「何の前触れもなく突然部下が辞めてしまった」
「よかれと思ってやっていたことなのに部下にネガティブに捉えられてしまった」
「忙しくて部下のことまで気遣っている暇がない」
――中間管理職が直面しがちなマネジメントの悩みである。

こうした上司と部下とのコミュニケーションにおける”掛け違い”をなくすべく、2019年5月にオープンβ版としてリリースされたのが、クラウドAIシステム「KAKEAI」だ。

KAKEAI 代表取締役社長 CEO 本田英貴氏

同システムのアイディアは、KAKEAI 代表取締役社長 CEO 本田英貴氏が中間管理職として苦労していた頃の経験がもとになっているという。

本稿では、KAKEAIのサービス詳細やそこに込められた思いに迫る。

部下の特性に合わせた最適なサポート方法をAIが提案

細かく上司が関わることでやる気につながる人もいれば、逆にそれがストレスになって生産性が下がってしまう人もいるだろう。仕事においてやる気が出る条件やストレスを感じる条件などは、人それぞれ異なる。

KAKEAIは、このような個人の特性はドーパミンやノルアドレナリンといった脳内物質が影響しているという考えのもと、従来属人的に行われていたマネジメントを科学的にサポートするというものだ。

KAKEAIを利用する際にはまず、上司も部下も32の質問に回答し、セルフアセスメントを実施する。このセルフアセスメントでは、「仕事において力が発揮されやすい状態」「仕事を進めるうえで重視すること」など、業界や職種を問わずビジネスパーソンが出くわす状況に対する感情や反応を抽出。それらが脳科学のエビデンスに基づいて数値化され、グラフとして表示される。

アセスメントの画面。32項目の質問に回答していく

こうして明らかになった個人の特性はチームメンバーにも公開されるため、このメンバーにはこういう状況においてこのように接したほうがよいなど、上司と部下の関係のみならず、チームメンバー内での対人関係においても行動の参考にすることができる。

メンバーの特性だけでなく、管理職自身の特性も視覚化され、現実に生じるであろうコミュニケーションギャップを認識できるのが大きな特徴

メンバーは一緒に働く他のメンバーの特性を把握して理解を深めることができる

さらにKAKEAIには、「同僚が目の前の仕事に集中できておらず困っているようだ」「人間関係がうまくいってなさそうだ」などといったチームメンバーの状況を、上司や周辺の人にタイムリーに報告する機能も搭載されている。気づきを受け取った上司は、AIのサジェストを受けながら対応を行うことが可能だ。

メンバーの気付いたことを周囲に知らせるための画面

さらに、この対応が効果的だったかどうかについては、月に1度部下が行う「Monthly Hearing」によってフィードバックされる。

こうしたデータはほかの上司にも共有され、ナレッジとしてクラウド上に蓄積されていくため、たとえば似たような特性を持ち似たような状況に置かれた人に対しては、過去に効果のあった対応方法をとるようAIがサジェストするといったことも可能だ。

本田氏は「他人のよいところは積極的に真似していくほうがよいと考えています。将来的には、会社を超えたナレッジを提供できるようなシステムにしていきたいですね」と展望を語る。

またKAKEAIには、上司である現場のマネジャーや部下のほか、現場マネジャーより上位の管理職、人事・経営層も登録可能なため、現場マネジャーの育成やキャリア形成の支援、サポート体制の構築などにもつなげていくことができる。

人事担当者向け画面。メンバーの特性や現状を把握できる

自身が感じた中間管理職の難しさがアイディアのきっかけに

KAKEAIのアイディアは、本田氏がリクルートホールディングスで人事統括室マネジャーを務めていたときの経験がもとになって生まれたものだ。

当時、本田氏が抱えていた悩みは大きく分けて2つある。

ひとつは、人事という業務の限界だ。本田氏は当時、人事制度や風土は全社的に整備されていたのにも関わらず、日常での部下へのコミュニケーションの仕方は現場の上司に任せるしかない状況に疑問を感じていた。

「上司の個人の力によって、部下のパフォーマンスや離職率は変わってきます。また、元気にいきいきと働いていた社員が、人事異動によって活力を削がれてしまったケースも見てきました。人事としては、個人・組織にとってよりよい解を探り続けるべきと考え業務を行っていたのですが、最終的には現場の上司に任せたり、適切な人事配置ができなかったりすることに葛藤があり、人事の限界を感じていました」(本田氏)

もうひとつの悩みは、中間管理職という立場の難しさだ。本田氏自身、中間管理職として自身の部署でのメンバーマネジメントに苦しんでいたという。

「360度評価という上司や同僚、部下からも評価やフィードバックを受ける制度において、部下から自分に対してネガティブな意見をもらってしまい、自分としては一生懸命やっているつもりだったので非常にショックを受けてしまったんです」と本田氏は振り返る。

これがきっかけのひとつとなり体調を崩し、休職することとなった本田氏。しかし、そのときに気づいたことがある。

それは、自分にとっては嬉しいことも、他人にとっては必ずしもそうではないということだ。

「自分にとって嬉しいことは人にとっても嬉しいはずだと考えてマネジメントを行ってきましたが、それは違ったんです。

たとえば、納期が迫っている状況では、自分なら『あと数日間しかないから、お客様視点で今何をすべきかよく考えてね』と言われると力が出ますが、『今はまだ大丈夫だから、落ち着こう』と言って欲しい人もいるんだということに気づいたんです。

自分にとっては嬉しかった言葉でも、それがストレスや成長の阻害の原因になってしまう人もいる。確かに部下の力を引き出している管理職は、相手個人に合わせた対応方法を探り続けていました。しかし私は、自分の成功体験に照らし合わせて、部下にも同様の行動を求めていたんです」(本田氏)

相手個人に合わせた対応方法をとるべきということはわかっていても、具体的な対応方法は非常に属人的で、ブラックボックスとなっている。本田氏は、このようなマネジメントの属人的な部分を科学やテクノロジーで良くしていけるのではないかと考えた。

こうした思いがKAKEAIのサービスコンセプトの根幹となっている。

KAKEAIのサポートで、部下がより力を発揮できるようになった

現在、KAKEAIはオープンβ版が公開されている。すでに大手からスタートアップまでさまざまな企業が導入しており、KAKEAIとしては顧客からの要望をヒアリングしつつ改善を進めている状況だ。

導入した企業からは、「部下には業務を任せることが大事だと思ってこれまで対応してきたが、KAKEAIのサポートによって細かく目標を設定したことで、部下がより力を発揮できるようになった」「これまで気づけていなかったメンバーの変化に気づくことができ、フォローに入れるので助かっている。突然辞めてしまう人をなくすことができそう」などという声があるという。

まさに本田氏が中間管理職のマネジャー時代に悩んでいたことを解決するツールへと育ってきているKAKEAI。今後は市場拡大に向け、製品化を進めていきたい考えだ。実際の現場での課題を代表自身が身にしみて実感しているからこそ生まれてくる新しい機能に期待したい。