6月12日~14日、年次カンファレンス「Interop Tokyo」が開催された。その基調講演には、元ラグビー日本代表 主将 広瀬俊朗氏と、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授 / ロケーションビジネスジャパン実行委員長 神武直彦氏が登壇。「ラグビーワールドカップ100日前! ロケーションデータがスポーツにもたらすインパクト」と題し、日本のラグビー界のデータ活用状況やその効果について解説を繰り広げた。

神武直彦氏(左)と広瀬俊朗氏(右)

根性論だった世界から「根性+データ」へ

競技スポーツにおいて、ロケーションデータを活用する動きが進んでいる。ロケーションデータとは、GPSに代表される測位衛星システム(GNSS)で得られる位置情報のこと。選手が受信機を持って試合やトレーニングを行うことで、選手の動きを把握して、競技力の向上やけがの防止などに役立てる。

米国の衛星を使ったGPSは測位精度が数十メートルだが、GPSとは異なる衛星を組み合わるマルチGNSSによって精度を数センチメートルにまで向上させることが可能だ。GNSSには、ロシアの「GLONASS」、欧州の「Galileo」、中国の「BeiDou」、インドの「NAVIC」などがある。日本でも2018年4月から準天頂衛星システム(QZSS)「みちびき」の運用を4機体制でスタートさせた。すでに農業や道路管理、除雪、海洋土木工事などの分野で実証実験、試験運用が行われており、2020年の東京オリンピック/パラリンピックでは自動運転などにも活用される予定だ。

神武氏によると、かつては価格面、データが安定しないなどの性能面、スタジアムやアリーナの環境に依存するといった面で課題があったという。しかし、現在は、受信機の性能向上やマルチGNSSによる精度向上などもあり、スポーツ分野での活用が広がっている。神武氏は、日本ラグビーの発祥の地とも言える慶應義塾大学でロケーションデータの研究に取り組む一方、商用利用に向けたさまざまな取り組みを実施している。

マルチGNSSによる測位

「特にラグビーでは、日本代表をはじめ、トップリーグ、大学の体育会での活用がこの1~2年でかなり進みました。以前は試合が終わった後に分析していましたが、精度や性能が良くなったことで、試合や練習のなかで選手の移動距離や加速度を分析することもできるようになっています」(神武氏)

日本のラグビーにおいてロケーションデータが利用されるきっかけの1つとなったのは、日本代表の取り組みだ。2011年にヘッドコーチに就任したエディ・ジョーンズ氏らが、オーストラリアで先行していたGNSS活用を日本に持ち込んだ。同氏の下で日本代表のキャプテンとしてチームをリードしたのが広瀬氏だ。

「それまでの実績もあり、僕らは世界では勝てないと思い込んでしました。そんななかジョーンズ監督は『Japan Way。君たちにしかできないことがある』としてさまざまな取り組みを進めました。その1つがGNSSでした。GNSSを用いることで練習の組み立てが大きく変わりました」(広瀬氏)

GNSSの受信機は、ジャージ背面の背番号の上部付近に装着されており、練習や試合中も常にデータを収集している。

ジャージ背面の背番号の上部付近(黒丸部分)に受信機を装着しているという

「それまでは、漠然と強い、速い、経験があるといった感覚で捉えていたため、どうリーチしていくかが見えていませんでした。GNSSでデータを取ることで、対戦国上位の人は1試合にこれだけ走っている、加速の回数は何回といったことがわかります。それと同じレベルになるには80分間のトレーニングのなかで何をやらなればならない、といったことが具体的に見えてきたのです」(広瀬氏)

例えば、練習の組み立ては、日本代表は「ラスト20分が弱い」と言われてきたことから、最初の20分は強度を挙げ、途中の40分間はミドルで、最後の20分間は再び強度を上げるといった組み立てにして、1年間繰り返したという。2013年6月にヨーロッパ王者のウェールズに23対8で歴史的な勝利を挙げた背景にもこうしたデータを中心にした目標の設定と練習の組み立てがあった。

「なかなか上位にたどり着けなくても、データを裏付けとして自分たちの成長が見える。今までアナログな根性論だった世界から、根性+データにより、主観的かつ客観的に取り組むことができるようになりました。データを信用していたので、オールブラックス(ニュージーランド代表)に相対しても物おじしなくなりました。加速で優れていると言われる選手と同等の加速ができることを知っていたからです」(広瀬氏)