前回、製品選定・購入する前に検討すべきことについて説明しました。それを踏まえ、今回と次回は、具体的な製品名を交えながら、自社にあった最適なアプリケーションを選ぶためのポイントを見ていきます。

今回取り上げる4つのCRMアプリケーション

今回紹介するCRMアプリケーションは、「Salesforce.com」、「Oracle CRM on Demand」、「Microsoft Dynamics CRM Online」、「Zoho CRM」の4製品です。本連載では、これらの製品の単純な比較をするつもりはありません。いずれも顧客管理のためのツールなので、基本的な機能はほとんど変わらないからです。今回は、自社に合ったアプリケーションを選ぶために「ツールを使う目的やゴールをはっきりさせる」という視点から、ニーズに合った製品・サービスとは何かを考えてみます。以下にそれぞれの特徴について簡単にまとめたので、まずはざっくりとした雰囲気をつかんでください。

Salesforce.com

CRM製品として最も有名、かつ最も認知されているブランドと言って過言ではないでしょう。大企業から中小企業まで、あらゆる組織規模のユーザーに協力で包括的なCRMソリューションを提供し、豊富な実績を持っています。モバイル利用、ソーシャルとの連携、Chatterによるユーザー同士のコミュニケーションも可能です。

Oracle CRM on Demand

世界中の企業で利用されており、特に医療やハイテク、自動車、保険業界において確固たるポジションを築いています。レポーティングと分析系機能が充実しているほか、事前定義されたレポートが豊富に用意されており、導入後すぐに利用することができます。

Microsoft Dynamics CRM Online

Microsoft Officeユーザーにとっては、非常になじみやすいUI/UXを備えています。そのため、ユーザーの受け入れやすさとしては他のCRM製品に大きく差をつけていると言ってよいでしょう。標準レポート機能も提供されていますが、ウィザード形式で新しいレポートを作成することも可能です。レイアウトが固有のレポートは、SQL Server Reporting Serviceを使って自由に開発することができます。レポートをExcelに出力できるなど、マイクロソフト製品との親和性の高さが特徴です。

Zoho CRM

無料プランであれば10ユーザーまで無料で利用可能など、相対的に見て非常に安価で利用できます。あまりコストをかけられない中小企業や、スポット利用したいタイプの方に最適です。他のCRM製品と比較しても遜色ない機能群(マーケティング、営業、顧客サポート、在庫管理など)により、幅広い業務エリアがカバーされているため、費用対効果が高いと言えます。営業管理プロセスのみならず、見積もり、受発注、請求までの業務に対応しているのも特徴です。その他にも、外部ソーシャル連携機能などを備えています。

ツールを使う目的やゴールをはっきりさせる

前回、CRMアプリケーションを導入する前に、自社の営業活動プロセスを整理して、どの部分を改善すべきなのか検討しておく必要があることを説明しました。「商談から受注までのプロセスを改善したい」とか、「より上流工程のマーケティング活動の部分を改善したい」など、企業の状況やニーズによって、適切なCRMアプリケーションは異なります。場合によっては、CRMアプリケーションでなくても良いことすらあります。

バラバラのデータを一元管理したい!

例えば、各営業担当者、あるいはチームが独自にデータを管理していて、それを企業全体/部門全体で管理したい、つまり顧客情報をデータ化して一元管理したい場合はどうすれば良いでしょうか。もし本当にこの部分だけをシステムで管理したいのであれば、どのCRMアプリケーションでも可能です。CRMアプリケーションの基本機能なので、この要望を満たさないものはもはやCRMアプリケーションとは呼べません。

また、経理部であればその企業の取引をすべて把握しているわけですから、受発注や財務会計のためのシステムやERPでも統合管理は可能です。ただし、顧客情報や受注状況といった特定のデータのみの管理になります。また、こうしたマスター管理の場合、取引先企業のデータ管理には注意が必要です。登録する人によって企業名を略称や通称で入力してしまったり、事業所が複数ある場合に別の企業として登録してしまったりすることがあります。データ自体の管理を雑にしてしまうと、いざ利用したいときに大変です。こうした場合は、企業データを提供するサービス(帝国データバンクやランドスケイプなど)の利用も同時に検討すると良いかもしれません。Salesforce.comであれば、Data.comから企業情報フィードを使うという方法もあります。

情報を記録して、共有したい!

