最近は主にAzure Stackをテーマにしたハイブリッドクラウドの普及活動に力を入れている。