4月26日~28日の3日間、東京都港区の東京コンファレンスセンター・品川にてガートナージャパン主催のITカンファレンス「ガートナー IT インフラストラクチャ & データセンター サミット 2016」が開催された。

「デジタル時代に向けたITインフラストラクチャの道程とリアリティ」というテーマを掲げた今回は、デジタルビジネスを単なるコンセプトではなく、すでに取り組みが進んでいる現実の動きと捉え、具現化策を示すセッションが多数用意された。

本稿では、ガートナーのアナリストが登壇した初日の基調講演の模様を簡単にご紹介しよう。

業界別デジタルビジネス事例

ガートナー リサーチ ディレクターの池田 武史氏

今年で10回目の開催となる節目のIT インフラストラクチャ & データセンター サミットで最初に登壇したのが、ガートナー リサーチ ディレクターの池田 武史氏である。

同イベントの案内役も兼ねて登場した池田氏は、昨年のイベントテーマが「デジタル・ビジネスへの覚悟と新たな原理・原則」であったことに触れ、「デジタルビジネスへの覚悟はできましたか?」と問うたうえで、世の中で取り組みが進んでいるデジタルビジネスの具体例を紹介した。

国が推進するFintech、数年以内にチャレンジの局面も

池田氏が最初に挙げたデジタルビジネス事例は金融業のFintech。昨年、突如注目を浴び始めた同技術は、スタートアップ企業が牽引するかたちで急速に発展し、世界各国を巻き込む大きな波となった。国内では金融庁の旗振りの下、メガバンク、地方銀行、テクノロジー企業が協力して積極的に開発を進めている。

講演では、ブロックチェーンなどの新たな要素技術が登場してきたことに触れたうえで、「金融は数字だけで取引が進むロジカルな世界。モノを扱うビジネスに比べるとデジタルとの親和性が高く、進歩も速い。それでも今後数年以内に大きなチャレンジの局面があるはずです」(池田氏)と今後の展望を解説。デジタルビジネスの先進事例として他業種も注目していくべきとアドバイスもあった。

製造業が挑む自動ロボット、オープンなIoTプラットフォームの開発も

続いて取り上げられたのは、「さまざまな場面でデジタル化が進んでいる」(池田氏)という製造業。特に焦点を当てられたのが、今注目を浴びるロボット分野だ。

「これまでは決められたとおりに動く”言いなりロボット”でしたが、現在は自分で考えて動くロボットへと進化しています」(池田氏)

関連技術として、ディープラーニング、ネットワークロボットなどを挙げたうえで、ファナック、ロックウェル・オートメーション、シスコシステムズ、Preferred Networksの4社が共同でIoTプラットフォームの開発を進めている事例が挙げられた。

運輸業革新の鍵は自動走行

次いで挙げられた運輸/旅客分野に関しては、「SuicaやPASMOなどのICカードの普及は大きな進歩だったが、軽井沢でのスキーバス転落事故などが依然として起きることを考えると、まだまだ課題は残っている」と現状を分析。そのうえで、「自動走行技術などはその解決策の1つ」とし、DeNAとZMPによるロボットタクシーのチャレンジなどを紹介した。

自動走行は、GoogleらIT企業も加わってワールドワイドで開発競争が進んでいる技術だが、国内でも、神奈川県や千葉市などで公道を使った実証実験が開始されていることを紹介。実用化に向けて活発に開発が進められていることが説明された。

農業では一粒5,000円のイチゴを守る技術も

その他、医療においては、医療従事者同士のコミュニケーションを活性化するアプリケーション「Join」を紹介。東京慈恵医大の医師を中心に開発された同アプリは、厚生労働省とも相談して認可を進めているほか、北米や南米の病院で採用が進んでいることを解説した。

また、農業においては、一粒5,000円のイチゴを世界に届けるプロジェクトをピックアップ。画像処理でイチゴの収穫期を見極めて摘む自動収穫ロボットがイチゴ専用容器「フレシェル」に直接梱包。収穫から開封まで一切人の手に触れないうえ、新たに開発されたフレシェルの特許技術により、逆さにしても落ちないほど安定して輸送できるため、品質を劣化させることなく、世界中に届けられるという。

宇都宮大学が開発したイチゴを守る技術

目先の課題解決よりも、常識に捉われないビジョンを

池田氏は、以上のような事例を紹介したうえで、「共通するのは、どの企業・団体も大きなビジョンを持って取り組んでいることです。目の前にある既存ビジネスの課題をどうこうしようという施策ではありません」とコメント。デジタルビジネスが、付加価値の創出ではなく、ゲームチェンジの要素が強いことを強調した。

「デジタルビジネスは、新しい世界観を前提とします。今後の本格化を考えると、数年後に皆様のお客様が同じ価値感を持ち続けているかはわかりません。ルール、制度、慣習、常識を疑ってかかり、先取りしてビジネスを進める必要があります。そのためには、ガートナーが提唱するバイモーダルのモード2でスピード感を持って取り組むべきでしょう。口で言うのは簡単ですが、実行するのは勇気が必要。誰もわかっていないことを始めるのは本当に大変です。しかし、ビジネスにおける成功は、試行錯誤を繰り返した末になんとかして掴み取るもの。ぜひ勇気を持って走りだしてほしい」(池田氏)

「今はまだデジタル石器時代」と語る池田氏。IoT、人工知能、ロボティクスなど、現在登場している技術の発展次第では、世界の常識が変わる可能性があるという。

氏は最後に、「僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる」という一節が含まれた高村光太郎の「道程」を引用し、デジタルビジネスに向けて新たな道となる一歩を踏み出すようエールを送った。

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