テレワークを推進していく上で業務のクラウド化は必須だ。だが、クラウドへの移行は一筋縄でいくものではない。サービスの選定はもちろん、社内調整や移行プロセスの検討、効果検証など、さまざまなステップを踏む必要がある。

3月3日に開催されたマイナビニューススペシャルセミナー「クラウド移行の正しい期待値」の基調講演では、”武闘派CIO”としても知られるフジテック 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏が登壇。クラウド移行において有用なサービスや移行の進め方について、アドバイスを交えながら実体験を語った。

フジテック 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏。当日は新型コロナウイルス感染症の対策としてWEBセミナー形式で配信。友岡氏は大阪からの登壇となった

クラウドサービスの活用で在宅勤務も円滑に

友岡氏はまず、昨今の新型コロナウイルスの状況を踏まえて在宅勤務事情に言及。「多くの企業は在宅勤務を導入しているが、我々のような工場でモノを作っているメーカーには(在宅勤務は)難しい」と述べながらも、「とはいえ、もし新型コロナウイルスの感染が社内で発生すると、1週間オフィスに入れないといった事態が想定されるので、現在いろいろと検討しているところ」と語った。

もっとも、国内における在宅勤務にはさまざまな課題があると友岡氏は指摘する。

「そもそも1日働ける環境が自宅にあるでしょうか。米国やドイツ、英国で暮らした経験がありますが、海外は家が広いので仕事用の書斎が持てます。しかし日本ではなかなかそうはいきません」

さらに、そうしたスペース面の課題を乗り越えても、次に待っているのは「オフィスと同等の仕事ができる環境を自宅で整えられるのか」という問題だ。この点について、友岡氏は「クラウドを活用するべき」と強調し、自身も利用するサービスを紹介していった。主なものは以下の通りだ。

◆G Suite
G SuiteはGoogleが提供するサービスで、メール、ドキュメント、ドライブ、カレンダー、ビデオ会議システムなど、ビジネスに必要な機能が一通り揃う。PCでもスマートフォンでも同じ体験が提供され、シームレスに連携する。

何よりも「モバイルネイティブなのが良い」と友岡氏は言う。PCではなくスマートフォンでの活用をメインに設計されていることで、より機動性を高められる効果があるのだという。友岡氏は「G Suiteのようなサービスをバックボーンとして持つところからクラウド化を進めるべき」だと強調した。

◆Dialpad
Dialpadはさまざまなコミュニケーション手段を統合する”モダンビジネスコミュニケーションツール”だ。Googleアカウントでログインし、音声通話やビデオ通話、メッセージなどの多様なコミュニケーションをデバイスを問わず利用することができるが、フジテックでは電話(PBX)をクラウド化する狙いで活用しているという。もともとGoogleが提供するサービスの一部として提供されていたものであるため、Googleサービスとの連携がスムーズだ。

例えば、Dialpadで電話がかかってくると、相手からGmailに送られたメールやGoogle Driveで共有されたファイルなどが同じ画面に表示される。また、PCで電話を受けてから通話を切ることなくスマートフォンに切り替えて会話を継続できるため、通話しながら離席することも可能だ。

クラウドコミュニケーションツールにはこのほかにもさまざまなサービスがあるが、友岡氏が最も気に入っているのがこのDialpadだという。

◆Slack
メールに代わるビジネスコラボレーションツールとして多くの企業が導入しているのがSlackだ。Slackではワークスペースやチャンネル、スレッドなどでチャットを管理しており、「誰がその会話に参加しているか」が明確である。また、投稿したテキストの編集や削除も可能で、ほかのアプリケーションとのAPI連携も充実している。友岡氏はTwitterへの投稿が多いことから、同氏の部下がそれをSlackに流すように設定し、社内外のシームレスな情報共有が実現されたという。

◆box
前述したG Suiteをビジネスツールの根幹に置いている友岡氏だが、社内ではGoogle Driveを利用するものの、社外との情報共有用としてはboxの導入を始めている。その理由は「Google Driveはユーザー性善説で設計されているが、boxはユーザー性悪説で設計されている」(友岡氏)からだ。

「boxは社外の人と共有することを意識して作られているので、セキュリティ設定を細かく設定できるメリットがあります。またGoogle Driveと違って中国からもアクセスできるので情報共有が簡単です」

◆zoom
テレワークの鍵を握るのがビデオ会議アプリ。フジテックでは現在Google Hangouts Meetがベースだが、大勢が参加するTV会議についてはzoomへの切り替えが進んでいる。競合サービスも検討した結果、通話品質の高さや、中国/日本間のTV会議も可能なことなどからzoomが選択されたという。

また、重要なのがスピーカーで、友岡氏はヤマハの「ユニファイドコミュニケーション マイクスピーカーシステム YVC-1000」を絶賛。特に大人数の会議の際に力を発揮すると説明した。

◆Amazon WorkSpaces
仮想デスクトップ(VDI)についてはAmazon WorkSpacesを使用しているという友岡氏。仮想デスクトップとは、データセンターのサーバ上でOSやアプリケーションを実行し、PCからそこにアクセスして利用するという仕組みだ。PCはあくまでも仮想デスクトップにアクセスするためだけの端末に過ぎないので、万一PCを紛失してもセキュリティ上の問題が生まれにくいというわけだ。

ただし、友岡氏はVDIの重要性については認めながらも、コスト面での問題を指摘。Amazon WorkSpacesについても利用継続について悩んでおり、「まだまだ検討の余地はある」とした。

◆Chromebook/iPad
コストのかかるVDIに代わる手段として友岡氏が導入したのがChromebookだ。Googleが開発したChrome OSを搭載しており、基本的にクラウドサービスを使うことを前提に設計されたマシンである。

データはすべてクラウドに保存し、作業の大半をWebブラウザ上で行うことを想定しているため、通常のノートPCよりもセキュリティ面の懸念が少ない。ただし、最近はiPadの価格が手頃になったことから乗り換えも検討していると友岡氏。デバイスについては日々新しいものが登場するため、常により良いものを求めて模索しているという。

◆Androidスマートフォン
テレワークに欠かせないスマートフォンについて、友岡氏はGoogleとの親和性の高さからAndroidスマートフォンを使っているという。比較的安価であることも魅力だ。

「ただ、Androidスマートフォンは製品サイクルが早く、OSがアップデートできるかどうかもメーカー次第。iPhoneの製品サイクルの長さを考えると、iPhoneのほうがいいかもしれないと思い始めています。iPhoneは価格の高さが課題でしたが、(次に発売される)SE2(仮称)で価格面の競争力が増すことを期待しています」(友岡氏)

◆Cloud Identity
友岡氏は、ID管理にはCloud Identityを使用しているという。

「一番良いのはActive Directoryですが、全体的な基盤整備となり時間がかかります。Oktaも良いのですが、当社のように『ちょっとアプリにログインしたい』くらいの用途にはtoo muchです。カジュアルに使うなら、Cloud Identityが良いでしょう」(友岡氏)