次に、営業活動(訪問履歴や日報など)の記録と共有を目的として使いたいケースを考えてみましょう。これもCRMアプリケーションの基本機能なので、どのCRMアプリケーションでも可能です。ただし、企業規模や営業担当者の人数にもよりますが、チームや部門内だけで共有したいのであれば、MS Officeで十分なこともあります。Google AppsやOffice365のようなクラウド・サービスで使うと、同じ顧客データを保管しているスプレッドシートを共有したり、同時編集したりといったことが可能です。

さらに、モバイルでも使い勝手の良い入力テンプレートを作成しておけば、利用者(営業担当者)の負担も減り、きちんとした記録を保存、共有しておくことができます。また、商談で会った相手や、取引先の担当者、責任者の関係を把握するために、名刺管理をベースにしたsansanのようなサービスの導入でも十分かもしれません。

顧客開拓プロセスを改善したい!

一方、プロセスの上流である顧客開拓の部分を改善したい場合、マーケティング・キャンペーンの管理や、そのキャンペーンと顧客行動のデータを連携させられる機能があると良いでしょう。例えば、「どの顧客がどのキャンペーンから獲得できたのか」、「どのキャンペーンが有効だったのか」といったことを把握したり、見込み顧客へDMを送信したりする機能です。マーケティング・オートメーション的な機能、もしくはLINEやTwitter、FacebookなどのSNSツールと連携させたい場合には、Salesforce.comやZoho CRMなどが特に充実した機能を持っています。

違う観点から考えてみる

先述のとおり、特殊なニーズがある場合を除いて、主に営業管理のプロセスを改善したい場合、各アプリケーションの機能を比較してもあまり意味がありません。もちろん細かい違いはありますが、優劣にそこまで差がないのです。そうした場合は、別の観点からも自社に合ったアプリケーションはないか検討してみましょう。自社がどのような属性を持つのか、顧客の性質はどうか、システム管理面はどうかといった具合です。

例えば、日々のレポートやデータを分析して意思決定を行いたいというニーズが強い場合、使い勝手の良し悪しやテンプレートの数/種類、マニュアルなどの資料やトレーニング環境が整っているかどうかといった観点で選びましょう。分析機能に重きを置きたい場合で、大量の顧客関連データがある場合、CRMアプリケーションよりは、専門の分析ツールの導入を検討すべきです。

また、「MS Officeが大好き」という企業であれば、Microsoft Dynamics CRM Onlineが良いでしょう。こういった業務ツールを導入した際にありがちな「ユーザーがなかなか使ってくれない」、「使い慣れないUIでストレスがたまる」、「IT部門への問い合わせが増える」といった問題を軽減できます。

中堅中小企業、あるいは個人事業主などで顧客が少ないのであれば、Excelでも十分な可能性がありますし、営業担当者が少ない場合は、Zoho CRMの無料プランをパイロットプロジェクトとして使ってみるのも手ではないでしょうか。

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今回は、「ツールを使う目的やゴールをはっきりさせる」というテーマの下、自社に合ったCRMアプリケーションの選び方について、具体的な製品やサービスを紹介しながら解説しました。次回は、「どのように購入するか」という視点から選ぶ方法について説明する予定です。

長谷川 雅宏
日本オラクル株式会社を経て、2008年ピープルデザイン株式会社を設立。CRM、ERPなどの基幹システムの導入コンサルティングやプロジェクトマネジメントと、アドテクノロジーをベースとしたデジタルマーケティングの領域における導入プロジェクトや新規事業開発の支援などを通じて、ITを活用した今あるべき業務スタイルの提案を行っている。