デジタルビジネスを加速するためのアナリティクス導入に役立つ知見を紹介している本連載。今回は、アナリティクスを推進していくうえでの視点と手順を解説していきます。

アナリティクス推進の視点

前回述べたような落とし穴に留意してアナリティクスを推進していくには、バランスをとった広い視点で取り組む必要があると考えています。下表に、特に重要と考える5つの視点を紹介します。

戦略・組織 プロセス・KPI 人材 技術・基盤 データ
トップの理解
事業戦略
推進組織・体制
KGI/KPI設定
対象業務領域
分析手法
アジャイル開発
人材育成
スキル定義
内製/外注方針
トレーニング
アーキテクチャ
ツール選定・標準化
クラウド利用方針
ツール評価選定
データ基盤
メタデータ管理
データ品質
データガバナンス
データ準備

推進のステップ

アナリティクスの取り組みを効果的に進めるためには、いきなり大規模なシステム投資や組織改革に着手するのではなく、初めに短期間で全体を概観した上で、スモールスタートから段階的に拡大していくアプローチが有効です。

具体的には、以下に述べる5つの取り組みを順次進めていくことを推奨しています。

(1) ロードマップ策定

まず、全体を俯瞰して取り組みの対象と順序・優先順位を適切に関係者と合意するために、中期的なロードマップを策定します。

現状の自社の状況を棚卸しした上で、目指すゴール・目標を設定し、実現に必要な施策を抽出し、優先順位付けします。この中で、第一ステップとしては、ビジネスの優先順位が高いテーマで、かつ短期で成果の見えやすい施策(クイックヒット)を組み込みます。

例えば、全社でのデータ活用推進に向け、「現状では個別バラバラに管理されている経営指標を一元的にダッシュボードで可視化する」「顧客データを分析し、データに基づくマーケティング施策検証のトライアルを実施する」といった取り組みなどが考えられます。

(2) プロトタイプ

アナリティクス導入後の具体的イメージを関係者、特に上位層から理解を得るため、および最新のテクノロジーを活用して具体的にどのようなことができるのかを明らかにするため、机上の計画のみでなく、目に見えるプロトタイプを構築します。

またこの活動を通じて自社のデータやプロセスの課題、求められる技術要件について具体例をもって理解することができます。

プロトタイプは、スピードを優先するために、アナリティクスの効果を訴求するのに最低限必要な範囲に絞り、例えばデータ自動連携するDWHの仕組みを構築するのではなく、CSVファイルなどにより手作業でデータを収集し加工します。可能な限りクラウドを活用するなど短期間で実施する工夫も加え、セルフサービスBIツールを活用したダッシュボードなど、具体的な活用イメージのできるアウトプットを作成し、関係者へ共有します。

(3) 推進体制整備

プロトタイプの結果をもって活動を早期横断で展開していくことへの承認・支持が得られれば、データ活用を推進するためのチーム体制を設置します。従来、BICC(Business Intelligence Competency Center)ACE(Analytics Center of Excellence)という呼び方がされていた場合もあります。

設置の形式として、「業務部門の中で役割を設置する」「IT部門に役割を設置する」「独立した新組織を設立する」、などの選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあるので、自社の現状組織にあった体制を検討します。

また、推進チームの役割として、旗振り役に徹するのか、現場のデータの分析・活用をサポートするまでの役割を持たせるのか、あるいは現場のリクエストに応じデータ分析作業自体を請け負うリソースを確保するのか、といったレベル感を、目指すデータ活用のレベルと現場のスキル・リテラシを踏まえて決定します。

(4) 活用基盤整備

推進体制と並行して、全社でアナリティクスを推進するにあたってはデータを活用するための共通基盤整備も必要です。

具体的にはデータの収集・統合、蓄積・加工、分析・活用をそれぞれ実現する基盤を用意します。なおここでは、実際に活用するマスタやトランザクションのデータだけでなく、そのデータがどこで発生し派生してきたか、そしてどのような意味を持つのかといった「メタデータ」も含みます。

共通基盤を整備する一つの目的は、標準化です。

データ活用領域の技術進化は日進月歩であり、選択肢が極めて多くなっています。そのため、プロジェクトごとに選定・評価を繰り返すのではなく、標準化により使用する技術・ツールを決めてノウハウやリソースも集中させるというアプローチが有効です。

ただし注意すべき点は、ツールを決めてしまうと、必ずしも個別プロジェクトの目的に最適でないケースや、より先進的なツール・技術が普及したときに乗り遅れてしまうなどの弊害があり、複数選択肢の提供、例外管理や標準の更新プロセスを注意して設計する必要があります。

もう一つの目的は、データ活用の俊敏性です。

活用するデータが必要になる都度、データソースを特定し、システム連携、インタフェースを検討・開発したりデータ抽出作業を依頼したりしていては、ビジネスが求めるスピードに追随できなくなるので、ビジネスが要求する前にあらかじめデータを入手できる基盤を用意しておくという視点です。

ただし、この点は先に述べた「手段の目的化」と紙一重であるため、ロードマップ策定とプロトタイプを通じて、「ビジネスニーズのあるデータと提供手段」を明確にしておくことが求められます。

(5) 運用・定着化

推進体制とデータ活用のための基盤を整備したら、ロードマップ上で計画しているレポート・ダッシュボードの構築、顧客向けサービスへのアナリティクスの組み込み、ユーザ部門の分析スキルアップのためのトレーニング・定着化など、個々の施策を進めて行きます。

この取り組みは、当初はデータ活用推進組織が旗振り役となって進めていくことが必要ですが、究極的には各部門・各現場で通常業務としてデータ活用が企画・実行され「文化」として定着するよう、現場への啓発とプロセス改善、トップ層の巻き込みを継続的に実行していくことが必要です。

以上、アナリティクスの取り組みを進めるための具体的な注意点や視点を紹介しました。これらを参考に施策を計画・推進することで、取り組みの成功率を高めることができると考えています。

<今後の連載予定>

  • アナリティクスに取り組む意義
  • アナリティクス推進、4つの落とし穴
  • アナリティクス推進、5つの視点と5つのステップ(本稿)
  • データビジュアライゼーションとセルフサービスBI
  • インダストリー4.0/IoTとアナリティクス
  • デジタル・ロジスティクスにおけるアナリティクス
  • アナリティクスを支えるプラットフォーム
  • アナリティクスを支える組織とガバナンス

著者紹介


新田 龍 (NITTA Ryo)

- 株式会社NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部 デジタルコンサルティング統括部 部長

2000年にNTTデータに入社し、2007年には北米拠点に赴任し現地企業へのBI導入に従事。その後一貫して、グローバル企業のBI・データウェアハウス導入の構想策定・導入・定着化コンサルティングを担当。2016年より現職。