本連載では、主に企業におけるIT部門の読者を念頭に、デジタルビジネスを加速するための全社・部門でのアナリティクスの検討・導入に役立つ視点を紹介していきます。

今回は、アナリティクスの取り組みを検討し、全社もしくは部門の施策として立ち上げるにあたって、あらかじめ注意しておくべきポイントや進め方の指針になる考え方を紹介します。

アナリティクスの範囲

本連載でのアナリティクスとは、多種・大量のデータから組織としての意思決定の質とスピードを上げるための技術・ツールやデータ活用の取り組み全体を指しています。

従来ビジネスインテリジェンスといわれてきたデータの可視化・分析、レポーティングおよびダッシュボードや、ビッグデータを蓄積・活用するための仕組み、さらには統計解析や機械学習による意思決定の(半)自動化を含んでいます。特に、ビジネスに貢献する取り組みであるかという点を重視しています。

アナリティクス推進上の落とし穴

アナリティクスの取り組みを立ち上げ推進する企業の中で、周囲の理解が得られず施策が思うように進まない、あるいは一通りの取り組みを実施したものの活動が定着しなかったり、ツールを導入したものの使われないまま塩漬けになったりと、問題に直面している例が少なくありません。

そのような局面に陥る原因は、筆者の経験上、多くが以下に示す4つのパターンに集約されると考えています。

(1)トップの理解不足

アナリティクスの推進は、経営層や部門長の支持と意欲が極めて重要です。

アナリティクスの価値は定量的効果として示しづらく、また規制対応や基幹システム刷新と異なり、周辺施策との依存関係が少ないため、予算確保自体が難航しがちであり、また一度計画しても緊縮策等で延期や投資カットの対象にもなりやすいという傾向があります。

その一方で先進事例が喧伝されており、過大な期待値ばかりが抱かれて自社の取り組みが追いつかず、失速するというケースもあります。

トップ層の支持と適切な期待値をコントロールするための活動が重要になります。

(2)技術偏重

スキルと体力のあるIT部門が取り組みを主導する場合に多いのが、技術偏重による「手段の目的化」です。

アナリティクスの領域は、今後紹介するセルフサービスBIのツール群や、Hadoop、NoSQLデータベースのように大規模データを処理できるテクノロジーなど、技術進化が速く次々と新しい技術・製品が登場するため、それらにキャッチアップして検証・検討するだけでも大変です。IT部門として先進的な取り組みも求められる中、そのような新技術の導入自体が目的になってしまうことがあります。

しかしながら、ビジネスに活用されない技術を導入しても宝の持ち腐れです。IT部門主導でビッグデータ基盤を構築したものの、構築後に活用してくれる業務部門が見つからず苦労している、という例が散見されます。

業務部門の戦略・目標に沿ったデータ活用シナリオ(ユースケース)を技術検討と並行して検討する取り組みが不可欠です。

(3)技術力不足

前項と反対に、技術力の不足により行き詰まるケースもあります。

データ分析・活用は、定常業務から独立した「無くても困らない」プロセスであることが多く、ツールや情報システムを業務ユーザから使ってもらうには、使い勝手や高速なレスポンスが特に重要になります。

本来、使い勝手と性能を担保した分析環境を提供するには、全体アーキテクチャの検討に基づき、使い方・目的に沿ったツールの評価選定とデータモデリングが必要です。ところが、最新ツールのうたい文句を鵜呑みにし、「これさえあれば何でもできる」と過度に期待して安易にツールを導入してしまうと、期待した使い勝手や性能を得られず、「ツールが使えない」という誤った悪評に帰し、取り組みそのものを失速させてしまいます。

取り組みを成功させるには、各技術の特性・制約・限界を見極めて組み合わせ、全体俯瞰したアーキテクチャとデータモデルを描ける人材・スキルの確保が必要です。

(4)データマネジメント課題

もう一点は、データ自体が分析・活用に耐える状態になっていない、データ品質やガバナンスなど、データマネジメントの問題によるものです。

セルフサービスBIツールを導入して分析を始めようとしたら、データが汚くて分析どころではなく、データのクレンジングに立ち戻って取り組むことになったり、必要なデータが散在するために膨大な手作業による加工・集計が必要になったりというケースが、多く見られます。

データマネジメントには入力、チェック、メンテナンス(最新化)、廃棄までのライフサイクルを捉えた包括的なアプローチが必要であり、本格的な取り組みには長い時間と地道な努力が求められますが、データ活用が企業の競争力を左右する昨今、無視できない活動になってきています。

データマネジメントの参考となるフレームワークとして、米国のDAMAがDMBOK(Data Management Book of Knowlege)を提供しています。また日本国内においてもJDMC(Japan Data management Consortium)において業界横断で企業のデータマネジメントの課題解決の取り組み・情報発信が行われています。このようなリソースを活用して、自社の取り組みをレベルアップさせていくことが可能です。

<今後の連載予定>

著者紹介


新田 龍 (NITTA Ryo)

- 株式会社NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 コンサルティング&マーケティング事業部 デジタルコンサルティング統括部 部長

2000年にNTTデータに入社し、2007年には北米拠点に赴任し現地企業へのBI導入に従事。その後一貫して、グローバル企業のBI・データウェアハウス導入の構想策定・導入・定着化コンサルティングを担当。2016年より現職。